モンスターハンター 勇気の証明~三章-16
- カテゴリ:自作小説
- 2011/07/31 21:12:09
【クエスト失敗】
「お兄ちゃん、ミーラルさん!」
「なっ――、ユッカ、なんでここにっ!」
真っ先にジンオウガ目がけて突進しかけたグロムは、ユッカの姿を見るなり仰天した。
「ユッカちゃん! 無事なのっ?」
ミーラルがこちらに走ってくる。彼女は、一目で状況を把握したようだった。
倒れたオトモとハンター、そしてジンオウガ。月明かりの下で、少女の美貌が痛ましくゆがんだ。
ジンオウガは、やっと混乱から立ち直ったようだった。
けれど、まだ身体には臭気がしつこくまとわりついている。水辺でこの臭いを洗い流すべきか、それともにっくき人間どもをこらしめるべきか。獣は低く唸っている。
ミーラルは、厳しい声でグロムに言った。
「撤退だ、グロム。――誰がなんと言おうと、絶対にだ!」
「…わかった…」
ミーラルの声に込められた強い怒りに、グロムの意気込みも萎えたようだった。
ミーラルは自分のポーチから煙玉を取り出すと、迷わずジンオウガの手前に投げた。たちまち真っ白な煙幕が辺りを覆い、モンスターの目からハンター達を隠す。
「ユッカちゃん、立てる?!」
煙幕を張るなり走ってきたミーラルが、早口にユッカに尋ねた。
煙の中、かすんだミーラルの顔を見て、ユッカはしっかりとうなずいた。
「この人も一緒に! 助けてくれたの」
ミーラルはうなずいた。大声でグロムを呼ぶ。
「グロム! この人を運んでくれ!」
「あいよー!」
ランマルを両腕に抱えたグロムが走ってきた。ミーラルに手渡そうとするのを、ユッカが遮る。
「…この子は、わたしが連れてく」
「…よっしゃ」
煙幕が晴れるまで、もう時間がない。
多くを問わずに、グロムはランマルをユッカに託すと、倒れているミランダを両腕に抱きかかえた。
「行くぞ!」
ミーラルが先に走り出し、ユッカ、グロムもその後を追う。悔しげな獣の咆哮が轟いたが、三人の足を止めることはなかった。
「…あ、ミランダさん! よかった、気がついた…!」
「…ユッカ…?」
穏やかな夏の午後。開け放った窓から、そよそよと気持ちの良い風が吹いてくる。
窓際に置かれたベッドの上で、ミランダはぼんやりと天井を見上げた。
「…もう、三日間も眠っていたんですよ。このまま目を覚まさないかと思った…」
ユッカはミランダの手を取って涙ぐんだ。ミランダは、まだ意識がはっきりしないのか、焦点の定まらない目で上を見ている。乾いた唇が、かすれた声で尋ねた。
「…ここは…」
「わたしの家です。あ、何も心配しないで! お父さんもお母さんも、わたしの命の恩人だからって、とてもミランダさんのこと、尊敬しているから。いつまででもここにいていいんですよ」
「……」
初めて、ミランダの眉がぴくりと動いた。瞳に生じた剣呑な気配に、ユッカもはしゃぐのをやめる。
「…医者を、呼んでくれ…」
「ミランダさん、今は寝ていたほうが…」
「…呼んでくれ。早く」
ミランダは、顔をそむけた。ユッカはのろのろと立ち上がった。
「はい…」
ドアを閉めると、普段着姿のグロムが廊下に立っていた。
「…ミランダさん、どうよ?」
「…目、覚ました。けど…なんか怖いの…」
「…そっか…」
「お医者様呼んで来い、って。わたし行かなきゃ」
「…うん。…あ、俺、ミーラルとランマルに知らせてくるな」
「…うん」
とぼとぼと、玄関へ歩き出した妹に、グロムはどこか気まずそうに声をかけた。
「…ごめんな。…全部、俺のせい…だよな…」
「…いいよ、もう、そのことは」
むりやり笑って、ユッカは振り向いた。
「お兄ちゃんがおバカだってことは、あれでよーくわかりました!」
「な、なんだよ! 俺はなあ、これでも俺なりに…!」
むきになったグロムだったが、さすがに今回のことは身に応えたようで、また肩を落とす。
「…ほんとに、ごめんな、ユッカ」
しょぼんとしているグロムは、まるで雨降りの中ずぶぬれで立っているアイルーみたいだ。ユッカは苦笑した。
「…ありがとう、お兄ちゃん」
ひとつ笑うと、ユッカは身をひるがえした。走りながら、我慢していた涙が、ころりと頬を転げ落ちる。
(お兄ちゃんのバカ…!)
