モンスターハンター 勇気の証明~三章0-1
- カテゴリ:自作小説
- 2011/07/08 02:16:15
【ユッカと狩人】
ユクモ良いとこ、一度はおいで~。
お山のお湯は美人の湯~。入れば白肌もっちもち~。
男もスタミナ抜群だ~。
「スタミナ抜群だ~…のあと、なんだっけ?」
「ユッカ! 次、これお願いね! あと、その歌はあんまり大声で歌うもんじゃないよ」
「は~い、お母さん」
饅頭を蒸かすいい匂いが、そこかしこに立ちこめている。ユッカはこの匂いが好きだった。
家と繋がった木造の狭い厨房が、両親とユッカの仕事場だ。
筋骨たくましい父が、木の台に力強く生地を叩きつけ、こねている。母は、こねあがった生地を均等に切り分け、ユッカが餡を詰めた饅頭を、次々と蒸気吹き出す窯に入れていた。
「う~ん…。スタミナ抜群だ~、え~と」
ユッカは、くるんとした黒い瞳を上向けて、懸命に歌詞を思い出そうとした。『ユクモ温泉節』は、湯治場として名高いここユクモ村では、子供から大人まで親しまれている民謡だ。
でも、子供が歌うとちょっと下品だとかで、歌っている子供がいると、あまり大人は良い顔をしない。とくに、ユッカみたいなかわいい女の子には。
「お兄ちゃん、なんて歌ってたっけ」
子供にはおすすめできない歌をこっそりユッカに教えてくれたのは、二歳上の兄、グロムだった。
ついこの間までは、ここでユッカたち家族と饅頭作りに精を出していたのだが、十四歳になったその日、突然ハンターになってしまったのである。
――親父、おふくろ、ユッカ。今日から俺は、ミーラルとハンターになるぜ!
そんなことを考えていたなんて、ユッカは全然知らなかった。
グロムは家を――ユクモ温泉饅頭屋を継ぐものだとばかり思っていたのに。
まさに寝耳に水、である。
ユッカはあぜんとした。ハンターとは、強大な生物であるモンスターを狩る、特殊な人間たちとその職業を指す。そんな特殊な人に、自分の兄がなるだなんて。
モンスターとは、とてつもない能力と体格を持つ、文字通りの怪物たちのことだ。
性格も凶暴な個体が多く、まるで人類との共存をこばんでいるかのようである。
彼らには、並みの人間ではとても太刀打ちできない。大の男が束になっても、下っ端のモンスターとされる巨大トカゲ『ドスジャギィ』には敵わないのだ。
さらには、神話にも登場するような凄まじい大きさと力を持つ存在もいる。彼らが襲いかかったら最後、一個軍隊どころか、国ひとつ滅ぼされても当たり前といわれている。
そんな危険極まりないモンスターを狩るのが、グロムが目指したハンターなのだ。
ハンターには、素質が重要視される。知力、体力、そして度胸。
幼いころから実家の饅頭作りを手伝わされ、父と共に生地をこねていたグロムは、体力と力だけは折り紙つきだ。重たい小麦粉の入った袋を、軽々と二つ肩に乗せて歩いていたこともある。
でも、肝心の知力は、妹であるユッカも自信がない。饅頭屋のグロムといえば、ユクモ村でも「ああ、あの……」と失笑を買うくらいのおバカなのだ。
勉強が云々ではない。
根本的に能天気というか、楽天家というか、とにかく間が抜けているのである。
でも、誰が何と言おうと、ユッカは兄のグロムが好きだった。強くて、頼もしくて、いろいろ面白いし、笑うとアイルーみたいでかわいい。
なんて、昔うっとり顔で言ったら、村の悪ガキ達に笑われた。「お前頭おかしーんじゃねーの?」とまで言われた。
大切な兄を馬鹿にされて、頭に来て思わず泣きだしてしまった六歳のころが今も胸に苦い。
でも、そんなユッカを助けてくれたのが、グロムだったのだ。
(…お兄ちゃん、わたしを置いて行っちゃうなんて、ずるいよ)
もくもくと餡を生地に閉じながら、ユッカはふっくらした唇をへの字に曲げた。ユッカはまだ十三歳だ。ハンターになれるとギルドが認めるのは十四歳からである。どうして双子に生まれなかったんだろうと、ユッカは神様が恨めしかった。
蒸し上がった饅頭に、母がひとつずつ、丁寧にアイルーの顔を模した焼印をつけていく。村のオトモ武具屋のアイルーが作ってくれた焼印の意匠は、訪れる湯治客にも大変人気で、そのデザイン目当てに買っていくお客も多い。もちろん、味だってうまいと評判だ。
(お兄ちゃん、ずっと前から決めてたのかな。ミーラルさんと、ハンターになるって)
ミーラルは、グロムと同い年の、村でも評判の美少女だ。実家は雑貨屋で、村人の生活用品から、ハンター向けの道具類まで取り扱っている。
気性の荒いハンターたちをあしらうためか、ミーラルは性格がしっかりしていた。きつい性格と整った顔立ちが良いと、饅頭を買いに来たハンターのおっさんがにやけていたのを思い出す。
(お兄ちゃん、ミーラルさんのこと好きなのかな?)
