Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


夕焼けこやけの・・・4(クライマックス)


「…そのディトナ、まだ乗ってるんだね…」
「お前こそ、カワサキのゼファー、大切にしているようだな…。もう10年も前のモデルだってのに…」
「フッ…。あんたこそ、中古に出さずにちゃんとメンテしてるのが丸わかりだよ…。恥ずかしいね…。お互い思い出にしがみついちゃってさ…」
「…ふん。まったくだ…」

PM23:00。にこっと埠頭全体に、壮大な爆音のファンファーレが奏でられている。全国各地から集まった走り屋達が鳴らす、バイクのスロットル音だ。

耳を聾する凶暴な音楽の中で、蒼雪だけは、両親が話す言葉が不思議と届いていた。

漆黒のライダースーツに身を包んだ父、雪斎と、全国制覇の証である深紅の特攻服を凛々しくまとった母、町子。2人はそれぞれ、蒼いディトナと純白のゼファーに跨っている。

町子の親友である関東土建連合会総長安田が、会議にて2人の決着方法に、このレースを提案したのである。
どこか含みをこめて2人を見つめていたが、やがて、腕にはめたロレックスをちらりと眺めやる。時計の針が0時ジャストになった時、蒼雪の運命を賭けたチキンレースが始まる。


礼子によって海に放り出された蒼雪は、運よく近くを通りかかった漁船に拾われた。
病院に搬送するべく埠頭に立ち寄った船を雪斎が発見し、そこで父と息子は運命の再開を果たしたのである。

そして、町子がやってきた。目的はただ一つ。息子である蒼雪を取り戻すためだ。
封印していた現役時代のバイクと特攻服を引っ提げて、元夫の所へやってきた覚悟はいかばかりか。
町子は普通の生活を送りたがっていた。それは蒼雪が一番よく知っている。雪斎と別れた理由もそこにあったのだと、ある冬の晩、珍しく酔っ払った母がぽつりともらしていた。

初めはお互い、敵同士だった。東下北畜産連合会と、南房総水産連合会は、北と南の縄張り争いに加え、肉と魚どっちが栄養に優れているかで、長く骨肉の争いを繰り広げていた。
しかし、同じバイクを愛する者同士として、いつしか惹かれあっていた町子と雪斎。
やがて町子は蒼雪を身ごもったが、雪斎に告げることなく走り屋界を去った。
雪斎は嘆き悲しみ、興信所まで雇って行方を追ったがついに親子を見つけることはできず、悲嘆のまま彼もゾクから足を洗ったのである…。


「あんた、あたしと別れた後、あっさり吉田グループの跡を継いだね。どうだい? 高い所は気持ちいいかい? さぞ見晴らしがいいだろう」

目がくらみそうなほどのおびただしいヘッドライトの光に埋もれることなく、町子の深紅の姿は跨った愛車のゼファーと共に神秘的に浮かび上がっていた。

「…そうだな。おかげで、やっとお前たちを見つけられたよ。…俺は、お前達の太陽になりたかったから」

口髭に飾られた口元を苦く弛めて雪斎は笑う。はっ、と町子も皮肉な笑みを浮かべた。

「あんたの噂は嫌でも耳に入ってくるよ。テレビをつければ吉田グループのCM。いつだってあんたの存在を見ない日はなかった。…太陽とはよくいったもんだね」

「…町子。俺は本気でお前に惚れていたんだぜ」

「な、なんだい急に」

ふいに向けられた真摯なまなざしに、町子のきつい化粧をした目が丸くなる。雪斎は穏やかに微笑んで言った。

「男でも乗りこなすのが難しいゼファーを、お前は軽々と乗りこなしていた。バイクと会話して、風と戯れているお前の姿を見つけた時、俺のハートが囁いたんだ。こいつが俺の嫁だってな」

「…恥ずかしいこと言ってんじゃないよ。あんた、そこは昔から変わらないねェ。あたしがあんたに惚れたのは、そんな歯の浮くようなセリフのせいじゃないからね」

「嬉しいね。やっぱりお前は俺の見込んだ女だぜ」

「ふん。言ってな。あたしは男に惚れられてなんぼなんだよ」

ニッと真っ赤なルージュを引いた唇を持ち上げると、町子はまっすぐ前に向き直った。300メートル先には、真っ暗な海が広がっている。

「そろそろ時間だ。あんたも覚悟決めな」

「…そんなもん、お前に言われるまでもないさ」

「蒼雪には吉田の跡を継がせない。あたしは、そんなことのためにあの子を産んだんじゃないんだから」

「…町子…」

雪斎が言葉を継ごうとした時だった。時間だ、と安田が右手を天に向かって振り上げる。

「2人とも準備はいいか。どっちが勝っても流血沙汰はなしだぞ。――それじゃ、いくぜ!
…レディー、ゴ―!!」

ヴァン!!

安田が手を振り下ろした瞬間、弾丸のごとく2台のバイクが飛び出した。蒼雪は息を呑み、祈るように両手を胸の前で固めていた。

(お父さん、お母さん…死なないで!)

2台のバイクは火花を散らして疾走する。どちらもまだブレーキをかける気配はない。

最後までブレーキをかけなかった方が勝ち。恐ろしくばかばかしい真似だと、誰もが眉をひそめるだろう。
しかし2人は真剣だった。そして、この場に居合わせた全員も。

2人のバイクが岸壁に迫る。蒼雪は叫んだ。

「お父さん、お母さーーん!!」


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2010/11/28 19:06
イカズチです。

更新情報がないので見過ごしてましたが、いつの間に完結?

しかし、『北と南の縄張り争いに加え、肉と魚どっちが栄養に優れているかで、長く骨肉の争いを繰り広げていた』
喧嘩の原因がミクロ単位でみみっちく笑えます。

さて最終回読みに行こ~。
アバター
2010/11/27 21:03
井上さん、今回もテキスト大感謝~(´∇`)ノ

おお、またも俺の予想外の展開になっている!
井上さんのお話はビジュアル的にかわいい上に楽しすぎて、こちらも妙に気合いが入りますww

今回も字数2000ジャストっした。伸ばさないで終わる覚悟なので、次回でどんなに無理があろうと終わらせます!

ラストまでのストーリーを書きますので、最後の最後は井上さんが締めてくださいっす。
よろしくお願いしますぜ~(^∇^)



アバター
2010/11/27 17:44
♪うゎ~ Σ(・ω・ノ)ノ こんな大事な所で、終わってる!って事は、結末を私が? ( ´艸`)

2人のバイクは、すでに限界地点を越えていた…

雪斎 「チッ 町子メ! (+・`ω´・) 死んでも、渡さない気か! 」

父・雪斎は、ブレーキをかけた!うぉぉぉー ヽ(#`Д´)っ 必死!

町子 「フッ (- ェ -。) ☆彡 」 勝利を確信した町子だが…

同時に海の藻屑となる事も、逃れられない事実だった。

蒼雪 「お母さーーん! (゚д゚ ) 」 轟く爆音!ブォーーーーーン

真っ暗な海の向こう側へ… 深紅の特攻服が、消えて行った。 …つづく



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