Nicotto Town


こはるびより ⁰㉦⁰๑ 


雑文「失われゆくもの」

どうしようもなく止められず

失われてゆくものがある。

たとえば

自分が、誰か大切な人の記憶から

消えてしまう、ということ。

友だち、恋人、子供、親。

きっとそれはとても哀しいことなんだろうと思う。 



おばあちゃんは認知症でした。

息を引き取る、その何年も前からずっと

息子であるあたしの父の顔を見ても

もう誰だか思い出すことはできなかった。


あの頃あたしが父や祖母に対して感じていた

漠然とした不安や哀しみの正体が

今になって何となくだけど理解できる。

父は寡黙な人だから、

その内面を知ることはできなかったけれど

言い切れない想いがきっとあっただろう

言葉にならない苦悩がきっとあっただろう

そう思う。




愛する者から忘れられること。

それは辛い、考えるだけで。


ニコラス・スパークス著「君に読む物語」の主人公は

アルツハイマーになった妻に毎日同じ物語を読み聞かせる。

それは自分たちの歴史の話なのだけれど

妻はもう夫のことを何一つ思い出せない。

毎朝初対面のように挨拶を交わし、

自分たちの過去の物語を読む夫に

妻は無邪気に話の続きを聞きたがる。

愛するものが、世界で一番愛するものが

自分のことを忘れてしまうという現実。

その耐えられない程の理不尽な運命と

過酷な孤独感に彼は静かに耐えている。



もちろん思い出せない日のほうが多いだろう。

たとえ思い出せてもそれは束の間で、

すぐまた妻は混乱の中に消えていく。



だけど、時々その奇跡は起きる。


「この話はあたしたちの物語なのね・・」


一瞬記憶の中からつたない糸をたどって

戻ってきた正気、だけどそれは

夫の喜びも束の間にことごとく失われる。

だけど、それでも彼は毎日毎日

同じ物語を聞かせる。

その一瞬の奇跡の瞬間を待ち望んで。





愛する人がそばにいて

永遠に自分のことを忘れずにいてくれたら

それは最高に幸せなことなのだろうと思う。

そしてたとえ愛するものが

(物理的にあるいは精神的に)死んでしまっても

記憶の中で思い出すことはできる。

だけど決定的に違うのは

”死んでしまった者の中にあたしたちがいない”

ということ。想いは常に一方通行で

届くことがない。だから切ない。



人を失う、ということは

その人の中にある自分自身を失う

ということなのかもしれない。




人は人との関わりによって

自分の存在を認めることしかできないから

自己の消失を無意識的に恐れている。



忘れて欲しくないから

人はかかわりあおうとする。

時間が経てばきっと忘れられてしまうだろう

そう思うから時々声をかけてみたくなる。


そういう気持ちは分かる、あたしにも。



だから、だいじょうぶだよ。

時々たよりなくて

すごく寂しい気持ちにとらわれて

わけが分からない衝動もあって

声をかけてくるのだとしても


そういう気持ちは理解できるんだ。



確かに胸は痛むけど。

あたしには何もできなくて

してあげれなくてもどかしくて

胸は痛むけれど



ともだちって都合がいい言葉かな。

でも大事。あたしにとっては

ともだちって大事なんです。


あまり言葉を交わさない日が続いても

さびしさ、というぽっかり空いた穴に

吸い込まれるように引き寄せられるように

あなたが寂しいときにはやはり

あたしも寂しい。


そしてその想いがある限り

失われゆくものではない。


そう思ってる。


#日記広場:小説/詩

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2008/11/30 20:57
「大切な人の記憶から消えてしまいたい…」
って思った時期がありました。
だけど、その頃に詠んだ詩をあとで読み返してみると、
「忘れないで」という気持ちがいっぱい詰ったものばかりでした。
失うことの覚悟と怖さが入り混じって、
それから逃げるために「消えてしまいたい」なんて思ってたんでしょうね…情けなぁ。><

「人を失う、ということは その人の中にある自分自身を失う ということなのかもしれない。」
そうですね…失ったとしても、自分の中には「あの人」が存在し続けますもんね。
そう考えると「失う」と「忘れる」って、似たような意味合いで使いがちですが、
その気持ちの方向がまったく正反対な言葉なんですね。

想いは一方通行。
それぞれの想いのベクトルが一致するか、相反するか…
友達ってそういうことなのかな?



良い意味で色々と過去を振り返させられる、とても有意義な内容でした。d( ̄◇ ̄)b グッ♪
ってことで、上手くまとまんなくって、
なんだか締まりがない長々コメになっちゃいましたぁ~ゴメンなさい。・゜゚(>ω<。人) ゴメンチャィ!!
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2008/10/27 21:20
その人が、大切な人であればあるほど切なくなるなぁ。。。 
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2008/10/27 16:57
素敵なお話、ありがとう、こはるちゃん。
シチュエーションは違うんだけど・・・・
マジで号泣しちゃった。私はこの4年間に本当に大切な人を二人失ったの。
だから・・・病気になっちゃった。テヘ
でも、絶対二人のことは忘れない。そして辛さと共に生きていくことに決めました。
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2008/10/27 16:24
思いは一方通行。。。

共感できるところがたくさんあります★

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2008/10/27 16:09
痛いなぁ。
なんか 痛い。
痛いと感じるのは 当たってるからなんだろうな




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