グロムは、幼なじみのミーラルまで巻き込んで、危険なハンター稼業に身を投じた。
見ようによっては、十分下心がありえなくもない。
いろいろ寄り道、お疲れ様です、そしてありがとうございました^^
これは小説仲間で狩り友のイカズチさんとのリレー小説なのですが、単品でも読めるように構成しています。
主人公が14歳の少女なので、文体も意識して柔らかくしています。読み手のことをいろいろ考えて書いておりました。
あと、イカズチさんの章を引き継いでもいるので、言い回しを少し借りていたりします。口語文体がそれですね。
このころはまだ、モンハン経験も浅かったので、ゲームの知識は自分で噛み砕くこともなくウィキからまるごと借りてきてました。
あと、発売されている公式マンガや小説も、あえて読んでいません(今は少し読んでます)
自分のイメージで描きたかったので、影響されまいと思って。
ゲーム経験が浅かったこともあり、フィールドやモンスターへの印象などは新鮮に描写できました。
今読み返しても、我ながら結構面白くできたなと…^^;
こういうふうには、もう描けないかもしれません。自分の実力が退化してないか、いつもドキドキです。
モンハン、私はやったことないけれど、だいたい想像つきます。
饅頭屋さんから始まりましたか!
しかも、ちょっとおばかな兄を慕う可愛らしい妹の視点。
楽しい始まりかたですね^^
まずはお読みくださってありがとうございました。
ゲームの小説なので、ゲームをプレイしたことがないと、何やらさっぱりかと思いますが、一つのファンタジーとして読まれれば、書き手として成功したと言えるかもしれません。
ご指摘の通り、アイルーなどの専門用語については、説明をどうすべきか悩みました。
こう言ってしまうとちょっとひどいのですが、「ゲームを知っている人前提」で書こうと思い、それに徹しました。
とはいえ、まったく用語に説明がないと、小説として薄くなってしまうので、ある程度の説明は入れています。今思えば、アイルー等にも説明を徹底するべきだったなあ…と反省です。
アイルーは今や商品にもなっている人気者なので、ご興味がおありでしたら、一度検索してみてください。
今一度説明させて頂くと、お察しの通り、
ギルドとは、「ハンターズギルド」の略。モンスターの生態系と人類の共存を統括する組織で、モンスターの狩りに携わる事物、人間すべてに携わっています。
モンスターを狩る特殊な職業「ハンター」は、皆ここに所属しており、狩りの仕事はここを通じてでないと受けられません。無許可でモンスターを狩ると、密猟として処罰されてしまいます。
主な業務は、ハンターへの狩りのあっせんや、一般人からの「このモンスターを狩ってくれ」という依頼受付です。
いろいろ奥深い組織ですが、一般的には、ハンターの組合だと思って頂けて結構です。
アイルーとは、子供くらいの大きさの、人語をしゃべる猫族のこと。
主に世界中の山野に集落を作って暮らしていますが、知能の高さから、人間と一緒に街や村で生活する者もおります。大変なじみの深い種族で、ハンター達にお供をして狩りの手助けなどもします。
長い作品ですので、のんびりお読みください。
またのご感想お待ちしております^^
少しも説明くさくないのに、きちんと登場人物の特徴や人間関係、状況、背景が把握出来ました。
分からなかった単語は、アイルーとギルドだけ。
アイルーは、>笑うとアイルーみたいでかわいい、とあるのでカワイイものなんだろうと想像。
ギルドは、ハンターの組合とか協会みたいなものかな、と想像。
現段階で理解できないのは、私の読解力不足でして^^;
読み進めていくうちに分かると思いながら読んでいます。
物語の幕開け。
兄を慕うユッカが今後、どんな行動を取るのか楽しみです♪
また時間のある時に読みにお邪魔します。
いえいえ、グロムやミーラルなどは、完全にイカズチさんのオリジナルです。
饅頭屋も、もちろんユクモ温泉節も登場しません。
温泉節は俺が考えましたw
ゲームは、ストーリーがないですから。ウィズ(ウィザードリィの略^^)と同じです。
あ、ウィズは若干シナリオがありますね。
でも、モンハンはさらにその上をいく自由度の高さ。
一応、村長が頼むジンオウガ狩猟をクリアするとスタッフロールが流れますが、それからもゲームは続きます。ひたすら狩りの繰り返し。でもそこが楽しいんです、なぜかw
俺は、2次の方が少し楽ですけどね~。
キャラが決まってると、自分で作らなくて済むから、キャラのブレがなくなるんです。
「こいつならこう動くだろう」という作業が楽。
