Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター 勇気の証明~三章0-2

承前【ユッカと狩人】

「ユクモよいとこ、一度はおいで~」
饅頭作りがひと段落したところで、どこからともなくチャらい男の歌声が聞こえてきた。
いかにも軽々しい歌い方だが、元が低めの美声なので、それなりに上手く聞こえる。
「入れば白肌もっちもち~。男もスタミナ抜群だ~。共に入れば恋の花咲く~お嬢さん、ハンターだけにゃ惚れるなよ~」
「あっ、お兄ちゃん!」
店先に商品の饅頭を並べていたら、まるで酔いどれみたいに上機嫌の顔をした兄グロムが、ひょっこり顔を出した。
「おす! ユッカ、元気でやってるかぁ?」
「お、お兄ちゃん…っ」
のほほんとこちらを見下ろす兄の笑顔を見た途端、ユッカのつぶらな目にみるみる涙が盛り上がった。
「お、おい、なんだよ、泣くなよユッカ」
きっと良い仕事をしてきたのだろう。報酬をたんまりもらって浮かれていたグロムも、さすがに妹の涙にはうろたえた。
とりあえず泣きやませようと、大きく固い手のひらでユッカの栗色の髪をかきまわす。半月ぶりの兄のぬくもりに、ユッカは感極まって、ますます泣けてしまった。
「ユッカ、泣くなよ~。俺、そんなに怖い顔してるか?」
困ったようなグロムの声に、ユッカは両手で顔を覆ったままぶんぶんとかぶりを振る。
グロムの顔は怖くはない。むしろ逆だ。まったくの無傷、きれいなもんである。
強靭凶悪なモンスターを相手にしては、ベテランハンターでも五体満足で帰ってこれる保証はない。
しかしグロムはミーラルとコンビとはいえ、手足ひとつ失わず、いつも無事に帰ってくるのだ。もちろん、こなしてくるのは簡単な採取クエストなどではない。
ボルボロスやギギネブラなど、普通なら一生お目にかかりたくないようなモンスターを狩ってきているのである。
それがどういうことかは、ユッカの小さい胸にも理解できた。
なんだかんだいって、グロムはハンターに向いている。
もう、こんな小さい饅頭屋を一生守る気はないのだ。
(お兄ちゃん、いつか戻ってこないかも)
ユッカはそれが一番心配だった。ギルドの仕事を受け、何日もかけて狩り場へ出向き、無事狩りを終えて帰ってくるのは一か月後。そんな日々が、もう一年近く続いている。
さっき泣けてきたのも、もう兄が帰って来ないのではと、心配が募りに募っていたせいだ。
それなのに、このバカ兄ときたら、妹がなんで泣くかちっとも察していないのだ。

「おや、グロム! 戻ってきてたのかい」
「あっ、母ちゃん!」
店の奥から出てきた母に、グロムは驚いてユッカの頭から手を放した。
「ああっ、ユッカ! どうしたの、なんで泣いてるの? グロム! あんた、またユッカに何かしたね!」
「し、してねえよ! 俺の顔見たら勝手に泣いたんだって!」
売れ残った饅頭を食べているせいで、最近とみに丸くなってきた母の顔が怒気にふくらむ。グロムは、母の振りあげた手のひらに怯えて逃げ惑った。
そんなところは、ユッカの知る兄そのものなのに。
ユッカは手の甲で涙をぬぐいながら顔をあげる。と、いつからそこにいたのか、鎧姿の黒髪の少女が、こちらを見て立っていた。
「あっ…」
「ユッカちゃん、こんにちは」
目元涼やかな美貌が、ふっと和らぐ。ミーラルだ。
「こ…こんにちは」
最近、やけにきれいになった気がする。
村生まれの雑貨屋の娘なのに、佇まいがどこかの女騎士のようだ。
グロムとハンター稼業をしているせいか、体つきもきりっとひき締まって凛々しい。
昔から彼女の気の強さがちょっと苦手だったけど、武装していてはますます近寄りがたい雰囲気がして、なんだか気遅れした。

「ミーラルちゃんか。いらっしゃい」
「おじさん、こんにちは」
父が出てきて、ミーラルに挨拶した。ミーラルも礼儀正しく頭を下げる。背まで届く黒髪が、さらりと音を立てて落ちた。そこはかとなく良い香りがするのは、きっと、ここに来るまでに温泉でひと汗流して来たからだろう。
「その様子だと、今回の狩りもうまくいったようだな」
「はい。おかげさまで。あの、これ、ファンゴの肉です。良かったら食べて下さい」
「おお~! こいつはうまそうだ。今夜はシシ鍋だな! いつもありがとうな」
「いえ…」
思いがけないごちそうに手放しで喜ぶ父親に、ミーラルは微笑を返した。そんなそつのないところは前と同じだが、ユッカにはやけに大人っぽく映る。
それじゃ、とミーラルが踵を返しかけたところで、母から逃れてきたグロムが追いついた。
「ミーラル! 明日、ギルド行こうな~!」
「…お前」
振り向いたミーラルは、グロムの能天気な笑顔を見て、複雑に眉を寄せた。怒ろうか迷っている顔だ。それが、ほどなくしてふっと和らぐ。
「しょうがない。またつき合ってやるか」
「いえ~い!」
はしゃぐ兄とミーラルは、側に立っているユッカのことなど意識していないようだ。
小さい頃は、三人で仲良く遊んだこともあったのに。
なんだか仲間外れみたい。
ユッカはすっかりいじけて落ち込んでしまった。

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2013/06/01 11:14
あびにゃんこさん、コメント感謝です。

