プロローグ其の一

――「Children's　Fantasy」を使用するにあたっての注意事項

・体調の悪い状態での使用、長時間に渡っての使用は健康を損なってしまう恐れがあります。ゲームをする時は、目安として2～3時間ごとに15分程度の休憩をすることをおすすめします。
・「Children's Fantasy」はフルダイブ型のVRMMORPGです。フルダイブ中に体に異変を感じた場合、直ちにログアウトし体調の確認をしてください。中断してもなおそのような状態が続くようでしたら医師の診察を受けて下さい。
・「Children's　Fantasy」は多人数参加型のオンラインRPGです。ゲームの中のプレイヤーはみな同じ人間です。暴言などの非マナー行為は控えて下さい。

　それでは、「Children's　Fantasy」の世界をお楽しみ下さい――

　どうしたもんかなぁ、と中世ヨーロッパ風の町の中を歩きながら『Children's　Fantasy』のプレイヤーの一人であるカズヤは考える。
　先ほどフリーマーケットで『これって無茶苦茶懐かしいですよね？　やっぱりこれは子供の頃の思い出ですよね！』と、とてつもない勢いで迫られて買ってしまったそれは、オナモミ――わかりやすく言ってしまえばひっつき虫だった。
　それ程高い値段でもなく自分自身でも懐かしさから買ってみたいと思ったので、良い買い物をしたと思っていた。
　なんとなく服にひっつけてみようと思い、アイテムウィンドウからそれを取り出そうとした時に問題は起こった。
　それはカズヤ自身が想像していた以上に、と言うよりは通常のひっつき虫より数十倍の大きさがあったのだ。
　数字として出すのなら全長約三十cmくらいだろうか。とにかく大きかったのだ。無駄に大きいのが何となく気持ち悪い。
　これほど大きいと、遊び半分で服にひっつけようものなら周囲の人々から奇異の目で見られるだろう。こんなものを服に付けるのは注目を集めたい人間だけだろう。
　まあ、珍しいものが見られたからそれでいいかと納得した時だった。
　向こう側からこちらに向かって駆けて来る十五か十六歳くらいであろう少女がいた。
　それだけなら少しマナーの悪いプレイヤーの一人として片付けただろう。
　しかしその人物は、きつねの毛のような色の髪のポニーテールと動物の耳と尻尾が付いていた。一見すると犬の耳と尻尾のように見えるが、髪の色から推測するときつねの耳と尻尾なのかもしれない。そして神社にいる女性が着ている服、要するに巫女服を着ていた。マナーの悪いプレイヤーの一人として片付けるには少し格好が目立ちすぎていた。カズヤだけでなく周囲の人々も獣耳と尻尾と巫女服という珍しい格好をした少女が気になるのか、珍しいものを見るかのような目で見ている。
　冷静に観察している内に少女はもう眼前に迫っていた。ぼーっとしていたカズヤは避ける事もできずに少女とぶつかってしまった。
　どんっ、と大きな音を立てて両者とも尻餅をついて地面に転ぶが、カズヤのHPゲージが減った様子は無い。そもそもこのゲームではPK《プレイヤーキル》そのものが無いのでHPゲージが減るはずも無かった。
「ごっ、ごめんなさい！」
　マナーの悪いプレイヤーかと思っていたが、思いのほか素直に謝ってきた。
　その少女は謝ってすぐに走る事を再開してしまっていて、カズヤとは既にそこそこ離れた場所にいた。素直に謝った事を意外に思いながらも、どうでもいいかと思い足を動かす事を再開しようとしたが、ある事に気づいた。
　先程まで持っていた巨大ひっつき虫が無くなっていたのだ。
　辺りに落ちてもいなければ服にひっついているわけでもない。
　もしかしてと思い振り返り、先程の巫女服少女を探してみる。
　その巫女服少女は既に六、七十メートル以上は離れた場所にいたが、遠くものを見ることを可能にするスキルの一つである『遠見』を使って見てみると、予想通りにその少女の服の背には巨大ひっつき虫がひっついていた。
　その事を確認したカズヤは息を大きく吸い、全力で走り出す。
「俺の巨大ひっつき虫を返しやがれぇえええッ！」
　つい先程まで巫女服少女をマナーの悪いプレイヤーだと思っていた事は棚に上げていた。
　さらに巫女服少女と違い大声まで出していた。余計にたちが悪い。

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