Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


ピュア・ハート~3

 ――しかし、きよしの格好は男の俺からしても目の毒だ。膝上丈のワンピースからのぞく、白くてほっそりした脚は、つきあっていた彼女と別れて早五年のセカンド童貞の俺には、相手が男とわかっていても刺激が強すぎた。

「きよし、とりあえず着替えるか。俺の服貸してやるよ。ちょっと大きいかもしれないけど」

 俺はタンスからパジャマを取り出してきよしに手渡す。普通の服にしようと思ったが、もう俺も寝るところだったので、そっちにした。

「じゃあ、あっちの部屋にいるから」

「……ここにいてください」

 俺が隣の部屋に移動しようとすると、きよしはうつむき加減に俺のシャツの裾を引っ張った。

「もしかして、寂しいのか?」

 こくり、ときよしはうなずく。うっ、と俺は言葉をつまらせていた。

いかん、また可愛いと思ってしまった。確かに俺はこいつを面倒みると誓ったけど、だからといってこの少年と夫婦としてどうこうしたいとまでは思ってないぞ。

 そうだ、きっとこの感情は小動物かもしくは弟へ抱くような気持ちと同じだ。人の持つ保護本能というべきものが、そうさせるのであって、そもそも、萌えというのは……。

「あの……」

 きよしが、おずおずと俺を見つめて言った。なんだよ、と俺は少々面倒くさくなり、ちょっとぶっきらぼうにそちらを見る。そして、はっとした。

 やばい、これは……。

 俺がくだらないことを考えている間に、きよしは着替えていた。その姿を見て、俺はぽかんと口を開けていた。

 小柄な少年の体つきに、長身の俺のサイズでは服が余っていた。だぶだぶのそれは、まるで、毛布にくるまった子猫か子犬を思わせる。

 男のロマンのひとつに裸エプロンと、彼氏のワイシャツを彼女に着せるというものがあるけれど、その願望がまさか目の前の少年によって叶えられる日がこようとは。

「あの、おかしい……ですか?」

「いや……」

 うっかりにやけかけた口元を手で隠し、俺は努めて平静を装った。いかんいかん、三十路間近の男が未成年にやにさがるなんて、それはちょっと……。

 と思いつつも、俺はきよしから目が離せなかった。顔の輪郭も、華奢な体つきも、どこもかしこも繊細なラインでできていて、まるで舐めると一瞬で溶けそうな飴細工のようだ。

 齧りたくなる。その小さい顎とか、かわいらしい鼻の頭とか、桃のようなほっぺたとか、それと――ふっくらして柔らかそうな唇も。

 俺はふらりときよしに近づいていた。頭が酔ったようによく回らない。きよしはちょっと驚いたように目を見張ったが、恐れる様子もなく動こうとしなかった。まったく、俺が怖くないようだ。

 俺ははっとして、伸ばしかけた手を止める。ぶるぶるっとかぶりを振って、妖しい思考を頭から追い出した。

「悪い……どうかしてた」

「旦那様……」

「……寝るか。もう、遅いし、明日仕事だし」

 俺は苦笑すると、きよしの頭に軽く手を載せた。

「はい」

 きよしは笑った。この笑顔には負ける。俺が抱いていたやましい心も、こいつの純真な眼差しには、光を浴びた影のごとくかき消されてしまう。

 寝室にしている床の間に、俺は布団を二つ敷いた。けれど、きよしは俺が寝入る寸前、俺の布団にもぐりこんできた。
「おい、きよし、狭いって……」
「……旦那様と一緒が、いいです」
「……まったく。しょうがない奴だな」
 追い出そうとしてもきっと聞かないだろう。俺は諦めてそのまま好きにさせることにした。きよしは、幸せそうに吐息をついて、俺の胸に頭を押しつけてくる。まったく……。

 ネズミの精といい、謎のケーキ箱の少年といい、今年のクリスマスイブは真面目に疲れた。普通なら、もっと驚いて、これは夢だと右往左往するのかもしれない。

 だけど俺は、現実は素直に受け止める主義だ。こいつが明日消える夢ならそれでもいい。

 俺はネズミの精が言っていた、ケーキ少年に対する注意事項を思い出していた。

 ――食べるとなくなっちゃいます。少女はそう言っていた。

 食べる、か。ケーキの精だけに、つまりそういうコトに及べば、きよしは消えてなくなるのだろう。出て来たときと同じように、すべての物理法則を無視して。

 なんだか、乙姫が浦島太郎に渡した玉手箱みたいだ。感情に流されて我を忘れたら、悲しいことが起こる。おとぎ話にありがちな戒めは、俺の場合でも外さないらしい。

 でもな。食べるってどこまでを指しているんだ?
 ふと、俺の中で持ち前の好奇心が湧き上がる。
「あ、だ、旦那様……?」
「しっ」
 俺はそっと、きよしの手を取り、指先に唇を当ててみた。甘くはない。普通の人間の肌の味だ。でも、滑らかで肌のきめの細かさが唇ごしにわかる。
 セーフか。じゃあ、これは? 
 俺は、つうっと舌を滑らせた。
 

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2010/12/16 22:05
な、なるほど~。あったかいです旦那様…ですね?
じゃあさっそく加筆します~。まだ行数余ってるはず!w
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2010/12/16 17:19
蒼雪さんっ! いいでふっ!><。 いいでふっ!!><。 その調子っ!(笑)ww ←おいっ!!

「おてて」は、オッケー♪なんでふねっ!(笑)ww ムフフ♪♪ ←おバカ(汗汗);;

布団の中で。。。きよしが、「あったかいです……、旦那様……」って言って、「俺」の胸か背中??

に手を当てたりしたら……、きゃあぁあああああ~~~~~><。でふ(笑)ww ←おーいっ!
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2010/12/16 07:59
あらら、ほんとだあ。恥ずかしー。
まぷこさん、良い校正者になれますよw
すぐ直します。うっかりしてました。
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2010/12/16 00:12
『隙にさせることにした。』は
好きにさせることにした。
じゃないでしょうか?



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