「小料理かっぱ」の夜
- カテゴリ:自作小説
- 2011/06/29 16:18:46
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篠突く雨の晩は、好きじゃない。
「小料理かっぱ」の女将そらは、溜息をついて戸口を眺めやった。
扉の前にあるレジカウンターで、ペットのアルパカが暇そうにあくびをしている。
水が命の河童族とはいえ、雨降りの夜は外には出ない。頭の皿にしつこく雨粒が当たると痛いのだ。
こんな日は、客足も遠のく。いつもなら常連の親父河童でにぎわう店内は、盛りの時間を過ぎても閑散と静まっていた。
そらはもう一度疲れた吐息をつくと、カウンターを出ようとした。もう客も来ないようだし、さっさと店を閉めて、ひとりでビールでも空けようか。
と、レジの前のアルパカが、ぴくりと耳をそばだてて戸口を見た。誰か来たらしい。
「いらっしゃい」
あわてて、そらはカウンターに舞い戻った。しかし、戸口の向こうにいる者は、いっこうに入って来ない。
どうしたのかしら。そらは怪しんだ。きっと、雨宿りに立ったのかも。それなら、なお中に入ってもらわなくちゃ。
少し考えた末、そらはカウンターを出て戸口へ向かった。なるべく明るい笑顔を作って、ゆっくりと引き戸を開ける。
「お客さん、どうぞ。開いてますよ」
「……」
ずぶぬれで軒先に立っていたのは、暗い面持ちをした一人の青年河童だった。どこか泣きだしそうに伏せられていた眼差しがそらを捉え、ついで、驚きに満ちてその顔を見る。
「ひょっとして……そら、さん?」
「あっ。もしかして、蒼雪君?」
2人はしばし、目を丸くして固まった。
「いらっしゃい。見ての通り暇なの。ゆっくりして行ってね」
カウンターに突き出しと生ビールのジョッキを置き、そらは微笑んだ。
いただきます、と蒼雪はジョッキに手を伸ばし、おずおずと口をつける。
「本当に久しぶりね。高校卒業以来かしら。あれから、ぜんぜん顔見せてくれなかったじゃない。どうしたのかと思って、気になってたのよ」
同窓会にも顔出さないんだから。と、そらは笑った。蒼雪はお愛想ばかりに笑って、もくもくとビールを飲んだ。
「ねえ。今、どうしてるの?」
ビールが半分ほど減ったところで、そらはカウンターにもたれかかりながら尋ねる。
「……君のことは、よく見ていたよ」
答えずに、蒼雪は、壁に張られた青いポスターを見つめる。
「テレビで。君はよく笑ってたね」
「……昔の話よ」
そらは両手を組んで、あごをその上に乗せた。瞳はどこか遠くを見つめている。
「今は、この通り。しがない小料理屋の女将よ」
蒼雪は、「うん」と小さくうなずき、まだ残っているジョッキを置いた。
雨が屋根を叩く涼しい音が、しばらく2人を包んだ。
「……ねえ。もし、違ってたらごめんなさいね。あの『篠突く雨の向こうで』って小説。あれ、蒼雪君が書いたのよね?」
ぴくっと、カウンターの上に置かれた蒼雪の手が動く。そらはそれ以上言わず、彼が喋るのを待った。せかすと余計に口を閉ざすからだ。
蒼雪は、また、「……うん」と言った。
「読んでくれたんだ」
「私、本が好きなの知ってるでしょ。蒼雪君の文章だって、すぐにわかったわ。本屋で偶然見つけた時、嬉しかった」
学生時代、よく見せてくれたものね、とそらは微笑んだ。内向的でいつも教室の片隅にいた蒼雪。彼がひとりでしていたことと言えば、読書か小説をノートに書きためることだった。
「プロになったんだ。すごいじゃない!」
そらが手を叩いて褒めると、蒼雪はますます落ち込んだ。
「でも、評判悪くて……。発売した日に、ネットで叩かれた」
「……それで、落ち込んでるんだ」
そらは、ふっと笑った。
「でも、それは仕方のないことよ。私だって、売れっ子時代には誹謗中傷もあったわ。 でも、私のことを好きだって言ってくれるファンがいたから、最後まで頑張れたのよ」
「そりゃあ、そらさんは明るくて人気者だったから。でも、俺は……」
うつむく蒼雪の手に、そらは手を伸ばしたいと思った。かわりに、「何言ってるの」と明るく声を張り上げる。
「ここに、あなたのファンがいるじゃない! 小説は、読んだ人が一人でも感動したら成功なのよ!」
「そらさん……」
蒼雪が目を瞬かせた。そらは、戸棚から一冊の本を取りだして置いた。表紙を見た蒼雪が、泣き笑いを浮かべる。
「買ってくれたんだ」
「言ったでしょ。運命の出会いだったのよ」
はっとして、蒼雪がそらを見つめる。その唇が、瞳に込めた熱い何かを吐き出しかけたとき、そらは手を戻した。薬指の付け根に輝く光を認めて、蒼雪は寂しそうに笑った。