泣きながら、すごく笑えてくるのが自分でも変だと思った。
兄のことは、すごく腹が立つのに、拒絶できなかった。
今回の失敗は、そもそもがグロムのせいだというのに。
でも、ユッカにはどうしても憎めないのだ。
三日前。
ジンオウガから逃げ出したユッカ達は、逃れてすぐに、ギルドと契約しているアイルー達の群れと遭遇した。
彼らはクエスト離脱したハンターを回収するために、昼夜を問わず狩り場を歩き回っている。
彼らに会ったユッカ達は、クエストリタイアという苦渋の決断をした。
ユッカのクエストはまだ残っている。けれど、瀕死のミランダとランマルを、とても放ってはおけなかったからだ。
感想ありがとうございます^^
俺も、初めてジンオウガが乱入したときはびっくりしました。
「今の時点じゃ勝てないですから」って、たしか、メッセージが出ていた気がします。
そこまで言うなら勝てないな、と、俺はまっさきに村に戻りました^^;
一度戦って、強さを知るのもありだったんですが。
このジンオウガとの戦いは、実はイカズチさんが先にグロム・ミーラルで考えていらっしゃったんですが、
俺に譲ってくださいまして。
ありがたく、奴の恐ろしさや強さを書かせていただいてます。
退くことも勇気、という内容、汲んでくださって本当に嬉しいです。ありがとうございます^^
ゲームの小説ですけど、リアリティ~背中合わせの危険・死を念頭に書いているので、ちょっと話が重たいかもしれませんが、重すぎにならないよう気をつけております。
今後も、貴重なご意見くださると嬉しいです。
そうです。前に、いちごジュニアさんが鋭いご指摘をされていたんですが、そのポイントが今回のお話の焦点なんですよ。
次の次で、ミランダがどうしてジンオウガに負けたのか、わかります。
理由は、きっとお読みになってがっかりするかもしれませんが、「いろんなハンターの人生」を書いてみたかったので…。
あ、これは続きで^^;
そういうことになりますね^^;
最後の文章にもありますけど、たった1日の出会いとはいえ、密接にかかわってしまったために、放っておけなかったんです。
ミランダは死にかけているので、再起できず…。といった感じです。
ゲームだと、どんなに体力少なくても、キャンプのベッドで寝れば毒も全快しますが、ここではリアリティを出すために厳しい内容にしています。
えーと、モンハンのゲームのシステムをご説明させて頂きますね。
このゲームは、ストーリーがないです。
一応、マイキャラはユクモ村の村長に招かれたハンターとなっています。村に自宅をあてがわれ、そこで、村長が依頼する狩りの仕事や、世界ハンター連盟みたいな組織「ギルド」から仕事を引き受け、ひたすらモンスターを狩るんです。
村長から雇われた設定なので、中盤に出る村長クエストでジンオウガを倒すと、一応のエンディングとなります。あえてストーリーを作るなら、
『ユクモ村の近くにある渓流と言う狩り場は、昔はわりと平和だったのにジンオウガが霊峰という秘境から降りてきてしまったために、襲われる被害が続出。ハンター(自分)は、村の平和を守るために狩りをするのであった…』
という感じでしょうか。
前に申し上げたかもしれませんが、この、グロムやミーラル、ユッカといった人物は、すべてイカズチさんと俺のオリジナルキャラです^^;
モンハンのアイテムやモンスター、世界観はそのままに、話は俺達で作っています。
ゲームにおいても、プレイヤーキャラは、顔や髪型、名前・性別にいたるまで、好きに作れるんです。自分の分身ですね。
そういうことなので、自分でキャラに「ユッカ」と名付けて、女の子にして、オトモの名前も「ランマル」にすれば、ある意味小説を再現できるわけです^^
俺も今、オトモに白いアイルーの「ランマル」がおります。小説書いた記念に、雇いましたw
私も「ざわめく森」での乱入で初めて会ったとき、無謀にも挑んでクエスト失敗の辛酸を舐めました。
初めての実践でナルガ・ジンオウガとの遭遇戦・・・私なら心が折れていることでしょう。
そこで逆に覚悟を決めたユッカちゃんは、実はハンターの強い資質を持ってるんだと思いました。
そして、ミランダさん・・・傷の具合が凄く気になるところです。
そこら辺が蒼雪さんの言う……な所なんですかねぇ?
おっと、先読みして回答をされると先を読む楽しみがなくなっちゃいますね。
ユッカちゃん、主人公なんですね。
ユッカちゃんとランマルで、ゲームをすすめることも可能なんでしょうか???
なんせ、春麗オンリーでストリートファイターはやりましたwww