Nicotto Town


永遠などない、それこそ永遠


魔王→勇者

プロローグ 其の三  ※これは『Children's Fantasy』ではありません。別の話です。

 勇者は放っておいても大丈夫だが、魔王が心配しなくて済むように彼女は治療することにした。ただし条件付で。
「勇者さん。魔王さんに攻撃しないのならその拘束を解いて回復魔法をかけます。どうしますか?」
「この程度の拘束で俺を完全に止めたつもりか?」
 そう言い、拘束魔法を無理やり破り、左手でレイピアを掴みへし折る。そして刺さっていたレイピアの先端を引き抜く。
 レイピアで刺されていたところの傷は、少しずつではあるが確実に治ってきている。あと数十秒で傷は完全に塞がり、もう一度全力で戦うことができるようになうだろう。化物じみた能力である
「おいたっくん、今この状況で誰が一番悪役なのか考えてみろ」
 勇者はエリアスからあだなで呼ばれて、何も考えることなく即答した。
「魔王に決まってるだろう?」
 当たり前のようにそう答える。
「お前だよ!」
「勇者さんですよ!」
「……どう考えても貴方」
 仲間であるはずの仲間の三人から同時にそう言われた。
 ここまで言われると、流石にもう戦うことはできない。エリアスの武器は壊したものの、彼は魔法の腕も一流だ。魔王だけでなく三人も相手にするとなると、流石に勇者でも勝算はなかった。
 結局は勇者が折れるしかなく、武器を地面へ捨てる。
「俺の負けだ。捕虜にするなり奴隷にするなり好きにしろ」
 負けは認め、捕虜にでも何にでもなるとは言ったものの、恋人になるという選択肢はない勇者であった。
「お前……恋人になるという選択肢はないのか?」
「恋人? おれは俺達を油断させるための策じゃなかったのか?」
 勇者はあれを全て演技だと思っていたらしい。あれが演技ならば魔王は役者として大成功するだろう。
 しかし勇者がそう思うのも無理はない。魔王は美少女である。ならばその容姿を生かしてそういった策戦を考える可能性がゼロだとは言い切れない。
 しかしゼロだとは言い切れないだけで、本気で好きだという可能性もゼロではない。そして今回は――
「そんな……そんな風に思われてたんですね……。仕方ないですよね、私は魔王なのだから……」
 ――本気で好きだというパターンだった。
 ここまで落ち込んでいるのを演技だと言ったのならば、仲間達から惨殺され、後の歴史の教科書に『彼は極悪非道の屑野郎だった』と書かれる事になっただろう。
 しかし流石の勇者も、これを演技だと思うことはなかった。
「……と言うか、脅しでそういう関係を迫るというのが気に入らないな」
 演技だと言わない代わりに、勇者は魔王に追い討ちをかけた。
「お前……腕一本くらいなら三十分で回復するんだよな? ――覚悟しろ」
「勇者さん……最低です!」
「……二人に同じく」
 そして今、勇者とその仲間の戦いの火蓋が切って落とされ――
「やめてください! 勇者さんの言う通りです。あんな風に脅したら嫌われるに決まってますよね……。そうですよね、勇者と魔王が結ばれるなんて有り得ませんよね。……国王には、魔物を人間と同等の存在として扱うようにすれば魔王が私である限りは侵略行為はしないと伝えてください。……それでは、さようなら……」
 ――なかった。




Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.