年末年始を東京の家で過ごす事になったので、ポルシェに乗るチャンス到来。と思ったが、ガレージにあるはずのポルシェが、無いョ。

父親が言うには「ママが後ろをぶっつけたんでドック入り。」なんだそうだ。ほほう、ついに我が母親もポルシェの魅力に取り付かれ、誰でも1度はやると言われる、後ろからドッチャーンか。と思ったが、運転の下手な母親がカッとんで走るわけはないわサ。

「ねえ、ママどうしてなの？」と聞くと、これはイカン、見る見る不機嫌さを露わにしてルョ。この女、ネコより気持ちが掴みやすい。

父から聞いた話だと、全くの操作ミスで、側溝の窪みに後輪がはまったのを前進で脱出するつもりが、バックで全力疾走となり、石垣とお友達になったとのことで、如何に頑丈な車とはいえ相手が石垣では勝ち目がない。

かくして全治2週間とのことだったが、巻き添えを食った人が居ないことだけでも良しとせねば。ところがこの後の父の話は衝撃的だった。

「ええ～！あのポルシェは失敗の買い物ォ？」私の声を塞ぐように父の「シ～。ママに聞こえたら大変だ。」。

早い話が、車を買うとき迷いに迷って『PDK』なる変速システム（オートマチックだよ）を選択したものの、やっぱりマニュアルにすべきだったと、とても後悔しているとの事なんだって。

確かにポルシェの変速操作には違和感があって、それしか知らない人は良いのかも知れないけど、他の車でも「パドル」を操作するタイプが増えてきているし、それらと比べると、ポルシェの操作はイマイチ違和感を隠せない。

もう一つは、父はそれまで「マニュアル」で操作することによって誇りと快感を満たしてきた男なのだ。「PDK」はマニュアルと同じダイレクト感があって、どんな名人の手動操作より速いギアチェンジが行えるから、これからの時代はと言う事で「PDK」を選択したのだったが、今になって「やはりマニュアル」の思いが高じているのだ。

「じゃ、買い換えたら？」と簡単にはいかない。車の値段は母が騒いでいたからよく知っているンだ。

父の耳元で囁くように「1700万円の無駄使い。」と言ってやったら、「し～。イイカ絶対にママには内緒だぞ。」と言ったものの、私の耳に入れてしまったのは、失敗の2重奏なのだ。

へへ、いい事聞いた。

なんて暢気なこと言ってられないかも知れない。家の経済状態はかつてのように何でも自由にとはなりにくくなって来ている事は知ってるから、それに、父の性格だと、何かしらの理由をつけて買い換えようとするに違いないから、先行きの不安が。

父の事業も失敗し、多くの負債を抱えてもはや破産宣告。「みんなで死ぬしか無い。」と言ってるところに、「娘を差し出せば･･･。」と言う救世主が現れて、その救世主は見るからに醜い、脂ぎったひひ爺で、その男の前で泣きながらウェディングドレスを着て抱かれるのを待っている可愛そうな私の姿が。「いやだよ～ォ、そんなの」。

「れい、なに妄想に耽ってるの。」母の声で我に返る。いやな妄想をしてしまった。

それにしても、失敗の買い物と言っても桁が違うよ。母親には絶対に教えられないから、叔父さんにだってダメだし。

というわけで、ここの皆様にだけナイショで喋ってしまいました。（喋っちゃいけないと言われても、やっぱり誰かに話さないと。）

これを見た方は私の母には絶対喋らないと約束してくださいネ。