夕焼けこやけの・・・5 (最終回)
- カテゴリ:日記
- 2010/11/28 14:24:54
「お母さーーん!」
「町子ぉーーー!」
母、町子の姿が夜の海に消えた時、父と子の声が同時に重なった。
雪斎のバイクは、岸壁に前輪を乗り上げて止まっていた。しかし、町子の愛車は恐れることなく主人を死へと運んだのだ。
「町子…そこまでしてお前…蒼雪のことを取り戻したかったのか…」
茫然と安田が呟く。雪斎は無言で海を凝視している。
――と、海に向かって走る小さな影がいる。蒼雪だ。
安田はぎょっとして子供を捕まえようとしたが、蒼雪は無骨な腕をすり抜けて、ためらうことなく真っ暗な海へと足から飛び込んだ。
「蒼雪!」
妻の取った行動に我を忘れていた雪斎も、はっとして息子の後を追う。安田が何か叫んでいたが、雪斎の耳には届かなかった。
「あの野郎ども…血は争えないねぇ…。――おい!」
安田は渋く笑うと、近くにいた部下に何事かを命じた。
真っ黒な水が、蒼雪を押し潰そうとする。ごばっと、リスよろしく頬袋に溜めていた空気が、塊となって唇から溢れ出した。慌てて口を閉じ、蒼雪は懸命に水底へ目を凝らした。
(お母さん、どこ…?!)
すると、蒼雪の一念が通じたのか、彼から数メートル先に赤い服らしきものが揺らめいた。
きっと町子の特攻服だ。
蒼雪は母のもとへ行きたい一心で、全力で水を掻いた。溺れる恐怖で小さな心はパニック寸前だったが、母を助けたい意思がそれに勝る。ついに、蒼雪は母の特攻服の襟を掴んだ。
やった、これで助かる。蒼雪はほっとした。
だが。
ぐんっと体が海底の方に引っ張られる。蒼雪は本当にパニックになった。
(お、重いっ…!)
大の大人でも溺れた人間を水から助け上げるのは困難だ。当然、小さな蒼雪が気絶した大人を水面まで引き上げるのは不可能に近い。
(…嫌だ、死にたくない…!)
蒼雪は狂ったように足をばたつかせた。しかし、水は蒼雪と町子を返したくないようだ。必死で浮上しようとする蒼雪を、じわじわと海底へと引きずりこんでいく。
がばっ、と蒼雪は最後の空気を吐き出した。もう死ぬのか。幼い脳裏に、今日2度目の諦めが浮かんだ時だった。
突如、頼もしい腕が蒼雪の脇の下に入ったかと思うと、ぐんぐん海面へと連れて行くではないか。驚いた蒼雪は腕の主を見上げ、危うく水を飲んでしまうところだった。
(と、父さん!)
(町子を放すなよ、蒼雪ィ!)
雪斎は力強く水を蹴りながら、息子に頬笑んで見せた。父の言葉は不明瞭なごぼがばという音でさっぱりわからなかったが、その意思だけはしっかり伝わった。蒼雪は父の目を見つめてうなずいた。
と、父の頭の上が、妙に明るい光で輝いていることに蒼雪は気がついた。埠頭の照明が届く場所ではないはずだ。それに、さっきからごうんごうんと唸る低音は何だろう。
雪斎は気づいたようで、海面を見るまなざしが嬉しそうに細まる。さっき以上にしっかりと蒼雪を抱きかかえると、素早く水を蹴った。蒼雪は母の腕を放さないようにさらに力をこめる。
「ぷはぁー!」
「ふぃー、一度は死ぬかと思ったぜ」
ざばっと海面から頭を出した親子は、大きく息をついて笑いあった。
「うわあ…海が光ってる」
「あいつら…粋なことしてくれるぜ」
底知れぬ闇のようだった海は、白い光にぎらぎらと眩しいほどだった。岸壁にずらりと並んだ、何百台ものバイクのヘッドライトのせいだ。そして、水中にまで届いた爆音は、言うまでもなくエンジン音。海に飛び込んだ彼らをずっと励まし続けていたのだ。
「おおーーい! これに掴まれやぁーー!」
安田の声がして、勢いよくロープのようなものが蒼雪達に投げかけられる。
「ははっ、これ特攻服だ! 父さん、これみんなの特攻服だよ!」
「はははは! 安田ぁ、やるじゃねえか!」
蒼雪達を救わんと投げられたのは、万国旗のように連なった特攻服の命綱だった。雪斎は大笑いしながら、蒼雪と町子を片手に抱えて服の端っこを掴む。
「ようし、引き揚げろー!」
安田の号令で、一斉に男も女も地引網を引く漁師のごとく特攻服ロープを引っ張る。結び目は頑丈だったので、途中で切れることなく蒼雪達は無事水から引き上げられた。
※字数厳しいので、エピローグはコメント欄で続きます。
すごい古い作品ですね。文章の未熟が目についてニヤニヤしてしまいます。
よく書いたなー私www
HNはソウセツなんですが、アオユキって読むんですよね、ここのは。
