Nicotto Town


永遠などない、それこそ永遠


魔王→勇者

プロローグ 其の二  ※これは『Children's Fantasy』ではありません。別の話です。

「その……今までの勇者は勇者になったとたんにどこかへ逃げたり、すぐに逃げなくても魔王との戦いの直前になると命惜しさに逃げていってしまった。お父さんが侵略をしていた頃はそういった勇者しかいなかった。……だけど貴方はそんな事をしなかった。すぐに逃げ出したりせずに、今目の前にいる魔王を倒そうとさえ思っている。だからその……今までそんな勇者を見たことがなくて……その……すごく格好いいなって思って。それで……貴方を好きになりました」
 そう言い終わった時には、既に魔王の顔は真っ赤になっていた。魔王は感情の変化によって高い魔力が周囲に影響を与えると言われる。それが本当ならば今彼女の頭の上に水を入れた鍋を乗せれば何か料理が作ることができるかもしれない。
 実際、ここ数十年の勇者は戦いから逃げ出す者が多かった。『何故女神はあんな人間を勇者にえらんだんだ?』と思う前に『勇者のくせに情けない』と思うようになり、国民の勇者へ対する希望の眼差しは地の底まで落ちていた。そんな中にようやく魔王と戦おうとする勇者が現れた。国民の中には魔王のような少女がたくさん居る。もっとも、魔王と同じレベルで本気で好きな少女はそういないだろうが。
 それ聞いた勇者は、少し笑みを浮かべる。
「ありがとう。俺はただ故郷が侵略されるのが嫌だったから戦ってただけだから何の見返りも求めてない。だけどそう言ってくれる人が居るのはうれしい」
「じゃあ、もしかして……」
 期待で胸を高鳴らせる魔王、それに対して勇者は――
「もう理由聞いたから殺るぞ」
 無常にも剣を手に持ち、魔王へと斬りかかろうとしていた。
 好きな人に殺されるのならばそれでもいいか……と、魔王は既に諦め目を閉じていた。
 しかし、いつまで経っても勇者の斬撃が魔王の身を切り裂く様子はない。恐る恐る目を開けてみると、そこにはエリアスのレイピアで腕を貫かれ、アステルの神木から作られた杖で背を殴られ、リリィのエルフ独自の魔法で体を拘束された勇者の姿があった。
「この馬鹿がッ……彼女は魔王だけど無防備だっただろうが! それでも殺すって言うのなら俺が相手だ!」
「彼女は好きな人に殺されるのならそれでいいって顔してるじゃないですか! それでも殺すと言うのですか!?」
「……言いたい事は二人が言ってくれた」
 魔王討伐のために集まった三人は、魔王を守るために勇者を傷つけていた。王都を旅たった時には魔王を守ることになるとは思っていなかっただろう。
「ああ、えっと……助けてくれてありがとう。……じゃなくて! 勇者さんが! 誰か回復魔法を! ああどうしよう……なんで回復魔法の練習をしなかったんだろう……。こうなったらこの命を全て魔力にして回復魔法を――」
「ダメですよ! そんな大量の魔力を使った回復魔法じゃ逆に回復対象の寿命を縮めるだけですよ! ……それに彼は戦いの女神の加護を受けた勇者なんですよ? これくらいの傷ならすぐに治りますよ」
 命がけで勇者を助けようとしている魔王をアステルが止める。一瞬でも止めるのが遅れていたら、魔王の命は全て魔力に変換されていただろう。




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