Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(150)

 二日も三日も大差なかろうに。
 「…まあいいか。課題のレポートやってたら、身繕いにかまってる暇、ないよね。……卒業祝い、先払いしてるんだから、卒業できなかったら、…怒るよ?」
 「卒業祝い?」
 …って、えーと…
 「ああ、いけない。これじゃ傍から見たらまるっきり「いちゃついてる」ように見えるよね?おばあさまに後でからかわれちゃう。あのひと、自分の事を棚に上げるのが得意だから」
 「…棚上げ?」
 「傍から見てると、鬱陶しい位に仲がいい夫婦だって話はしたっけ?」
 「…聞いた事があるような、無いような」
 口の奢った育ちの夫のために、手の込んだ料理を作るとか、いいうちの息子と婚約が調ってたのに、駆け落ちして一緒になったとかいう話は覚えているが。
 実家に呼び出されて出かけたきり、行方不明になってしまった夫の居所が判ったので、自分で取り戻しに外国まで出かけよう、という現在の状況もまあ、仲の良い証、と言えなくもないか。
 「まあ、祖父が虚弱体質だって言うのもあるんだろうけどね。で、この季節は特に、いつも一緒に居るんだけど…」
 「けど?」
 「何か理由があって、祖父と一緒に居られない時には、若い夫婦や恋人たちをからかうのが生きがいみたいになる。……若くても、開き直ってるような人たちは、あまりからかわれない、かな」
 「…なるほど。覚えておこう」
 もう、手遅れかもしれないが。

 ざっと調べたところでは、建物の構造体や、そこに施された呪陣には、異変は見当たらなかった。…まあ、正常な状態を熟知している、という訳ではないので、異変、というよりも、不審な点、というべきかもしれないが。
 「…気のせいだったかな?」
 「いや…気のせいではない、と思う。私もそう感じるし…」
 クリスがそうつぶやいて、ベッドの方に近付く。
 「…ほら、クレメンス大公の額が、少し汗ばんでる。ここの温度は一定に保たれてるって言ってたでしょ?夏に来た時はこんなことなかったのに」
 そう言われて良く見ると、確かに額の生え際にうっすら汗がにじんで、髪の毛が少し寝た感じになっている。よく見なければ気付かない程度、だが。
 「…たぶん、本来の温度に戻ってるんだと思う」
 「本来の?…『温室』の、って事か?」
 「…違いますか?おばあさま」
 クリスが傍らにいる祖母の方を向いて、殊更に大声で言う。
 「そんな大声出さなくても、まだ耳は遠くないから、聞こえるわよ」
 クラウディアが大げさに耳を押さえる。
 「もともとの温度設定がどうだったか、というのが判らないから、私には判断ができない、って言っといたでしょうが。…確かに温室は、人が心地よい、と感じる温度より高めに設定される事が多いけど」
 …事が多い、って…そんなにたくさんの『温室』を知っているのか?
 「私は気にならないけど……クレメンス大公が汗をかくようなら、今の温度は彼には暑いのかしらね?」
 「おばあさまは適温の許容範囲が広すぎます」
 「何か不都合がある?別にあなたに同じようにしろ、と強要した覚えはないけど?」
 「見てる方が寒いんです」
 「だったら見なきゃいいのに」
 …何の話だ?単に普段から薄着だってことか?
 「…とにかく、温度がこれ以上上がったりする虞はないし、他に問題もないのよね?」
 「少なくとも、私とアレクには、判らなかった」
 「だったら、この問題は措いといていいんじゃないの?温度の再調整が必要なら、担当者に報告すればいいだけの話でしょ?」
 「……まあ、そうだけど、ね」
 「だったら、あとちょっとだから、……離れたところで待っててくれる?気を散らされたくないの」
 声は穏やかな様子だったが、後ろ姿からも「邪魔をしたら承知しない」という気配が見て取れ、クリスが怯んだ様子で祖母の横から離れた。
 「……どうやら、思った以上に難しいみたいだ」
 かなりしょげた様子でクリスが呟く。
 「難しいのはわかってたんだろう?だから、知る限りで一番強い魔法を使える人を呼んだんじゃなかったのか?」
 「うん…まあ、そうなんだけど。…問題なのは、魔法を読み解く事、よりも、人間に使える形に翻訳する事、なんだと思う。…何しろ相手は馴染みのない幻獣だから」
 馴染みのない?
 「じゃあ…例えば、仮に…クリスの「ポチ」が施した魔法なら、読み解くのはたやすい、と?」
 「ポチ?なんでポチがここで………ああ、そういう意味なら、「龍」よりは解りやすい、と思う。…今のところ、ポチがそういう事をしてる様子はないけどね」
 それについては、何とも言えないので、意見をさしはさむのはやめておこう。
 ふとクリスが部屋の隅の方に足を向ける。
 「ちょっと、って言ってたけど、どれくらいかかるか判らないから、…座って待とう」
 クリスが向かう先には、夏にここへ来た時に椅子代わりに使った、チェストがあった。相変わらずホコリひとつ積もっていない。

#日記広場:自作小説

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2010/01/29 00:50
ふふふ^^途中まではココログで読んだ内容でした^^。
私も傍からいちゃいちゃを指摘したいです^^。





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