当時はどっちの呼び方にするか決めてなかったのです。
このアバター、ハルさんのイメージに合いましたかwなるほどw
気に入ってもらえて何よりですよ(‘w‘)
いやー、なんだか今日の蒼雪さんのいでたちが、この主人公を思い出させたので、つい書いちゃいました(●´艸`)ヾ
私、このお話好きなんですよー♪
蒼雪くんがかわいくて♪((w´ω`w))
…と、書き逃げするのでした(笑)
とぅっ!! (〃・ω・)ノノ
俺もラストは考えていました。親子三人で暮らすパターンです。
でも、井上さんのラストの方が素晴らしいな~。親父が、遠くで見守ってる。そして元の生活に戻った母と子。この距離感がたまりません…な、泣けるっ。
キーワードをもとに作成してくださったとのことで、ありがとうございます。ラストシーンには、童謡
夕焼けこやけの赤とんぼ…を歌わせようかとも考えておりました。
「太陽とはよくいったもんだね」セリフ大感謝☆よくぞ使って下さいました。
つっても、実は4,5を書いてる時、冒頭の父登場のシーンで夕日を背負っていたことは全く忘れておりましたけどねww
とにかく、もう何も文句がつけようのないラストでした~。ありがとう!(^∀^)
私も合作は、初めてなので~ とても楽しかったです☆ (つ´∀`)つ まさに、スジナシw
何度見ても泣けますね。特に、海中から町子を救出するシーンが、とても素晴らしいので…
エピローグ、悩みましたよぉ~ (* ̄O ̄)ノ ここで失敗したら、台無し!そこで… キーワード選出。
まずは、題名の「夕焼けこやけの…」 (。-∀-)つ これ無いと、読者の不満… 爆発ですわ!
1話の「西日を背にしている父」 (。゜ー゜)σ 5話の「…バイクに跨る父」 父で始まり… 父で終わる画。
4話の「太陽とはよくいったもんだね」 (・ω・)/ 同じセリフで、意味が逆♡ 以上で、燃え尽きましたw
「古き良き時代のホームドラマ」…おお、なんということだ。それ最近俺がある人(実生活で)に指摘されたことですよ(^∇^;)
やっぱ俺のストーリー作りって古いのかな? 時代に遅れてるのか…昭和生まれだしorz
でも、面白かったとのことなので、お褒め頂いてうれしいっす^^
最後まで読んでくださってありがとうございます~!
畜産対水産はね。井上さんの返しがナイスだったのでついw
町子は酪農家の娘なので畜産連合会という名をゾク名につけた、という設定があったのです。そしたら、それをお伝えしていないのに、井上さんが「水産~」と対抗組織の名づけをしてくださっていて驚きました。
肉と魚のギャグは…まあお約束ということでw
クレしんの映画、全部は観ていないんですが、俺は傑作と名高い「オトナ帝国の野望」が好きっす。
しんのすけたちが戦国へ飛ぶ、実写化もされたあの作品もいいですね~。
やっぱり自分の作る作品って、そういう感動した作品から影響を受けて、無意識にだけど反映させて作られるものなんだなあと、アイマールさんのコメで改めて実感しました~。
笑いあり、人情ありっていう、古き良き時代のホームドラマみたいで面白かったです!
じわ~っと心にしみる系って感じで。
TBS系列で日曜の夜9時代に放送されてそうじゃないです?^^
こういうストーリー、今じゃめっきり無くなりましたよねぇ…。
今の若い子(特に小学生)に、もっとこういう人情系ドラマを見せたいです~。
そうしたらもうちょっと穏やかに育つ気がするんだけど…。
「東下北畜産連合会」と「南房総水産連合会」、私もかなりツボでした。www
畜産に水産って…。 まさか肉か魚かでもめてないだろうなぁ、って思ったら
ホントにもめてるし…。www
こういうベタなの、結構好物です♪ ( ̄m ̄*)プッ
なるほど、クレヨンしんちゃんの劇場版をイメージして作ったんですね~。
雰囲気出てると思います~! ちょっと嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦っぽいですよね♪
これはホントに名作でしたねぇ、号泣しましたよ~。
思い出すと涙が…。www
冗談で始まったこの企画…まさかここまで大きな話になるとは思ってもみず。
そして読者の方がついてくださるとも考えてなく…^^;
shaneさん、最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました!
