モンスターハンター 勇気の証明~三章0-3
- カテゴリ:自作小説
- 2011/07/09 10:20:47
結【ユッカと狩人】
その晩、ユッカたちは久しぶりに家族全員でシシ鍋を囲んだ。
牙獣ファンゴの肉は野生の臭みがあるが、酒と調味料で濃く味付けると、クセは極上の味わいと香りを醸し出す。
野生のモンスターの肉は、行商人が持ってくるか、ハンターたちが狩ってこないと集落に流通しない。
家畜では味わえない高級食材として珍重されることが多く、大国の貴族などは、わざわざ珍味や美味を求めてモンスターの狩りを依頼するほどだ。
ファンゴは比較的狩りやすいモンスターとはいえ、普段はなかなかありつけない。
こうしておすそわけしてもらえるのも、身内にハンターがいてこそだろう。
けれど、そんなごちそうを前にしても、ユッカの心は晴れなかった。
ぐつぐつ煮える鍋を前に、家族は無邪気にはしゃいでいる。
グロムがハンターになると宣言したとき、両親は反対もしなかった。
いつもヘラヘラしているグロムがモンスターを狩れるとは、思いもしなかったのだろう。
どうせ尻でも打って、痛がってすぐに帰ってくるよ~と、母は豪快に笑ったものだ。
しかし、グロムは今もこうしてハンターを続けている。
着々と実績を上げ、今ではハンターランク2だ。中クラスの実力者として、ギルドからもそこそこ信頼を置かれているポジションである。
それには両親も素直に感心しているようだ。「あのグロムがねえ」と、時々笑って話をしていることがある。親としても、息子が一人前になるのは嬉しいのだろう。
「でさ~、ドスフロギィの毒の息を、大剣でガチッとガードしたわけよ。なるべく息もしないようにしてさ。吸うと即死するから。――え? 怖かねえよ、ただのトカゲだと思えば。で、奴が隙を見せたところで、ずばっと斬りおろして…」
両親に、自分がどれだけ大型モンスター相手に勇敢に立ちまわったか、グロムは得意げに話している。
あのとぼけた兄がそこまでカッコよく戦えているとは思えない。たぶん面白おかしく話を大きくしているんだろう。
でも、ユッカは全然話についていけなかった。
(お兄ちゃん、もうわたしのお兄ちゃんじゃなくなっちゃったみたい)
グロムは今年15歳になった。でも、村でずっと暮らしている同い年の少年たちとは顔つきがまったく違っている。
こうしていると普段のおちゃらけた兄なのだけど、たまに、ふっと『男』の目をするときがあるのだ。
そのまなざしをする瞬間、グロムはここにはいなくなる。
家のことも、ユッカのことも忘れて、ただひとりの狩人(ハンター)になるのだ。
ハンターはひとつの場所には留まらない。報酬のため、あるいは武の頂点を極めるため、世界各地を渡り歩く。
いつかきっと、グロムもそんな男になるんだろうか。もう、ここには帰ってこないんだろうか。
(嫌だよ、そんなの。お兄ちゃんがいなくなるなんて絶対やだ!)
ユッカはガチャンと箸をテーブルに置き、立ち上がった。父が驚いてユッカを見上げる。
「どうした、ユッカ。鍋、まだ残ってるぞ」
「いい。ごちそうさま!」
父や母、グロムまでもが、不思議そうにユッカを見ていた。泣きだしたくなるのをこらえて、ユッカは食堂を飛び出した。
ニ階に駆け上がり、まっくらな自分の部屋に戻ると、ベッドにうつぶせに飛び込んだ。
お気に入りのアイルーのぬいぐるみを顔に押し当て、肩を震わせる。
「わたしもお兄ちゃんと行けたらいいのに。そしたら、ずっと一緒にいられるのに」
ぐすぐすと鼻をすすりながら、ユッカはぬいぐるみに話しかけた。
「わたしもハンターになりたいな。でも、わたしまで家を出たら、お店が…お父さんやお母さんが困っちゃうよね」
まんまるの目をした猫の顔は、にっこり笑ってユッカを見返すばかりだ。はあ、とユッカは重い溜息をつく。
グロムがハンターになることを許されたのは、「馬鹿は殺されても死なない」という、両親の妙な信頼あってのことだった。
それに、いずれはハンターを辞めて実家を継ぐと信じているのかもしれない。
能天気なところがある両親だが、ユッカまで危険なハンター業に就きたいと言ったら、きっと猛反対するだろう。
ただでさえ人手が足りない饅頭屋だけど、他の人を雇うほど余裕もないのだ。
「でも、時々付いて行くくらいなら、許してくれるかな?」
そうだ。何も、ハンターを本業にすることもないのだ。グロムならきっとユッカを守ってくれるだろうし、毎回旅に出なければ、店も手伝えるし。
――これ、名案かも?
