モンスターハンター 勇気の証明~三章 27
- カテゴリ:自作小説
- 2011/08/13 22:36:41
【長い夜・2】
嫌な予感が的中した。ユッカの目の前で、グロムとミーラルは派手に吹っ飛び、地面に叩きつけられる。全身に青白い電光がまとわりついているのは、感電したからだ。
「――くっ!」
ミランダとランマルが同じ目に遭った光景がフラッシュバックした。ユッカは敵との距離を縮めるため、弓をつがえたまま走る。
ランマルが回復の笛を吹こうと角笛を取りだしたが、ジンオウガに飛びかかられて失敗した。小さな体が宙を舞うのを見て、ユッカは泣き叫びたい衝動にかられる。
今までも、窮地に陥ったことは何度もあった。回復薬が尽きて、もうだめだと覚悟したことは。
けれど、だめだと思うその裏で、「なんとかなる」と確信していたのも確かだ。
そうして、ユッカは一人で勝ってきた。ランク2への途中の道からは、頼もしいオトモのランマルが付いてきてくれたけれど、実質、自分の力で這い上がってきたのだ。
命からがらで生き残り、勝利すれば、小さいけれど自信がつく。その積み重ねがユッカを支えていた。
しかしジンオウガは、ユッカが初めて恐怖と敗北を味わった敵だ。
今の実力なら勝てるレベルだ。それでも、腹の奥底に居座った恐れは、あの時のまま根強くしがみついている。
(――負けたくない。死にたくない。――神様!)
ユッカは祈る気持ちで矢を放った。貫通矢は、まっすぐにジンオウガに狙いを定めて飛んでいく。
必死に地面を転げまわって前足を避けていたグロムとミーラルから、少しでも敵の視線を逸らさなくては。
二発、三発と連続で当てて、ようやく敵がこちらを向いた。数時間前と同じだ。自分がオトリになって、グロム達の回復まで時間を稼がなくてはならない。
「――こっちよ!」
心臓がドキドキしている。鼓動が速すぎて破けてしまいそうだ。弓を持つ手も震えている。
怖い。でも、逃げるわけにはいかない。
走りながら撃ち、撃ちながら走った。遠くで、ランマルが地面に穴を掘り、潜って行くのが見えた。アイルー族は、地面に潜ることで体力を回復させるのだ。
グロムとミーラルが、回復薬を飲んでいるのも見えた。粉塵を使わなかったのは、それだけダメージが大きかったからだろう。感電を直すため、ウチケシの実も飲むようだ。
(…このままじゃ、いつまでも終わらない)
隙を見計らって弓を収め、ユッカは思い切り敵から遠く離れた。そして、ポーチから平たく丸い、金属の板を取りだした。
ジンオウガが走ってくる。ユッカは急いで地面にそれを設置した。カラクリ仕掛けのそれは、設置終了の合図のごとく、直径五メートルほどの網を張り巡らせる。
「――さあ、いらっしゃい!」
あえてユッカは無防備のまま、罠の前に立ちつくした。猛り狂ったモンスターは、なぜ獲物が動かないのか、理由を問う事もなく突っ込んでくる。
ガチャッ!
巨体が仕掛けを踏んだ途端、ジンオウガの半身が地面にめりこんだ。いきなり下肢の自由を奪われ、ジンオウガは必死に前足をじたばたさせてもがく。
この、カラクリ仕掛けの落とし穴は、特殊な装置と薬品が組み合わされている。設置した途端、自動で強力な網が張られ、仕込まれた薬品が土を柔らかくするのだ。それにより、どこでも落とし穴と同じ効果を発揮できる。
「――かかった!」
すかさず、ユッカは矢をつがえた。迷うことなく敵の眉間や前足、胸を狙い撃つ。
「でかした!」
快哉はグロムだ。ミーラルも復帰してきて、もがき続けるジンオウガに、ここぞとばかりに斬りつける。
一見卑怯な手段に見えるが、少しでもこちらに有利なようにしなければ、たちまち命を持っていかれる。それが、モンスターとの戦いなのだ。
グアアッ、と、悔しそうにジンオウガは吠えた。腹立ち紛れに身をよじり、罠を壊して宙に跳躍する。
着地に巻き込まれないように散開し、再びユッカ達はモンスターを取り囲んだ。
ようやく、敵の動きや行動パターンが見えてきた。余裕とまではいかないが、代わりに闘志がみなぎってくる。
(…先生、早く来て!)