いただいた感想もとても励みになりました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いですw
それでは次回…いえいえ、もうしばらく連載はやりませんて(^∇^;)
妙なカーテンコールのようなコメントになってしまいました^^;
井上さんがいなければ、この作品続きませんでした。
短いテキストの中にイキイキとしたキャラが動いていて、毎回俺の予想展開を気持ちよく裏切ってくれましたww
冗談で考えついた「東下北畜産連合会」に対し、「南房総水産連合会」や「東関東土建連合会」など、ナイスなパスを返してくれて、ほんと嬉しかったっす。サブキャラもありがとうございます。良い味出てました。
誰かと合作も初めてだったので、やたらと楽しかった~。
締めをお任せさせてしまいましたが、見事な終わり方でした! 俺も感動しましたよ~!(つ∇`)
当初はもっと穏やかな話にしようかと考えてたんですが、ほんと映画みたいな展開になってしまいましたね~。
ラスト、夕焼けこやけの…太陽。そうきたか、と感心しました。
井上さんの切り返し、すでにある材料のアレンジの仕方がすごくいいです。俺もとても勉強になりました。
重ねて感謝っす~!(^∀^)ありがとう~!
ジャンル分けは、一応コメディで考えていました。
でも念頭にあったのは、劇場版クレヨンしんちゃんのストーリーノリですかね~。主人公小学生なので。
劇場版クレしんの、力押しで進むようなストーリー。笑いあり、涙あり(贅沢だな~)
プロットなしで久しぶりに書きました。ノリで始まったこの企画ですが、結構楽しかったです^^
井上さんのテキストやキャラづけに触発された部分もたくさんあり、流れで書くのが面白かったなあ。
投稿サイトへのお誘い、ありがとうございます!
でも今しばらくは、このにこっとタウンで短文にいそしみたいと思ってます。
つか、俺、現実逃避の息抜きにここに来たのに、なんか小説修行が一番目的になってるよ(笑)
たしかに文章の訓練にはなると思ってブログ書いてたけど、小説連載までは考えてなかったな~。
ここでは連載されてる方もいて、毎回書き続けるパワー、すごいっす。
一見さんでコメントできればいいやと思ってたんですが、イカズチさんのような良識ある方にお会いできてほんとよかったですw
これからもどうぞよろしくお願いしまっす!
誰もが互いを思いやり
強い信頼と絆で結ばれていて。。
いいなって 思いました。
3ヶ月後… 運命を賭けた、あの埠頭を散歩する親子の姿があった。
蒼雪 「お母さん、気分は如何? ( ・ o ・ ) 」
町子 「あぁ、外の風は… 気持イイねぇ~♡ (。-`ω´-)y-・~~ フゥ 」
車椅子に乗った母・町子は、愛車のバイクが沈んだ水面を、ひたすら見つめていた…
しばらくすると、礼子のバイクが、やって来た。
礼子 「町子姐さーん、手紙!預かって来たんだけど。 (o'д')ノ◇ 」
それは父・雪斎から、母宛に書いた手紙と… 俺宛てに書かれた、2通である。
蒼雪は、その手紙を開いて見た… (母さんの事、宜しく頼むぞ! (。・`ω・) 父より)
礼子 「まったく~ ┐( ̄ー ̄)┌ あんな所で見てないで、こっち来りゃ良いのに…。」
対岸の防波堤に視線を向けると… 夕焼けこやけの太陽と、バイクに跨る父の姿が!
町子は、嬉しそうに見つめながら呟いた。(太陽とは、よくいったもんだねw) … 完
ハッピーエンドらしくて何より。
読んで暗い気持ちにさせちゃあいけませんものね。
描写、ストーリーは楽しめましたが、ジャンルわけが難しいお話ですねぇ。
コメディーのようでもあり、泣かせる部分もあり……。
ドラマ展開を入れたコメディー、ドラ・コメとでも言いましょうか。
やはり字数制限のあるニコタのブログは小説を書くにはあまり向かないですよ。
投稿サイトに本格的に執筆して、更新情報を載せた方が良いのではないかと。
腰を据えて書いた、もっと長い『蒼雪ブランド』を読んでみたいです。
エピローグ、どこ?