Nicotto Town



2月小題 口笛/「フウとシャオフウ」その2

・・・その1より、つづき。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


 シャオフウを見つけた翌日、フウは妹のファ(華)と共に放牧にくると、穴の中でうずくまるシャオフウを見せた。
 シャオフウの痛々し気な様子に、ファは思わず手を伸ばしかけた。すると、フウがすかさずファの手を掴んで触れるのを止めた。
「ダメだよ。こいつは小さいけど狼の子供だ。いくら動けなくても不用意に手を出しちゃ危ないだろ。ほら、こうやって…」
ピューッ、ピュピュピュッピュー。
 口笛を吹きながら、フウは皮袋から千切った肉片を草の上に投げた。そして、ファにも同じように口笛を吹かせて肉片を投げさせた。
「なっ、こうすればシャオフウはこっちを見るだろ。おれがいない時はお前が餌をやってくれよ…」
「シャオフウ?」
「そう、こいつの名前だよ。おれが見つけたから小虎(シャオフウ)!」
「小さいフウ兄だからシャオフウ……ふふふ、ほら、シャオ、お食べ。ピューッ、ピュピュピュッピュー。」
 ファの口笛は、フウの口笛よりも高く、澄んだ音となって草原に響き渡った。

 シャオフウの傷が癒えるひと月の間に、フウとファの口笛は、いつしかシャオフウを呼び出す合図になっていた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 


「シャオ、もうお別れだ。おれもファも、もう口笛は吹かないからな……さあ、行けっ!」
 フウは、もう千切ることもなくなった肉片を思いっきり森の奥へと投げ込んだ。そして、シャオフウが肉に向かって行く姿を見送りながら、この場所から早々に駆け出そうとした。
 すると、森の奥から、一番聞きたくない声が聞えた。グウォーと聞える低い唸り声。それは、森の王者である虎の咆哮だった。

「…シャオ!」
 去りかけたフウは、すぐに踵を返すと、そのまま森の奥へと駆け込んで行った……


 夕刻。なかなか戻ってこないフウを心配したファと家族は、放牧先の草原へとやってきた。だが、そこにフウの姿はなく、草を食べ飽きた羊たちが、ただ夕暮れの風に吹かれているだけだった。


ピューッ、ピュピュピュッピュー。
 ファは、すぐに丘の上に立つと、草原に向かって口笛を吹き始めた。
『シャオならフウ兄の行き先を知っている……シャオ、どこにいるの。フウ兄はどこ…』
 ファの甲高い口笛が草原じゅうに響き渡ると、羊たちを集めようと草原に散っていた家族が、皆不思議そうにファの行動を見つめた。すると、森の一隅がガサッと揺れ、そこから一匹の子狼がヨロヨロと現れた。
「シャオっ!」
 ファは、丘の上から飛び降りるように駆け出すと、血だらけのシャオフウを抱き上げ、そのまま森の一隅へと向かって行った。そこに、血まみれのフウが倒れていた。
「フウ兄ぃ!」
 ファは、うつ伏せのフウの身体を自分の膝の上に抱き上げた。
「フ、ファか……シ、シャオは……」
「ここだよ。あたしが抱いてるよ。シャオ、ちゃんと生きてるよ!」
「よ、よかった……シャオ……」
 シャオフウに頬を舐められながら、フウは安心したかように目を閉じた。
「フウ兄ーぃ!」
 ファの叫び声を聞きつけた家族たちは、すぐにフウを自分たちの住処へと運んでいった。


 それからもうひと月後……
 すっかり緑に染まった丘の上で、フウとファは、羊たちの鳴き声を聞きながら春風に吹かれていた。
 フウは一命を取りとめたが、代わりに左足が伸びたままになり、生涯杖が必要な姿になった。
 しかし、フウはそんなことで少しも気落ちすることがなかった。なぜなら、フウの代わりに羊を集めてくれる仲間ができたからだ。

ピューッ、ピュピュピュッピュー。
クオーン。
 フウの口笛に、草原の真ん中にいたシャオフウは、一声大きな遠吠えで応えた。


・・・おわり。

アバター
2011/02/19 20:15
拝読させていただきました。
読んでいて雄大な自然と、狼と人との絆を感じました。
アバター
2011/02/10 02:08
動物と人との交流ものっていいですね。

これは野生と社会の交流でもあるし、二つの世界の交じり合いが
情緒的に表現されててよかったです。私は好きです。
アバター
2011/02/05 11:36
カッコイイ話ですね!

フウやシャオ、それぞれの登場人物が自分の役割を自覚し、それに殉じているようなストイックな雰囲気が好きです。主に登場人物の心理描写ではなく、起きた出来事を追うことでそういう雰囲気がより引き立ってよかったです★
アバター
2011/02/04 17:17
拝読しました。
狼が、人に懐く。
人が、狼に懐く。
どちらもあってはならない世界にあって、それを乗り越えた進化の物語でした。
口笛。2人の口笛を聞いてみたいと、私も思いました。
そして、それに答えるシャオフウに会ってみたいと思います。
アバター
2011/02/02 12:45
狼と人間の絆、のようなものを感じました。
ドラマチックなお話でしたね。
BENクーさんの書かれる自然とのふれあいのお話は
雄大な感じがしてとても素敵だと思います。
アバター
2011/02/01 23:33
特に目新しい題材の話では有りませんが、しっかりとした文章で
読みやすかった。
アバター
2011/01/29 19:23
おおっ、
狼から犬になってゆく過程の物語。
そこから弓矢と土器が発明されると新石器時代。
新石器時代になると、都市や国家も出現してきます。
文字と青銅器が出現した段階で、「文明」となります。
アバター
2011/01/29 12:51
転載しましたよ
仕事の昼休みにつき
また改めて
力作を味あわせて頂きます



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