Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


ピュア・ハート~1(修正版)

 

 たとえば、そこに。

 たとえば、そこに、思わず舐めてしまいたくなるような白い肌と黒髪の、潤んだ黒い瞳を持つ美少年がいて、しかもそいつは出会った最初から百パーセント体中で俺のことを慕っているとしたら。

 人は、人を好きになれるものだろうか。

 俺は、目の前に立つ美少年をあぜんとして見つめていた。

 十二月二十四日、クリスマスイブの夜。今は亡き祖母から受け継いだ木造平屋の家で、ひとり寂しく特番を見ていたときだった。

 天井裏に住むネズミの物音が気になって、天井板を開けたのが運のつきか。

 そこから何の脈絡もなく飛び出してきた金髪碧眼のミニスカサンタ美少女が、台所に置いていたジャガイモを勝手に齧ったことへのお礼に大きなケーキの箱を押しつけていったという、この、理解しがたくありえない現象が現実に起こってしまえば、どんなリアリストでも今の状況を受け入れるしかないだろうと思われる。

 だって実際、俺は自分のほっぺたをつねってみたのだから。

 痛い。現実だ。頼む、夢から覚めてくれ。天国のおばあさん、俺、何か悪いことしましたか。

「あ、あの……」

 クリスマスツリーを模した、真っ赤なミニスカワンピース姿の少年は、おろおろと俺を見た。

 そりゃそうだろう。あの自称ネズミの精の少女が言ったことが正しければ、こいつは、俺が心の中で望んだものにほかならないのだから。

 それが、出て来てみれば、受け入れてくれるはずの自分の夫が、あからさまに不審そうな、迷惑そうな顔をしていれば、天使だって不安になるだろう。

 いや、天使なら不安になんかならないか。むしろ彼らはそういう態度に慣れっこだろう。人間にお告げをするたびに驚かれているんだから。

 俺は、おもむろに少年に近づくと、無造作に彼のスカートをめくりあげた。少年は慌ててスカートを両手で押さえつけ、俺の無粋な視線から股間を守る。
「ひゃっ、な、何を?」
「……ついてる」
 俺は目の前の事実に、さすがに落胆を覚えた。彼が下着をはいていないことは、この際どうでもいい。重要なのは、こいつが天使でもなければ女の子でもないということだ。
「いや、待てよ。天使は両性具有だよな。じゃあ、胸とかあるのかな?」
「あ、やぁっ……」
 こうなったら、意地でも天使じゃないことを確かめたくなった。
 俺は少年が無防備なことをいいことに、ぺたぺたと手のひらを下に彼の胸元をまさぐった。いきなり触れた他人の手に、少年はびくっとして身を硬直させる。
「あ、あの、あのっ……」
「……まな板だな、完全に。やっぱ……男、だよな……」
 手に残ったしなやかだけれどどこか固い感触に、俺は深い溜息をついた。
 なんで男だよ。俺、嫁さんくださいって願って箱を開けたのに。嫁は女だろ、普通はさ。
 しかし、なんせネズミ少女がくれたケーキの箱から出てきた少年だ。ひょっとしなくても、妖怪変化の可能性も多分にある。
 妖怪なら、心臓が二つあってもおかしくない。これも確かめなくては、俺の明日の命も危ないかもしれない。かわいい少年を装って、実は寝ている間に俺を丸のみ、なんてこともありうる。
 俺は、彼の前で膝をついた。そうしないと、彼の心臓の辺りに耳をつけられないからだ。

「あ……」

「……じっとしてろ」

 少年は、白くて柔らかそうな頬を薄桃色に染めた。俺は構わず、軽く抱きしめる形で、少年の胸元に頭を押しつける。

 あったかい。さらさらしたサテン地から、腕に伝わる華奢な骨組みや、薄い肉づきまでよくわかる。そして、ことことと鳴っている、胸の下の心臓の音。

 生きてる。本物だ。

 ネズミからもらった、どこにでもあるクリスマスケーキの箱を開けたら、物理とかの法則無視で白い煙とともに出現したこの少年は、たぶん間違いなく人間だ。

 少年はじっとして、俺のするがままになっている。これが女の子だと、セクハラだとか言ってビンタのひとつでも飛んできそうだ。――いや、それはないか。きっとこいつは女として出てきても、こうして俺に身を任せていたに違いない。

 だって、こいつは俺の嫁なのだから。

「……お前、名前は?」

 溜息をつきながら、俺は尋ねた。少年は、「え?」と小首を傾げる。黒目がちの瞳が、うるうるとこちらを見上げた。

「名前……ありません」

「……イリュージョンでないことは、確定だな」

「……はい?」

「いや、なんでもない」

  

アバター
2010/12/16 22:04
みーちゃんさんのお気に召してよかったです。ほっ…。これ書いてるとき、ああ自分まだまだだな~とモチベーション下がりまくりで、まったく自信なかったんですが。喜んでいただけて俺も嬉しいです^^
ありがとうございます。

あ、天使が男女両方の性を持ってるのは本当です。ガブリエルだけ女性という説は有名ですよね。
妖怪に心臓が二つあるかどうかは…ある妖怪もいるかもしれないけど、一応描写のあやですのでw
アバター
2010/12/16 17:06
蒼雪さんっ! すっごい、ドキドキしますたぁあああああ~~~~~><。(笑)ww

ありがとうございまふ~~~~~><。 あ……、天使って、両性具有なんでふか?? 初めて……

知りますたっ! あと、妖怪って、心臓2個もあるでふかぁあああああ!?!? そーなんでふねっ!

そーゆー系って……、全く知らないことばかりなので。。。メモメモ(笑)ww
アバター
2010/12/15 23:23
加筆修正部分は赤字で書きました。wordのコピペにこちらで加筆したので、行間がおかしいところがありますがご容赦ください。
また、ご指摘ありましたらその都度修正させていただきます。



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