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情熱$ブログ


ジョーカーの冬の国より~その5

 時間帯が次の夕方になってから、アリスはハートの城をお暇した。この世界では、昼の次に夕方が来るとは限らない。朝も昼も夕も夜も、順番は滅茶苦茶だ。同じ時間帯がずっと続くこともある。

「あら? 今の……」

 さっきは双子と会ったところで、数メートル引き返す。

 並木の合間に見えた三角形はテントだ。

(……見つけたわ)

 野宿する人間といえば、該当者はひとりしかいない。アリスは深い溜息をついてから、そのテントを訪ねた。

「エース! いるんでしょう?」

 テントの中から見知った顔がひょっこりと出てくる。

「あれ? アリスじゃないか。ははは、奇遇だね」

 笑顔が必要以上に爽やかな彼は、ハートの城の騎士エース。ユリウスの仕事仲間でもあり、並々ならぬ方向音痴の、自称「冒険家」である。

「ユリウスが待ってたわよ。また迷子になってたの?」

「うーん、俺としては着実に目的地に近づいてるつもりだから、迷子っていうのは違うと思うんだけどな」

 何にせよ、彼が双子と鉢合わせしなくてよかった。ハートの城と帽子屋ファミリーは敵対関係にあって、エースは会話より先に剣を抜くことが多い。

「あーでも、さっきは帽子屋さんの屋敷に迷い込んじゃってさ。俺ってやっぱり迷子かもね、ははは!」

 まったく帽子屋の門番は何をしているのやら。

(あの子たちは……はあ)

 エースはテントの外で立ち上がり、軽く伸びをした。

「アリスはこれからどこに行くの?」

「ちょうどクローバーの塔に帰るところよ。ついでに、あなたを見かけたら連れ帰ってきてって、ユリウスに頼まれてるわ」

「ははは、さすがユリウスってば気が利くなあ。待ってて、テント片付けるから」

 冒険家がテント一式を片付けている間に、アリスはコートを羽織っておく。軽装でいられるのもここまでだ。

「お待たせ、アリス。行こうか」

「そっちはハートの城!」

 お約束のように逆方向に進む彼を引っ張り、クローバーの塔へと向かう。

「雪の中で迷ったりしたら一大事よ。もう」

「そうだなあ……エイプリルシーズンの間は、防寒服を持ち歩くくらいの注意が必要かもね」

「……あなたの場合、何よりもまず、道を間違えないように注意するのが肝心じゃない?」
 いつもの小言を連発してみても、効果はなし。

「それが難しいんだよな。みんなは、どうやって道を憶えてるんだろ?」

「みんな思ってるわよ。あなたはどうしてそんなに道に迷うのかって」

 迷子を連れて、やがて冬の領域へ。青い空は厚い雲に覆われて、だんだんと風が冷たくなってくる。さっきまで春にいたせいか、閉塞感のある景色だ。

 しかし、だからこそ憩いの場所を温かくも感じられる。冬が好きになりそうだった。




 つづく。





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