そして、今度はどこかふっきれたように笑って、そらを見る。
「そらさんも、飲まない? 今日は暇なんだろ?」
そらは、にっこり笑い返した。
「そうね、頂こうかしら」
~~~end
俺のお友達のそらのかけらさんが、この部屋の写真をアップした時に、この題材で自分を入れて小説を書いてくれと頼まれていたんです。
それを放置していたら、そらさんが本気で書いてくれとアタックされてきまして(笑)
写真撮影~執筆の運びとなりました。
そうそう、お酒のCMのイメージ、大きくありましたね。
それと、某雑誌で有名な女流作家さんたちを使ってやっていた小連載も念頭にありました。サントリーがスポンサーのやつ…なんだったっけ?^^;
部屋アイテムを使った小説は、アイマールさんもご存じ井上さんが師匠ですね!w
お題、確かにありですね~。物から連想するのも面白そうです^^
その前に、俺も歴史もので千文字書かないといけないんですが…モンハン小説も…いそがし~^^;
サントリーREDのCMみたいで、すっごい好きです、この作品!^^
子供の頃から好きなCMなんですよ~。いまだに好き♪
大原麗子さんが人気絶頂の頃のCMなんですよねぇ。
…って、今の若い人たちはさすがに知らないか~?^^;
今だと、小雪さんの出てるCMみたいな感じって書けば伝わりますかねぇ?www
大人の雰囲気って事なんですよ、ええ。
この話、CM化したら人気出ますよ!
今起用するなら、麻生久美子とか?
うわ~、人気出そう! (^m^*)ウフフ♪
小料理屋ってのが、風情があって良いですよね~。料理美味しそう、このお店♪
なるほど、かっぱ巻きで浮かんだアイデアでしたか。
そっか~、お部屋アイテムとか、もうちょっと活用しなきゃ勿体ないなぁ…。
サークルのお題、こういうお部屋アイテムをお題にするってのも有りですねぇ!^^
部屋までは改装しなくてもいいですけどね、面倒だから。www
ご感想ありがとうございます^^
そうなんです、純愛好きなんですよ。うっかりしたら、いつもこんなのばかり書いてます。
続編は…あはは、気が向いたら、ですねww
ラジオドラマにありそうな、大人の純愛ストーリーですねww
続編を期待してますwww
小宴会も承っておりますよw
ご感想ありがとうございます^^
内容がちゃんと伝わっていたようで、ほっとしましたw
それこそ最上の褒め言葉です。ありがとうございます^^
ご感想ありがとうございます^^
話は、この写真を撮ったときにバーっと思いついたんです。もっと明るい話にしようと思いましたが、最初のインスピレーションを大事にしました。
思いのほか好評で嬉しいです^^
ご感想ありがとうございます^^
拙作に過分なお言葉、いたみいりますです。
これにおごらぬよう、ますます精進してまいります^^
ご感想ありがとうございます^^
ラストは、俺も書いていて気に入ってるところなんです。
こちらこそ、最後まで読んでくださって嬉しいです。ありがとうございました^^
お読み頂きありがとうございました^^
初めはコメディを考えていたんですが、こんな大人の話になりましたw
リングのくだり、お気づき頂いて嬉しいです。自分でも、そこが山場と思っております^^
お読み頂きありがとうございました^^
おかみのご紹介に感謝ですw
雰囲気はしっとり。これは狙って書きましたので、意図するところをお読み頂いてうれしいです^^
今度寄らせてもらいますw
凄く様子が良く分かる小説ですね~
感動してしまいました(┯_┯)
短い文章(それでも今回はボリューム増量でしたが)なのに
1冊読んだような気分です。
こんなセンセイとお友達になれて
ぼかぁ~幸せもんだなぁ~www
おぉーw(*゚o゚*)w大人の恋愛いいですね
ゆっくりと落ち着いた時の流れが見えました
これだけの内容にまとめるあげる才能があって
素晴らしいです
おかみの所からまいりました^^
ラストのせつなさがなんとも言えないですね。
しっとりした大人の胸キュンがステキでした♪
読ませて頂いてありがとうございました^^
小料理屋でのおもわぬ再開・・・・。
雰囲気が出ていて、とてもよかったですw
薬指のリングのやりとりが切ないですね。
初めは黄桜のCM思い出すwなんて失礼な事考えながら読み始めたのですが
お店の雰囲気といい、お話といい、しっとりと今の季節にぴったりの大人の雰囲気で
楽しませていただきました^^
ありがとうございます<(_ _)>
お読み頂き、ありがとうございます^^
「運命の出会い」に着目されるとは、鋭い!