はっとして顔を上げ、ユッカはぬいぐるみの顔を見つめた。愛すべき友達の『ランマル』も、「ナイスニャ!」と言っているようだ。
ユッカは笑顔を浮かべ、キャーと歓声を上げてぬいぐるみを抱きしめた。
「うん、決めた! わたし、14歳になったらハンターになる!」
ここまで序章ですね。序章って書いておけばよかったんですが、別にいらないかとも思って。
序章と必ずつける決まりもないですし、次の流れにスムーズにつながるかなと。
主人公が女の子なので、おきゃんな(古いか?)描写を入れました。
ユッカの成長物語として書こうとしたので、このふつうの女の子がハンターになっていくまでの流れとして、ぬいぐるみをギューとしたシーンを入れました。
楽しくなりそうだとのこと、ありがとうございます。
でも蒼雪の書くキャラと話はいつもどこか重いと言われているので(笑)、このあとちょっと過酷な展開が待っています。
重くなり過ぎないよう気を付けましたが、頂いた感想からハッとすることもあり。
そこで軌道修正したりして、今の連載も続けております。あびにゃんこさんも、何でもおっしゃってくださいね。
あ、心が折れないていどに(w)
ユッカちゃんお兄ちゃんと一緒に行きたい一心でハンターになる決心しちゃいましたね。
キャーとぬいぐるみを抱きしめるあたりがなんとも。
かわいらしいです^^
テンポもよくてすんなり読み進められました。
楽しい物語になりそうですねー!
なんと…最高の感想を頂いてしまいました!楽しかっただなんて…嬉しいです!(ノД`)・゜・。
こうしてキャラのブレがなく書けるのも、事前にイカズチさんと綿密に打ち合わせしていたお陰もありますが、何より、彼のキャラ造形力が優れているからですね。
グロム達はとても動かしやすかったのですが、自分のキャラは難しくて、それでユッカを理解する為に行数を割いたんです。
可愛いと言ってくださって本当に良かった。書いて良かったw
エリンはですね、アニメしか見た事ないんです。原作もいずれ読みたいです。
精霊の守り人も、アニメを見たきりなのですが、とても印象に残っています。バルサとタンダの仲を密かに応援していたりして…良いアニメだったな~。
チャグムをバルサが叩く場面なんて、涙が出ましたよ。
あ、話がそれましたw
丁寧なご感想、とても励みになります。またのお越しをお待ちしております^^
感想を一言で表すなら「あ~、楽しかった!」
イカズチさんの作品の方もまだ読み始めたばかりなのですが、両方を読んでいても全く混乱しません。
それは、きっとお二人がしっかりと書いていらっしゃるからなんでしょうね~。
ユクモ村もグロムも、私の中ではブレずにちゃんと想像できます。
イカズチさん家のグロム君は、まだハンターになりたてで初心者。
蒼雪さん家のグロム兄さんは、ハンターランク2。しかも妹ユッカ目線での描写なので、カッコよさは二割増しくらい?(笑)
別々の作品なのに、どちらを読んでいても、ちゃんとグロムは同一人物だと思えるから素晴らしいです。
そして、可愛いユッカちゃん。
彼女がここまで可愛らしく思えるのは、蒼雪さんが丁寧にここまで描写してきたからこそ、ですよね。
今後が楽しみです^^
下のコメントも拝見してしまったのですが、獣の奏者エリンがモデルなんですね。納得です^^
上橋菜穂子さんの作品は大好きです。しっかりと描きこまれたファンタジーでいつも魅了されます。
と、話が逸れてしまいました^^;
また続きを読みにお邪魔しまーす^^
イカズチさんは、無印から長年プレイされてる熟練ハンターさんですから。
モンハンの世界観を熟知していらっしゃいます。なので、もともと奥行きのあるモンハン世界の設定を活かすことができてるんですね。
ウィズも、全盛期のころはオリジナルのキャラを出した小説がいっぱい出ていました。
今みたいに固定キャラがお芝居するゲームと違って、アメリカのあのゲームは、プレイヤーがダンジョンに落ちているテキストを読んで、勝手に想像を膨らませるタイプでしたよね。RPGの先がけだったんですけど。
モンハンも、その手と同じタイプではあります。でもまあ、要はどれだけその世界に住人としているか、ということに尽きますよね。2次創作はとくに。
