Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(157)

 クリスの祖母だけあって、クラウディアの人遣いは荒かった。……想像以上に。
 高い所の物を出し入れするのは全部俺の仕事だと決めつけられた――本人に言われるまで気付かなかったが、クラウディアはクリスよりも背が低いので――し、顔を見れば暇かどうか訊ねられた。そして暇だと答えようものなら遠慮なく雑用が持ち込まれた。
 どうやら、情報収集も兼ねて、あちこちの雑用を引き受けてまわっているらしい。…彼女の求めている情報がどんなものなのかはわからないが。
 むろん、彼女がここに呼ばれた理由についても同様だ。
 おかげで、人の体の外側と内側を、健康で清潔な状態に保つための技術――魔法を使うものも含む――をきっちりしこまれる羽目になった。クリスを着替えさせるくらいでたじろいでいたかつての自分を、鼻で笑えるくらいに。

 目的の情報を入手したのか、あるいは奪還への糸口を見つけたのか、月が替わるのを待たずに、クラウディアは王宮を去った。孫二人を置き去りにして。
 どうやら、クリストファーの処遇に関しては、父親を入れての三者間で話し合いが何度かあったらしく、「当分の間、こっちに残る事になった」のだそうだ。

 月が替わり、いろいろな事が立て続けに起こった。

 まず、国王が予てから腹蔵していたという、「王位継承者の条件から、金瞳を所持している事、という条件を除く」という件を側近を通して発表し、併せて空位になっていた王太子の選定に入っている事も周囲に知らせた。
 前後して、国王の体調不良が告げられ、公務を大っぴらに休むようになった。代わりに、王妃が摂政として公務の多くを務め始めた。
 それから、…クリストファーにも『金瞳』がある事が判った。あまりにも小さいので、見落とされていた、と考えるのが妥当だと思われる。だが、左目の虹彩、などという、あまりにも象徴的な場所にあった――いつどこで誰が発見したのか、については、聞かない事にしておく――ので、それを知った者たちは頭を抱えた。本人も含めて。
 「……何で今頃になって…」
 「それで、クリストファーも学院入りですか?今なら、春期のクラスにねじ込めると思いますが」
 長椅子に浅く腰かけて、文字通り頭を抱えている本人は措いといて、寝椅子に凭れて腕組みをしているその父親に訊いてみる。
 「いや…今はそういう目立つ事をしたくない」
 「クリスティンだけならまだしも……クライドの後輩になるのはなあ……」
 嘆くところが違う気がする。
 「…それに、それが確かに『金瞳』であるかどうか……『龍』につながるものであるかどうかの確認をする方が先だろう。……だが」
 できる者がいない…か。
 「まあ、そういう訳で、クリスティーナかレイか、どちらかが目覚めるまで、その件は保留、という事だ。…何か兆候はないのか?」
 「残念ながら。…ところで、後継者には誰を指名するか、お決めになっていらっしゃるんですか?」
 水を向けてみると、なかなか本音を見せないご仁があいまいな笑いを浮かべた。
 「さあな。…だが、ふさわしいものを選べれば良い、と思う。自分の事は棚上げしているかもしれんが」

 先に変化があったのはどちらだったろう?とにかく、クレメンス大公の、「看護記録」に変化が生じた日、クリスも目覚めた。……残念なことに、部屋を一時留守にしていたせいで、その瞬間は見逃してしまったが。

 ドアを開けると、枕元にうずくまるリンドブルムを撫でていたクリスと目が合った。
 「……クリス?」
 クリスの目がふっと細められ、弱々しく手が差し伸べられた。
 駆け寄ってその手を掴むと、弱々しいが確かな力で握り返された。 
 「…お帰り。それとも、おはよう、かな?」
 「……ただいま」かすれた声がささやき返し、続いて、「……ひどく空腹なんだけど、何か食べる物、ある?」と唇が動いた。
 「最初はスープから、って指示されてるけどな」
 まず空腹を訴えるクリスが妙におかしくて、空いた手で頭を撫でる。
 「用意してもらうから、ちょっと待て」
 そう言って立ち上がろうとするが、クリスに引き戻される。
 「…だったら、いい。しばらく、ここにいて?…ポチ、ハウス」
 リンドブルムを強制送還したクリスが、手をのばしてきて、俺の肩を引き寄せる。傍から見たら、俺の方がクリスに覆いかぶさっているように見えるんじゃないかと思う。クラウディアがいなくなった後で良かった。
 「…アレクだぁ。本物の」

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