Children's Fantasy ...
- カテゴリ:自作小説
- 2011/02/01 18:53:21
プロローグ 其の八
「色々と迷惑かけてすいませんでしたっ! ぶつかっちゃうし、アイテムを盗っちゃうし、色々教えてもらったし、最後にはモンスターから守ってくれて……もうなんて言ったらいいのか……」
「いや、いいって。こっちも色々と楽しかったしさ」
あの戦いの後、二人は無事に迷路のゴールまで辿り着き、今は町の料理屋にて食事をしている途中だ。
『リアルワールド』や他の機器を使う事で料理の味を再現するアプリケーションは、普通のもの――このようなゲームの中での食事を再現するための――では味の再現だけなら九割で食感の再現ならば七割ほどのレベルに達していた。そして先月に発売された味・食感を再現するためだけのアプリケーションでは、味は九割五分で食感は九割ほどの再現ができるレベルのものであった。これは味の再現はもう十分なレベルになっているので、現実に近い食感を求める人のためのアプリケーションであった。
まあ要するに、『Children's Fantasy』でも料理を食べることはできるのだった。もちろん、現実で腹が満たされるわけではないが。
カズヤはパンとスープ、サヤはおにぎりと味噌汁を食べていた。二人とも欲張らずに無難な物を食べている。
「なんか今日は色々あったな……」
カズヤの言う通り、本当に色々あった。
カズヤは元々、ネットで知り合いを増やしたいと思ってオンラインゲームを始めたのだが、自分から相手に話しかけることもできなければ、話しかけられても素っ気無い態度をとるという「本気で知り合い増やしたいのか?」と聞かれて「はい」と迷い無く言う事ができないくらいに人見知りだった。ソロプレイをし続けた結果すごい事になったりもしたのだが――今は関係ない話だ。
そんなカズヤにとって、今日という日は本当に珍しい日だった。いつもならログインした後にモンスターを狩りに出て、そして町に戻って気が向いたらフリーマーケットを見て回り、そして夕食前にログアウトする。誰かと話すという事は、フリーマーケットでプレイヤーが直接アイテムを売っている時くらいだった。
しかし今日は、サヤにぶつかられてアイテムを持って逃げられ(カズヤの不注意でもあるが)、そしてサヤを追いかけて、一緒にボスと戦ったかと思えば今は共に食事をしている。普段のカズヤからは考えられないほど騒がしく、考えられないほど楽しい一日であった。
「その……ごめんなさい……」
「いや、楽しかったって言ってるんだからそんなに謝らなくてもいいって」
先程から、と言うよりは会ってからサヤはカズヤに謝る事が多かった。なのでどうしても二人の間の空気は重くなってしまう。
カズヤとしてはオンラインゲームをやっていて久しぶりに長く話した相手だったし、一緒にボスを撃破するという釣り橋効果もあってか、できるのならばサヤの『友達リスト』に登録してもらいたいと思うようになっていた。
――この人と友達になれなければ、また長い間誰とも話さないんだろうな。と、カズヤはそう考えていた。
そう考えながらもカズヤはパンを食べ、サヤはおにぎりを食べる。
「…………」
「…………」
重苦しい空気が続く。この場には酸素が無く呼吸ができないのではないか、もう呼吸困難で死んでしまうのではないかとさえ思えた。まあ、こんな事を考えている間も現実世界の体は規則正しく呼吸しているので死ぬはずもないのだが。
そしてようやく、この岩のように重い空気を壊す一言が生まれた。





