怒り狂ったジンオウガの凄まじい雷撃や爪の応酬に、グロム達のガードが追いつかない。頭では理解していても、体が追いつかないのだ。
それでも、懸命にグロムはシッポを狙い、ミーラルは上半身を攻める。ユッカは、二人に散弾が当たらないように、曲射と貫通を使い分ける。
長かった。一秒が、一分が、こんなにも長いと思ったことはない。
モンスターは疲れを知らず、ただひたすら殺戮の爪を振るい続ける。
弓を持つ腕が重い。グロムとミーラルにも、明らかな疲れが見えていた。
東の空がうっすら明るくなり始めている。
「朝が…。もう、そんなに…」
空を見上げて気が緩んだのか、ミーラルが足元をふらつかせた。ジンオウガが好機とばかりに迫る。
「ミーラル!」
庇おうとしたのか。グロムがミーラルの前に立ちふさがった、その時だった。
俺は、罠を使う事に最初から抵抗はなかった方です^^;
すでに述べていますが、そうしないと勝てなかったので。
勝つためなら何でもやる、というのは、スポーツマンには考えられないでしょうが、ケンカの世界では当たり前なんですね。と、どっかの少年漫画で見ましたが。
>狩りをしなくては生きていけない社会で暮らさなきゃいけない状況
(・I・。(- ェ -。(・I・。(- ェ -。ウンウン
まさに、その世界なんです、モンハンって。
甘い事言ってたら、人間が暮らしていけないんですよ。
この理論って、様々な状況に当てはまりますよね。宗教とか、政治とか。
きれいごと並べる前に、まずお前がやれよ、という。
生死をかけた戦いに陥ったら、余裕なんてなくなりますし。まあ、そういうことですよね^^;
ご理解頂けて嬉しいです。
良い小説だなんて、照れますよ~(*^~^*)ゝ いやぁ
好き勝手に書いたらこうなりました、というだけです。何かを訴えたくて書いたわけじゃないです。
ただ、自分の思う所はありますけどね。それで、何か感じてもらえたら嬉しいですね^^
優しさが心に沁みました。重ねてありがとうございます^^
モンハンは、楽しみ方人それぞれですよね。
俺みたいに、時間がかかってもいいから確実に勝利してのんびり狩猟生活する人もいれば、
テクニックを磨き、いかに早く倒すかに命をかける人もいて、
さらには、集団苛めみたいな事を楽しむ人もおり…さまざまです。
武器を持たせて「はいどうぞ」というゲームは、人間性が出ますね。
以前、動画で、アマツの拡散弾集団ハメを見たんですが、良い気分はしなかったなあ。
確かにノーダメージで数分で倒せて楽なんだろうけど、ある種の残虐さを感じてしまいました。
それに、いかに敵の攻撃を避けて自分の攻撃を当てるか、というところに、このゲームの美点があるわけですし。
仰る通り、上を目指して求道する姿勢に憧れと目標を感じます。
とかいう俺は、最近伸び悩んでいますけどね^^;
まだまだ、鍛錬が足りませんw
まるで本物の狩りの議論みたいで面白~い!^^
私は卑怯だと思わないですけどね。現実の狩りでも。
イヤイヤ、よく動物保護団体とかは、目くじら立てて怒りますけどね。
じゃあ、あなた達は狩りをしなくては生きていけない社会で暮らさなきゃいけない状況に立った時、
正攻法だけの狩りで本当に生きていけますか? と聞きたいんですよ。
生きていくって、そこまで甘くないですよ、実際は。
むしろこういうこと言う人は、昔の狩猟時代の生活を舐めてるんでしょうねぇ。
だからと言って、弱い動物をなぶり殺しにするハンターは、ハンターの資格ないですけどね。
実際の社会でも相手にされなくなるでしょうね、そういう人達は。
言動の端々にそういう態度は現れますからね。敬遠されて、歳を取れば摂るほど周りに友達が
誰も居なくなること請け合い。
寂しい老後、決定ですね。 ((-_-*))ウンウン
…という話を議論できる小説は、間違いなく良い小説ですよ!^^
倫理面無視の、ただかっこよさ、受けの良さを狙った小説なんて、今は掃いて捨てるほどあります
からねぇ。
重い話だなんて気にすること全然無いですよ~。
子供受けのするただのアクションものより、志の高い小説の方がよっぽどかっこいい♪^^
おそらく蒼雪さんもそのような想いから一文と思い、おせっかいながらフォローさせて頂いたまでです。
確かにランクも上がり素材も集まると、下位のモンスターを上位装備で切りまくり楽しむ集団がいます。
実際にネットでお会いしましたので。
ゲームである以上、楽しみ方は自由ですが、世界観にのめり込むと『ちょっと……』と眉を潜めざる終えません。
まぁ、人それぞれの自由ですが、私は少しでも上を目指して自分を磨く楽しみ方をしたいですね。
そう言うことが出来るゲームです。
フォローありがとうございます。優しい人だ…(´Д`A)
本文でも、卑怯云々のくだりは、自分で弁解がましく入れた部分です。
動けない相手を集団で…ですから。
でも、これくらいしないと勝てない、というのを書きたかったんです。実際そうですし…。
大昔の人も、きっとこうやって大型の獣を狩っていたんだと思います。
力で押してくるモンスターに対抗する手段として、人間側には知恵と道具がある。
お互い精いっぱい、命のやり取りをしているんだということは、既に公式ノベルでも語られておりますね。
ゲームでは、拡散祭りとかいって、わざと集団で嵌めて楽しむ人もおりますが、これは違うという意味での一文でもありました。
人間も、モンスターも、生き残るためなら、なんでもする生き物ですから…良くも悪くも。
なんだか、倫理観にかかわる重い話題になっちゃいました。すみません^^;
まぁ、直ぐに力量の差から使わねば狩れない事を悟りましたが……。
以前話したノベルでモンスターの保護団体が主人公に食って掛かった時も『武器や罠を使うのは卑怯じゃないか』と話していました。
それに対してハンター側のキャラが『モンスターには強大な爪や牙がある。私たち人間には代わりに知恵がある。お互い使えるものを精一杯使って、狩るか狩られるかの戦いをしているのだ』と応対していました。
弱点である属性武器を使う、閃光玉で目くらましをする、有利なスキルを駆使する、罠にはめる、多人数で狩りをする、など見方によっては『卑怯』なのかもしれません。
しかし、モンスターも特殊な技を身に付け、強力なブレスを吐き、他のモンスターを呼び寄せ、中には姿を消すものまで居ます。
もし、この回をお読みになり、ユッカの行動に疑問を持った方がいらっしゃり、コメントをお読みになって納得頂けたら幸いです。
蒼雪さんが罠に対し『一見卑怯な手段に見える』と言葉を使われましたので、老婆心ながらコメントさせて頂きました。