あと、「こいつをこう動かしてみたい」という欲求が創作意欲を生みますね^^
2次が苦手な人って、たぶん、既成の人物を自分が動かすことに抵抗があるからだと思うんです。
もしくは、なんも思いつかないとか。
俺もありますよ。たとえば、ジャンプのキャラでは創作しずらいとか、嵐とか、実在してる人をマンガ化するのもどうか、と悩むタイプです。
エヴァのアンソロやパロディ4コマがたくさん出ていますが、アニメをリアルタイムで見ていた俺には驚きでしたね。あんなシリアスな話をおちゃらけにできるなんて!とw
でも、前にどっかで書きましたが、実在人物のいる時代小説も、2次と同じなんですよね。
俺もイカズチさんの作ったキャラを動かすときに、変にブレないよう気をつけてはいます。
でも、勝手に動いたときはほったらかしです。それって、そいつの意外な一面と思えませんか?^^
子供が歌うとちょっと下品って、一体どんな歌詞!? 知りたい!www
グロムが饅頭屋の跡取りっていうのは、元々もゲームの設定なんですねぇ。
イカズチさんのオリジナル設定なのかと思ってました。
ウィザードリーみたいに、ストーリーが無いゲームなのかと思ってました、なぜか。
…今どきそういうゲームは無いか。www
しかし、二次作品って逆に難しいイメージなんですけど、よく書けますねぇ、みなさん。
私、人様の設定した話をいじるの、苦手なんですよ。^^;
どうキャラを動かせばいいのか、悩むのです。
モンハン3やる前に蒼雪さんとイカズチさんの小説読んだから、やり始めたらすんなりプレイ
できそうですよね~。
って言っても、上手く操作できるって訳じゃないんですけどね。www
世界観とアイテムを知ってるってだけ。www
はい、そうです。ユッカは当初12歳からのスタートを考えていましたが、2年も兄を待ち続けている妹の心境を長々と書くはめになり、短縮のために「待ってる最中~ハンターになる決心まで」を書こうと思い、
この時系列になりました。
なので、次回出てくるグロムはちょっとハンターの貫禄がついています^^
冒頭からこの章、ちょっと回りくどいかと思ったんですが、あえてこのまま載せました。
世界観とか、キャラが暮らしている状況を出すことで、臨場感が出るんですよね。
ユッカがまだハンターじゃないことを良い事に(笑)、暮らしぶりを書かせて頂きました。
温泉節は、歌詞見ればお分かりかと思いますが、草津節のアレンジですw
モンスターの強さの解説は、wikiから頂きました。
あれ読んで、モンスターってそんなに強いのか!と驚いたんです。
でも、無理もないと納得もしました。ゴジラみたいなもんですよね、奴らは^^;
グロムの一面を妹視点からとらえた結果「アイルーみたい」という表現になりました。
イカズチさんに「これキャラちが~う!」と言われたらどうしようと内心ビビっておりましたが、
気に入って頂けて何よりです^^
2話はこれの続きで、まだユッカは旅に出ません…^^;
ハンター年齢達してないこともあり、彼女の心情に重きを置いて進んでおります。
のんびりおつきあいくだされば幸いです。
ユッカが今13って事は……
グロムはこの時点で、約1年のキャリアがあるって事ですよね?
早速、拝読させて貰いに来ました。
『一個軍隊どころか、国ひとつ滅ぼされても当たり前といわれている。』
この言い回し、いいですねぇ。
Wiiの3でとある古竜種が文明を滅ぼしたのではないかと噂されたし、2(だったかな?)では旧大陸の都市ドンドルマが単体モンスターの襲撃を受け、ハンター総掛かりになるシーンもありました。
臨場感のある解説です。
『笑うとアイルーみたい』
グロムの笑顔まで描写しませんでしたが、コレ良いです。
早速、キャラ票に加えておかねば。
ユクモ温泉節、完全にオリジナルですよね。
すげぇなぁ。
これだけでグッと親近感が湧き、話に掴まれます。
しかし、こんな歌を妹に教えるとは……ろくな事せんなぁ、グロム。
正直、一話目でこんなにすんなり状況説明が可能とは思いませんでした。
情報量だけでも『兄妹の関係』『饅頭屋』『ハンター』『幼馴染みとの関係』『グロムの馬鹿』と多岐にわたり……。
二話目でどうお話が動き出すのか、楽しみですねぇ。
イカズチさんの世界観、キャラ設定は同じく、俺が次の章を書く連作形式になっています。
モンハン好きな方、小説好きな方、イカズチさんの第1~2章も合わせてぜひどうぞ!^^
イカズチさんの作品はこちら↓
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=654916&aid=29376322