新日本製鐵(ケーススタディ)
- カテゴリ:勉強
- 2009/03/03 23:34:55
一橋ビジネスレビュー2001年春号に掲載されているケースです。
今回は「新日本製鉄」です。
毎度のことですが、状況が現在と異なっている部分があると思いますので
ご注意ください。
新日本製鉄の事業の中の重要な部分に、IT分野があるのをご存知でしょう
か。
鉄の売上高が1980年にピークを迎えた後、鉄依存では会社の将来がない
と感じた新日本製鉄は、将来的に会社の売上における鉄の比率を50%以下
に下げようという目標を立てました。
その中で、当時成長が見込まれる事業として挙げたのがITだったのです。
「鉄鋼とIT?」って思いますね。
新日本製鉄のITサービスの中には、金融機関向けの「統合リスク管理システ
ム」なんていうのがあったりします。金融機関がなぜ鉄鋼メーカーに金融向
けのソフトウェアを発注するのか。
新日本製鉄がIT事業を立ち上げる際に、社内の人材を確認したところ、2000
人のSEと1200人の電子制御エンジニア、関連企業を含めて計4000人以上
のIT人材がいることがわかりました。
また、彼らの作ったシステムの技術水準が非常に高いことがわかり、これら
が新規事業の経営資源となると考えたのです。
人材及びシステムは、高炉の管理や物流などのために自社で活用されたも
のです。
また、高炉を管理するために熟練ノウハウをシステム化した経験が、例えば
熟練ディーラーの取引ノウハウをシステム化し自動化するような作業に応用
できました。
そのほかにも、生産管理や物流管理のために自社で開発したシステムが、
システム事業への応用に役立ったのです。
社内にIT商売に使えるノウハウがある。しかし、新日本製鉄が変化の激しい
IT事業に乗り出していくには、大きな壁がありました。
それは、かつて基幹産業として国家を支え、工場のある地域では土地の経済
を担っていることのプライドです。
新日本製鉄は、希薄な「起業家精神」を醸成するために、ベンチャー企業を
買収し、その企業の社長のもとに若い技術者を送り込みました。
また、新事業の重要性を繰り返し説くと共に、社内ベンチャーを利用しまし
た。
また、従来の新日本製鉄の人事システムでは、ITなどの新しい事業とはあい
入れないと考え、成果主義と能力主義、インセンティブと自律性に基づく新し
い人事システムを採用しました。
IT事業は、別会社として設立されました。新日本製鉄から別会社へ移る場
合、またもどることが可能だということを残す意図で、「出向」という形がとられ
ています。
新日本製鐵本体は、従来からの人事システムを踏襲し、IT事業をおこなう会
社では、新しい人事システムを採用するという、1社2制度がとられることとな
りました。従業員は、鉄部門で働く場合は旧来の人事システムで、新事業で
働くばあいは新事業用の人事システムで働きます。
さて、新日本製鐡が鉄ではない新事業を成功させるために、鉄で培ったノウ
ハウを使うということと、新しい人事システムを導入したということですが、そ
れを可能にしたのは、やはり伝統のある企業であることによる、豊富で優秀な
人材が集まりやすいことなんだろうなと思います。
大企業病などといいますが、そこには大企業だからこそ集まる優秀な人材が
いて、彼らをうまく動機づけることによって、新しい事業が生まれるというケー
スだと思います。