住人度が深いほど、あたかも本物のゲームにあるの?ってくらい、リアリティが出せるわけです^^
余談ですが、ウィズ全盛期のころって、ウィズプレーヤーは「大人」「玄人」のイメージがありましたね。
ウィズやらなきゃ、真のゲーマーじゃないぜ、的な。
俺は当時小学生だったんで、ドラクエやFFのほうが楽しかったなあ。
PSで移植されて、ようやくりルガミンサーガとワードナをクリアしました。難しいけど、攻略本見ながらでも楽しめるのが奥深いところですね。
それでようやくリレー小説だって気付きましたよ。^^;
先にイカズチさんの方から読むべきでしたね~。
いつも自分の訪問欄の順に回ってるから。逆に回れば良かったです。^^;
ゲームの設定じゃなくて、イカズチさんのオリジナルだったんですねぇ。
モンハン全く知らないから、そういう設定だと思い込んでました~。www
1回のクエストあたりに一定の割合で仕送り代を予めギルドの方で控除して(グロムに)払い、ギルド側で積み立てた金額が月末までに所定の仕送り代に満たなかったら追加徴収するか翌月の天引き割合を増やすとか、逆に多かったら月末のクエストは天引きなしにするとか……
イカズチさんと合作するときに、ちょっと打ち合わせしたんですよ。
で、グロムとミーラルについては、イカズチさんが既に最後までシナリオを組んでいたので、俺が変に二人を動かすわけにはいかなかったんです^^;
そこで、2人を客観的に見る人~グロムの妹、というキャラを俺が作りました。
モデルとしては、エリンなんです。獣の奏者w
エリンみたいな、しっかりものの可愛い女の子を目指しました。でも、どっか普通の子です。
グロムは、天引き無理でしょう…^^;
すぐに手持ちを自分の装備に使う男ですからw(イカズチさんの第一話参照)
なるほど~。www
あれは確かに酷い兄だ!www
人を雇う余裕なら、きっと大丈夫でしょう。
グロムに仕送りさせりゃ~いいんですって。
クエストの賞金を、毎月一定額天引きするんですよ。
饅頭屋押し付けたんだから金払えって、私なら言いますわ。 ( ̄m ̄*)プッ
これはユッカのブラコン目線で語られていますからね~^^;
グロムはユッカの魅力に気づいてないんですよ。ていうか、家族ってそんなもん(笑)
でも、グロムにも隠れた優しさ・美点がある、という所は書きたかったんです。
まあお約束なんですけど、ユッカとグロムの幼いころの思い出が後ほど出てきます。
で、なんでここまでお兄ちゃん子になったかというエピソードが語られます。
これもベタなんですが、はずせません。
ちなみに、
>あんなしけた饅頭屋、妹にくれてやる
については、
「グロムひでえ~」
と思った俺のリベンジでもありますwww
でも、ここをユッカのハンター発起の理由にしたかったのでこんなに長くなりました。
明日はやっとハンター一年生です。お楽しみに^^;
こんな可愛い子が居たら突発性暴力症のミーラルなんかほっとくのが普通じゃないですか?
あ、妹か。
グロムには隠れた優しさがあり一番身近なユッカがその事を良くわかっている……のでしょうか?
キャラを作った本人ながらわからなくなってきました。
まぁグロムって、悪い奴で無い事は確かなんですけどねぇ……頭意外は。
それにしても……私が「あんなしけた饅頭屋、妹にくれてやる」の台詞一つで片付けてしまったものを、よくここまで引き込めるようなお話にできるものですね。
さすがは道場主。
次回はユッカのハンター姿が拝める(?)かと思うと楽しみです。
あ、人出 人手…?
しまった!ほんとだ~!間違ってました!
はずかし~!すぐ直しますね!(^∇^;)
いや、お店の場合は『人入り』だね。(-_-)
いや、お店は繁盛してるんだから、足りないのは『人手』が正解かな?\(◎o◎)/!
次からユッカのハンター生活が始まります^^;
初稿みたいなものなので、改良点は多いですが…、今回は久しぶりに自分でも書きたいと思った作品なので、好き勝手に書かせて頂きます^^;
ゆっくり展開ですが、もうしばしおつきあいください。