実はそこ、あまり深く考えないで書いたんで…あっはっはw
お互いに気持ちを抑えて村々しているんだけど、ほどよく諦めています。これぞ大人っていうのが、俺の仲の萌えですw
この部屋は、河童巻きを入手したときに作ろうと決意したものです。
最初は、お寿司屋にしたかったんですが、ネタケースが作れなくて断念しました。
けっこう雰囲気が出て、俺も気に入っています。まだそのままありますよw
俺ネクラなんですよ。こう見えてもねww(≧∇≦)ノ
あははは、そういうオチもありですね!( ̄▽ ̄)ノ_彡
でも俺、下戸なんでそんなに飲めないです。そらさんならいざ知らず…?(^m^)ww
ご感想ありがとうございます^^
え、ええ~、続けるの、これ?(^0^;)
俺は一度きりで書こうとしたんですが。こんなに続きを期待されるとは思いませんでした。
俺が店主ですか?実は、それ考えたんですが、「深夜食堂」みたいになるのでやめました。
あれも良い話が集まってるんですよ。こんなふうに静かに心温まるエピソードがあります。
この作品も、どっかでそんなイメージがあったんでしょうね。
おお、なかなか渋い役…というか、かなり重鎮をご希望ですね!(^m^)w
しかも、端役からアップとは。ガラスの仮面お好きですか?俺もアニメ見てましたよw( ´∀`)
えーと、じゃあそのあたりで考えてみます…って、これ続くのかww
こんなに反響あるとは思いませんでした。頑張って考えますね^^
じゅらさんは、ただの脇役じゃなくてキーパーソンになれますね!
物語で大切な役を務める人です。
もちろん、にぎやかな楽しいお客さんでも面白いかも(^w^)w
その線で考えてみますね~w
俺の文章をお気に召して頂いて、本当に嬉しいです。ありがとうございます^^
静かな文章ですか~。そう言われたのは初めてです。俺が大人しい性格だからかな。
俺としては、もっと躍動感ある描写とか書きたいんですけどね。今回は、大人向け恋愛小説として書いてみたので、よりそれが際立ったのかも。
半村良氏の作品、恥ずかしながら未読です^^;
名前は知っているんですが。機会を見つけて、読んでみます。
もとはSF作家だったそうで…。ラノベ出身の冲方丁氏を思い出しました。
そらさんも相当な読書家でいらっしゃいますね^^
俺よりも本お読みになっているようです。こうしてお話聞くだけで勉強になります。
今後もいろいろ教えてくださると嬉しいです✾
そらさん「運命の出会い」とか軽々しく(?)
言っちゃダメだし~~(笑)
でも、もしかして??
いろんな想像が膨らみますね^m^
お部屋の造りも凝ってるし!
大人なお話ですね。
蒼雪さんはネクラなんですねぇ^0^
「た、たかいぃ~」
「当たり前でしょ お店のお酒ぜぇーんぶ飲んじゃったんだから」
ネクラな青年www
蒼雪さんはお料理もするので 蒼雪さんのお店にいろんなお客さんがくるというお話なら何度もつづくでしょうか?
