Nicotto Town


安寿の仮初めブログ


迷宮のプラハ


イタリアは古代ローマの栄光と遺産を持つことで、
現代においてもその輝きを失うことはないのですが、
プラハも似たようなところがあります。

ヨーロッパの中世、
神聖ローマ帝国皇帝となったカレル四世在位(1346-78)の頃、
プラハは大きく発展しました。
そして、その後も大きな戦争がこの街を襲わなかったため、
今日まで様々な時代の建築様式が残っています。


ロマネスク、ゴシック、ルネサンス、バロック、
ロココ、ネオ・バロック、アール・デコ、キュービズムと、
この街は各時代の建築様式を一同に介した見本市なのです。

しかも、それが街の所々に点在するのではなく、
旧市街広場を取り囲む建物群すべてが、
いずれかの建築様式を身に纏って連なり立っているのです。

その上、これらの建物群は、
現役のホテルやレストラン、博物館、
事務所や政府機関として今日でも実際に機能しています。


例えば、プラハの街を高台から見下ろす世界歴史遺産のプラハ城は、
現在も大統領府としての機能を担っているのです。

しかも、現役の大統領府にもかかわらず、
プラハ城内には、
ゴシック様式の聖ヴィート大聖堂が聳え立つという…、

なんだ、これは…、
これは不思議な都市です。

私はどこか別の世界へと、
迷い込んでしまったのではないでしょうか。


プラハは屈折した過去を持つ都市でもあります。


スメタナの交響詩『わが祖国』が誕生した背景には、
オーストリア・ハプスブルク家に対する、
チェコの文化復興運動と独立運動があります。


プラハ中心部の裕福なユダヤ人家庭において生まれ、
その生涯のほとんどをプラハで過ごしたカフカは、
自分の小説をチェコ語ではなくドイツ語で書いているのです。


 (ちなみにチェコ語はスラブ語系の言語、
  つまりロシア語の語感の言語ですので、
  ドイツ語とは語感も表記もまったくことなります。
  ドレスデンからわずか2時間の移動で、
  ほとんどドイツ語が通じなくなっています。)

そして、古くはドイツ三〇年戦争のきっかけとなった事件を生んだプラハ、
 (ただし、この戦争は、プラハ市内では戦われなかったため、
  プラハの街並みは、そのままの形で残ったのです)
二〇世紀においてもナチス・ドイツの支配やソビエトによる「プラハの春」事件、
1989年の社会主義政権崩壊と平和的体制移行を実現した「ビロード革命」などなど。


ですが、チェコ人、
なかでもプラハ人は、
この街を愛し続け、
この街とともに歴史的事件をくぐり抜けて来たのです。

しかも、プラハっ子の若者は圧倒的に美しい。
ブロンドを通り越して、ほとんどホワイトに見えるかのような髪、
男性も女性も背が高く、足もすらりと長い。
美しい町並みに、美しい若者たち。


   神様、生まれ変われるものでしたら、
   どうか、チェコのプラハっ子として、
   生まれ変わらせてくださいませ。   ☆\(ーーメ



ですが、なにかこの街はおかしいです。

変な磁力というか重力というか、
ともかく何か、力場の作用を感じます。


3時頃、プラハ中央駅に到着して、
予約しておいた駅近くの安宿にチェックインし、
荷物を部屋に置いた安寿は、
さっそくカメラとガイドブックを持って、
夕暮れていくプラハの街へ繰り出していきました。


ドイツに比べれば明らかに一時代古いタイプの路面電車が、
縦横に走り抜けていく中世の街中。


中世の時代そのままの、
迷路のような小道が続くかと思えば、
突然、視野が広がり、
観光客が行き来する広場があらわれる。

しかも、通りも広場も、
様々な装飾を持つファサードの建築群で埋め尽くされています。

安寿は暮れなずんでいくプラハの街を一人歩き回り、
観光客もみやげ物屋も少なくなった、
ブルダヴァ川(モルダワ川)を越えるカレル橋を渡って、
どんどん冷え込んでいく寒さの中、
迷路のような街路をプラハ城目指して登っていったのですが…、


  案の定、道に迷った… ☆\(ーーメ


私、犬のように方向感覚だけはいいので、
街の概要をだいたい頭にたたき込んだら、
あとは、時々ガイドブックを覗くだけで
知らない街を歩いたりするのですが、


 …あはは、プラハは駄目です。


「この道でいいはず」と思いつつも、
人の気配はどんどん少なくなってゆき、
やがて私の足音だけが石畳の坂道に響きわたっている。


街頭に照らし出された中世の坂道を、
私一人の影がゆらゆらと揺れて、
他に誰もいない。

でも、観光客はおろか、
土地の人すら見かけないのはなぜだろう。


私は今、プラハ城の近く、
この国の大統領府周辺にいるはずなのに、
静まりかえった通りの上に人影がほとんど見当たらない。


まるでこの街の人々は、
すでに死に絶えてしまったかのようです。
そんな石畳の街の中を、
死神のような私が一人彷徨っている。



なるほど…。

どうやら私は、
水平方向に広がる迷路のような道を間違えただけではなく、
過去から未来へと向かう時間軸をも見失ってしまったんだ。

きっとこの時、安寿は、
人間が死に絶えた時代のプラハに、
一人タイムスリップしていたのではないかと思います。


でも、それならそれで構いません。
帰れなくなっても構いません。


私はこのままプラハに迷っていようと思います。


つづく。

アバター
2011/03/11 00:05
感性の光る描写ですね。
歴史的背景がわかると、より想像力が豊かになります。
ブログいつもありがとう☆
アバター
2011/03/10 21:46
あらら……時空のどこかに迷い込んでしまった安寿さん。
ラノベならここから冒険ものになりそうですね笑 ヾ(ーー )ワラウナ



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