ジョーカーの冬の国より~その7
- カテゴリ:自作小説
- 2011/06/18 01:50:06
ナイトメアを布団から引きずり出したり、拘束して薬を飲ませたり。それから山のような書類を少しでも片付けさせて、アリスだけ先に休憩に入らせてもらう。
皆の食事を運ぶためでもあったのだが、ナイトメアがまた駄々を捏ねる。
「アリス? 私にだけ仕事をさせて休憩とは、薄情じゃないか?」
それを口八丁に宥めるのが、グレイのもっとも重要な役割なのかもしれない。涼しい顔で上司の非をまくし立てる。
「ナイトメア様がもっと早く布団から出てきてくだされば、俺もナイトメア様も、今頃は息抜きできたはずなんです」
「ああそうとも、息抜きは必要だなぁ? グレイ。仕事は仕事、食事は食事と割り切ろうじゃないか!」
同意を切に求めてくるまなざしを、アリスは思いきり一蹴した。
「だったら、今は仕事に集中して欲しいわ」
主張を通せなかったナイトメアが、騒ぐ、騒ぐ。無駄な抵抗を試みる。
「ちっがーう! そこは部下として! 上司である私に賛同するところじゃないか! どうせ食事も、私だけ野菜ばかりのメニューなんだろう? お前たちには、私を敬う気持ちが足りていない!」
「俺は部下として、ナイトメア様と同じ食事を取るつもりですよ。……まさかナイトメア様ともあろうお方が、部下の気遣いを無碍にするとは思いませんが」
「ぐっ……」
グレイの言い分が正しい。
「仕事が滞りなく進んでいれば、皆で食事もできたんだが。すまない、アリス。君に使い走りのような真似をさせてしまって」
「これくらい構わないわよ。侘びる仲でもないでしょう?」
ユリウスと一度離れ離れになってから、アリスはずっとクローバーの塔に住んでいる。再会を果たした今でも、ユリウスの部屋がこの塔にあるため、それは変わっていない。ナイトメアやグレイとも親しくなったつもりだ。
「アリス、グレイの言うことを聞く必要はないぞ。私には肉料理だ!」
「まあ、薬を混ぜやすい食材ではありますね。特に冬の肉料理は、味が濃いのでいくらでも誤魔化せます」
「すぐに持ってくるわ」
いつものやり取りに苦笑しつつ、執務室を退室する。
あと一回つづく。