次回も期待しています^^
三角関係の 友達とか、主役の姉妹とか
渋い(笑) 脇役 「端役からアップしました」
希望です。
勝手な事ばかり言ってすみません。
おもしろぉ~ぃ お客しゃんに なれそ!ヾ(≧∀≦*)
コメントいただけると、ありがたいです。
蒼雪さんの書く作風は、とっても静かなんですよ。
淡々と流れる静の情景が、とても好みです。
蒼雪さんの作風で、いつも連想するのが、半村良。
怪奇小説の大家ですが、直木賞をとった作品「雨宿り」は、↑の感じに似ていますね。
この作品を読んで、これだけの実力があって怪奇小説を書いているのか、と唸っていました。
大人の恋愛小説、けっこう好きです。
でも、恋愛小説家の書いたものではなくて、
松本清張の「波の音」が1番好みだと思っていますので、私もちょっと変わっているんでしょうね。
ありがとうございます^^
いえいえ、こちらこそ、出演大歓迎です(^∇^)
その際は、できればどんな役で出たいか、ご希望あると書きやすいです。
この小説も、そらさんが「女将やりたい!」とおっしゃったので実現しましたw
ちなみに俺のキャラは決まってるので、どの作品でもネクラですww
私も 端役で いいので 出演させて下さい。
是非 お願いします。
いつでも、構いません。お待ちしております。
ニコタの楽しさ 倍増ですね
ご感想ありがとうございます^^
今回は、そらさんのご要望にお応えする形で書かせて頂きました。
こうやって、写真を挿絵にして話を書かれる方、ほかにもいらっしゃいますよ。
俺のお友達の、井上さおりさんがそうです。絵と文が絶妙で、50回以上も続いた大作なんですが、面白くて全部読みました。
連載は、井上さんが師匠のようなものですね。彼女は話作りが上手です(^m^)w
さすがに俺は、毎回連載はきついかも^^;
お店の場所は、ここですよ。675129島☆いつでもいらしてください(^w^)
ただ、閉店していることが多いですが…ww
ご感想ありがとうございます^^
そうなんです、まさにおっしゃる通り。せっかく再会したけど、成就できずに終わった初恋なんです。
でも、2人はこれからも良い関係でいるという。バッドだけどハッピーエンドですね。
こちらの意図するところをお読みいただけて、とても嬉しいです^^
これぞ、大人の恋って感じがするでしょ?(^m^)
なんとか形にできてホッとしてます。
こんなんで良いかなあ~と思いながら書きました。
最後、ちょっと物足りなかったですかね?
字数ギリギリで、1回で終わらせようと思ったので、これが最良と思って終わりにしたんですが。
テーマは、再会と大人の恋(笑)
続きはちょっと勘弁~(^∇^;)
そらさん、結婚してるから、蒼雪がふられてるんですよ。続いたら不倫になってしまうwww
でなきゃ、昼のドラマみたいなアダルトな話になりますよ。俺が書くと…たぶんね^^;
お褒め頂きありがとうございます^^
実は、前からそらさんに頼まれておりまして、今回発表になりました。
本当はもっとコメディにしたかったんですが、写真撮ったときにパッと思いついたのが、この話だったんです。
例によってネクラな蒼雪が、初恋の人との再会~軽く失恋(笑)という展開ですwww
じゅらさんもご希望でしたら、書きますよ!(^∇^)
拙い文ですが、書いてほしい設定などありましたら、教えてくださいね。
あ、お代は愛で結構ですwww
ちなみにこれ…続くの大変です。俺の中では完結しちゃったんで^^;
うまくマッチしていて
すばらしいなぁ~と思います^^
連続、お部屋小説とか、話が繋がっていったら
面白いかも!・・・なんて、勝手なこといってま~す
運命の出会いが恋愛の始まりではないのが、(そう思わせるそらさんなのか?)
また大人です。
これでendなの??????(´;ω;`)
す、すごい!!!!いいじゃん、いいじゃん!
う、うれし~~~~~い(´▽`)
大ファンの蒼雪さんの小説に、出演できた!!!!
ぜひぜひ、こんてにゅ~~~~~でお願いしまふ!m(_ _)m
適役 あったら 出演させてくだしゃぁ~ぃ!(。・‿‿・。)ぷぷ♪ww
すっごぉ~ぃっっ❤・:*:・゚☆d(≧∀≦)b゚+.゚イイ
このシリーズ・・・続けてっっ 続けてぇぇ~っ♥((o(*^Θ^*)o))ワクワク...♥
(〃Θ〃)ポッ゜!!! こゆのも 楽しくって゚+。:.゚(pqyΘy*)いぃなぁ~っ♪+。・゚・。+
お読み頂きありがとうございます^^
ペットは、完全に偶然の立ち位置なんですよ。そらのかけらさんのアルパカが、良い位置に立ってるので、そのまま起用しました^^
作家がネットで叩かれるのは、よくあることなんで…。作家だけじゃなく、少しでも世に出たら、避けられないことではありますね。
でも、ひとりでもファンがいてくれたら、頑張って書けますよねw(←誰の事だか…ww)
でもって、ネットで叩かれたとかww
写真のペット達の立ち位置がすばらしいです★
ペットタレント並み^^