Nicotto Town


情熱$ブログ


ジョーカーの冬から夏の国より~その9(END)

 ナイトメアは食卓で左目を丸くした。

「……何だ、コレは?」

「そうめんです」

 さらっとグレイは言ってのけるが、同席するアリスも、ユリウスも、同意できない。

 ボリスとピアスに貰ったそうめんつゆは、グレイの独創的かつ大胆なアレンジが施され、珍味として生まれ変わっていた。

 黒か黄色だったつゆが、緑色の液体に変わっている。これに真っ白な麺を浸けるのは、もはや罪悪ですらある。

 ユリウスが慎重につゆのにおいを嗅いだ。

「刺激臭は……ないが、一体何をどう入れたら、この色が出せるんだ? トカゲ。真冬にそうめん以前の問題だぞ」

「色はいまひとつかもしれんが、味と栄養には自信がある」

 ナイトメアの険しい目が、グレイの真顔を直視した。

「いまひとつ? いまひとつと言ったのか? 今」

「ええ。とにかく食べてみてください」

 その目が、今度はアリスを咎めるように促す。視線の意味は大体わかった。

 食べてみろ、という命令か指示、もしくは懇願だ。

(わかったわよ、食べるから、そんなふうに睨まないで)

 誰かが試食しないことには進まない。腹を括ってアリスは、慣れない箸で、白い麺を小さく摘んだ。その半分ほどを正体不明のつゆに浸してから、いよいよ口へと運ぶ。

 そして、恐る恐る味の正体を噛み締める。

「ン……。えぇと、その、ど、どう表現すればいいのかしら」

 お世辞にも美味しくはなかったが、破滅的に不味くもなかった。

 次にユリウスが、アリスよりも多くの麺を取り、一度に啜る。 

「……そうめんの味でないことは確かだ」

「そうめんだ」

 グレイの訂正に説得力なし。

 ナイトメアが涙目で後悔を語る。

「今にして思えば、お前に料理を任せた私が愚かだった……。未だに私は、お前という男を見誤っていたようだな……」

「麺が伸びてしまいますよ、ナイトメア様。そうめんを食べたら、溜まっている仕事を片付けてくださいね」

「この寒いのにそうめんなんぞ食えるか! 常識で考えろ、常識で!」

 本末転倒かつ支離滅裂なナイトメアが喚く傍で、アリスとユリウスはなお試食中。

「なんというか、ふむ。食べているうちに……妙に味が増してこないか?」

「それだわ! まず……とは言い切れない何かがあるのよ。うん」

 冬のクローバーの塔ではしばらく健康食品「そうめん」が流行った。




おしまい☆

アバター
2011/06/25 00:08
メガ花もご覧くださいませ~(@^▽^@)
アバター
2011/06/24 18:44
訪問感謝です^^




Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.