わたしたちが待っている部屋に入ってきた担当の弁護士は、
ちょっと天然っぽい感じのする30歳前後の女性弁護士Cでした。
一通り挨拶を済ませると、C弁護士はちょっと困った表情で
「あのぉ。。。○○ご夫妻は1時間ほど前に来られまして、
今別室で待っていただいているんですが。。。。奥さんのほうが。。。その。。。」
と。
わたしと母は『？』状態。
「先ほど○○ご夫妻とお話しさせていただいたんですが、実は。。。
奥さんのほうが激しく取り乱してまして、会話もまともにできない状態で(×ω×；)
奥さんは今までご主人に頼りきって、おんぶに抱っこで生きてこられたので、
この度の一件のことでは相当なショックを受けられたようなんです( ･´ω`･ )；
事件を知るまでの奥さんの人生は、常に平穏で穏やかで幸せなものだったようで、
今まで1度も仕事なんてしたことがないし、苦労というものも一切したことがないと
奥さんは涙ながらに話してました。」
と、C弁護士は困惑（呆れ）気味。
わたしと母、思わず(´△｀)；な表情に。。。
今まで散々苦労し倒して生き抜いてきたわたしたち親子にとって、
この奥さんの生きてきた人生のなんと甘いことか。ﾊﾞｷｯ!!( -_-)＝○☆)>_<)ｱｳｯ!
母いわく『まるで砂糖にハチミツとシロップをかけたような人生やね(・・;)』
と＾＾；
1日20時間働いて3人の子供を育ててきた母からすれば、
まさに『極楽トンボ』のような甘ったるい人生＾＾
とりあえず、錯乱中の奥さんが落ち着いてから会うことにしました。


しばらくして、女性弁護士Dが入ってきて
「あの、奥さんが落ち着かれましたので、お部屋にお通ししてもよろしいですか」
といいました。
わたしが「どうぞ」というと、犯人・奥さんの順でふたりともうなだれて入ってきました。
部屋の中は緊迫した雰囲気に包まれ、空気が凍りついていました。
わたしたちも立ち上がりふたりのほうを向きました。
ふたりは弁護士に促され、
部屋の中ほどまでくると深々と頭を下げそのまま立ち尽くしています。
奥さんはハンカチを握り締め、とてつもなく憔悴しきった様子。
「奥さん、こちらが被害者の○○さんと、そのお母様です」
とC弁護士からいわれると、
「この度は・・・主人が大変申し訳ないことを・・・。
被害にあわれた○○さんのお気持ちを思うととてもいたたまれなくて、
直接ご本人さまにお会いして謝罪をさせていただきたいと、弁護士の方に
無理を承知でお願いいたしました。
被害直後のお辛い状況にもかかわらず、
わたくしどもの申し入れを聞き入れてくださり本当にありがとうございます。」
と、震える声でいいました。
そしてふたりは「本当に申し訳ございませんでした」と再度深々と頭を下げました。
C弁護士が
「あの、奥さんが菓子折りを持ってこられたんで、受け取っていただけませんか」
といってきたのですが、わたしはスグには受け取らず、犯人の男に向かって
「もう二度と痴漢なんて卑劣な犯罪はしないと約束してください。
もちろん、わたしに対してだけでなく誰に対してもです。
そして、わたしの乗るあの時間の電車には絶対乗らないこと。
駅やホームで姿を見つけても許しません。
この条件を守れますか。」
と、こみ上げる怒りを抑えながらいいました。
犯人は
「はい、もちろん守ります!!
今後○○さんの目の前に現れることは一切ありませんし、
痴漢をすることも金輪際ありません!!
お約束いたします!!」
と頭を下げました。
そして、犯人が頭を上げたとき。。。
最悪なことにわたしはヤツとまともに目が合ってしまいました。
ほんの一瞬の出来事だったのですが、恐怖と嫌悪感で全身に鳥肌が立ち、
筋肉が硬直してしばらくの間、声が出せなくなってしまいました。
わたしはイスの背もたれにつかまって立っているのがせいいぱいの状態＞＜；
ここで初めて
『わたしはこの男に体を触られたんだ!!』
という、実感と怒りと恐怖が全身を走り抜けていったのです。
あまりの憎悪に、正直殺意すら抱きました。
しばし沈黙が続き、
母の「でんちゃん、どうするの？」という言葉に
「○○のしたことは許しませんが、奥さんのためにその菓子折りは受け取ります」
といって菓子折りの入った紙袋を受け取りました。



小柄で上品な感じの奥さんは、
そうとうな落胆ぶりでした。
ずっと信じて頼ってきたダンナが、
痴漢の現行犯で捕まったんですから当然です。。。



　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　つづく