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情熱$ブログ


ジョーカーの冬の国より~その7

 ナイトメアを布団から引きずり出したり、拘束して薬を飲ませたり。それから山のような書類を少しでも片付けさせて、アリスだけ先に休憩に入らせてもらう。

 皆の食事を運ぶためでもあったのだが、ナイトメアがまた駄々を捏ねる。

「アリス? 私にだけ仕事をさせて休憩とは、薄情じゃないか?」

 それを口八丁に宥めるのが、グレイのもっとも重要な役割なのかもしれない。涼しい顔で上司の非をまくし立てる。

「ナイトメア様がもっと早く布団から出てきてくだされば、俺もナイトメア様も、今頃は息抜きできたはずなんです」

「ああそうとも、息抜きは必要だなぁ? グレイ。仕事は仕事、食事は食事と割り切ろうじゃないか!」

 同意を切に求めてくるまなざしを、アリスは思いきり一蹴した。

「だったら、今は仕事に集中して欲しいわ」

 主張を通せなかったナイトメアが、騒ぐ、騒ぐ。無駄な抵抗を試みる。

「ちっがーう! そこは部下として! 上司である私に賛同するところじゃないか! どうせ食事も、私だけ野菜ばかりのメニューなんだろう? お前たちには、私を敬う気持ちが足りていない!」

「俺は部下として、ナイトメア様と同じ食事を取るつもりですよ。……まさかナイトメア様ともあろうお方が、部下の気遣いを無碍にするとは思いませんが」

「ぐっ……」

 グレイの言い分が正しい。

「仕事が滞りなく進んでいれば、皆で食事もできたんだが。すまない、アリス。君に使い走りのような真似をさせてしまって」

「これくらい構わないわよ。侘びる仲でもないでしょう?」

 ユリウスと一度離れ離れになってから、アリスはずっとクローバーの塔に住んでいる。再会を果たした今でも、ユリウスの部屋がこの塔にあるため、それは変わっていない。ナイトメアやグレイとも親しくなったつもりだ。

「アリス、グレイの言うことを聞く必要はないぞ。私には肉料理だ!」

「まあ、薬を混ぜやすい食材ではありますね。特に冬の肉料理は、味が濃いのでいくらでも誤魔化せます」

「すぐに持ってくるわ」

 いつものやり取りに苦笑しつつ、執務室を退室する。




あと一回つづく。





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