これは40回以内に終わるという計画で書いていましたので、話が進むスピードが速いです。
キャラ立ちは、イカズチさんが最初にグロムとミーラルを考えていたので、私がそれを膨らませるように書いていました。
イカズチさんはキャラ立てが上手で、むしろ私の考えたユッカが動かしづらく、苦戦して書いた思い出があります。ww

この当時はニコタが2000字しか書けなかったので、その範囲内に収めるように努力していました。
無駄を省いて、どこを読み手に読ませるか、今でもいい勉強になっています^^
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2013/05/31 18:05
ちょっとおバカに映るくらいに陽気な兄グロム。
端正な顔立ちで言葉少ないミーラル。
グロムをとても慕っているユッカ。
とても分かりやすいですね^^
意外とどんどん進みますね。
フムフム、こんくらいの速度があってもいいのね!
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2011/07/23 21:41
アイマールさん、コメント感謝です。

そうですね、そこはあえてわざと書きました。
でも、ここで見せている顔も、グロムの一面でしかないんです。ユッカの見ていないところでは、やっぱりドジなこともしていると思います^^

戦うモンスターや、ハンターの強さにもよりますが、まあ、あいつら相手にすべてのハンターが無事じゃないってことを書いたんですよ。
実際、凶悪なモンスターのせいで多くの人が命を落としている…と、ゲームにもテキストとして出てきますし。
失った体をギミックに…鋼錬みたいですね!
マシリトとは懐かしい~!ww
そういえば、アラレちゃんに大怪我負わされて、毎回改造手術していたあの人って…かなりシュールでしたね…^^;
でもそのアイデア、良いと思います。確かにちょっと、倫理観にひっかかりそうですが^^;
ていうか、その設定で、生身で生き残って戦ってるハンターって、神扱いですよね。回避が(笑)
アバター
2011/07/23 15:13
イカズチさんの描くグロムとは、また違った印象ですね。
やっぱり何回もクエストを繰り返すと、たくましくなるんですねぇ。
でも「ハンターだけにゃ惚れるなよ~」の歌に、ちょっとニヤッとしてしまいましたが。www
こういう歌、どこの世界でも歌ってそう。www

ふと思ったんですけど、ハンターは五体満足で帰って来れないってあるじゃないですか?
これを逆手にとって、失った体をどんどんギミック化していくゲームがあっても面白そうじゃ
ないです?
最後にはアラレちゃんのDrマシリトみたいに、生身の部分が無くなってる、みたいな。www
モンハン4は、その路線ってのも面白いかも。
狩ったモンスターの骨や鱗で作った腕とか、足とか。www
…完全にR-15指定だわ、そのゲーム。
アバター
2011/07/20 08:18
イカズチさん、コメント感謝です。

またも冒険に行かず、のんびり展開ですみません^^;
まだ幼い女の子が主人公なので、戦いに行くにもそれなりに覚悟とか気持ちの整理が必要と思い、この調子であと一回あります。おつきあいくだされば幸いです。

そうそう、グロムとミーラルがカッコいいのは、ユッカの目線から見て、2人が成長したことを書きたかったんですよ。
命のやり取りは重いですからね。必死に生き残ろうとし、また、お互いを助け合ってきた戦友の絆は、普通の友情を超えるそうですし。
アリス師匠にビシッと叩きこまれているんでしょうね。ハンターの覚悟とか、戦い方とか。
でも、普段は普段の顔がある。そこを書きたかったんです^^

俺もね、中学生怖いんですよ。なにしでかすかわかんないしw^^;
でもいろいろいますよね、中身がしっかりした子もいるし。

ん?ハンターの血脈ですか?
もしかして、グロムの血筋にはハンターがいるんですか?
おお、それも面白いですね!
すぐにストーリーには出さないですけど…そこも念頭に置いて書いていこうかな。
しかし、彼らは頑丈ですよねえ。
毎回ジャンプするたびに、なんで死なないんだろう…と不可解になります(笑)
渓流のつり橋から落ちたときは、さすがに死んだように横たわっていますけどねw
アバター
2011/07/20 08:10
まぷこさん、コメント感謝です。

そうです、これはユッカ視点で書いているので、グロムやミーラルも、彼女の気持ちがプラスされております。バイアスと言うか、スカウタ―? 違うな、なんだっけ。色眼鏡?? 
……。とにかく、そんな感じです(^∇^;)

でも、グロムも修羅場と経験積んでいるので、やはり同年代でものほほんと平和に暮らしている子とは違うと思うんですよ。その変化も書きたくて、こののんびり展開です^^;
アバター
2011/07/19 18:11
早速の第二話、拝読させて頂きました。

私の作と違いユッカの繊細な心情を掘り下げるのがお上手ですねぇ。
まぷこさんも仰ってますが、肝心なところがわかってないくせに妹を思うグロムが格好良く映ります。
またミーラルもかなり魅力的に描写されてますよね。
まぁ、二章の最後から半年経ったころですから、アリス師匠にビシビシしごかれて自信が現れて来ているのでしょう。

十五歳と言う年齢ですが、最近の十五歳って馬鹿になりませんぜぇ。
身長なんか私を越えるのがゴロゴロ居ますからね。
(ちなみにイカズチの身長は百七十五あります)
中学三年生と言えど子供の感覚だけでは見られないですよ。
ましてモンハン世界はハンターの血脈が受け継がれるのでしょう。
頑丈なガタイの良い人達が多いのではないかと……。
どすかね?
アバター
2011/07/19 13:49
『おにーちゃん大好き』な妹の視点、というバイアスが掛かってるせいか、グロムがやけにカッコいいです。


……でも、まだ15なんだよね?



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