Nicotto Town ニコッとタウン

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名前を消した男 27


僕は歩いて岩泉に行くしかなかった
この村から岩泉までは5時間ぐらい歩かなければならない
「岩泉に着くのは夜だな」
僕はぽつんと独り言を呟いた
岩泉にはJR岩泉線終点の岩泉駅があり、そこからJR山田線の茂市(もいち)駅まで行くと宮古か盛岡に行く事が列車でもバスもできるようになる
僕は帰りたかった
けれどもう帰る所の無くなった僕だった
『僕は自分を捨てたのだ』
僕は自分にそう言い聞かせながら歩いた
県道45号線を南に行き思惟大橋(しいのおおはし)から西に松前沢渓谷に沿って歩き県道173号に出て、それを南に下れば岩泉に行ける
松前沢渓谷は南の槙木沢渓谷の思案坂で思案し、松前沢の辞職坂で進むのを諦めたと言われるほどの渓谷だが、今は思惟大橋があるので難無く超えることができた
県道45号線では災害対策の車が行き来していた
車は土ぼこりを上げ僕のすぐ横を通過していく
僕はタオルを顔に巻いて土ぼこりと排気ガスを吸わないようにしていた
思惟大橋から渓谷に下りた僕は、川沿いの道を川の上流を目指して行けば良かった
僕は背後のアーチ形の思惟大橋を見た
谷の上をまさに結ぶ橋だった
谷の上から一旦降りてまた谷の上まで登るのは確かに
無駄な事に思へ、昔の人が進む事を諦めたのも無理ないと思った
僕を諦めから解放しているのは女への執念だった
僕には諦めは許されなかった
「あの女に絶対に復讐してやる」
僕は橋を見ながらそう呟いた

僕がそれほどまでに女を憎むようになるまでに長い時間が流れていた
10年いやそれ以上の時は流れていた
僕はただ我慢をして待ち続けた
このどん底の生活が終わる日がきっと来る
しかし女は僕の事を何も考えていなかった
それどころか捜査組織の見方をして僕をどん底に落とす手伝いをしていたのだ
それが分かった時、僕は女への復讐を誓ったのだ
捜査組織は人間という者を知り尽くしていた
追い詰めらた人間を捜査するのが彼等の仕事だ
彼等は知っていた
どうすれば人間が追い詰められるのかを
そして彼等がそれを実行する時、それに耐え切れなくなった人間は嘘の罪を認めるか自らの死を選ぶしかなかった
僕はジャーナリストの言葉を思い出していた
そして彼も追い詰められたのだと思った
表面に出ない出来事を積み重ね、やがてそれはボクシングのジョブのように目標にダメージを与えそして倒すのだ

#日記広場:自作小説

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2011/05/21 21:33
組織は、肉体を傷つける時よりも、ゆっくりと確実に、心を壊していくのですね。
死神に取り憑かれた人間は、些細なキッカケでも死を選んでしまうのでしょうか。

僕の今の行動も、組織の思惑通りだったら……嫌な感じです。



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