Nicotto Town


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モンスターハンター 勇気の証明~三章 28

【決着】

「やああああ!」
少女とは思えない怒号をあげ、ユッカはジンオウガに向かって突進した。走りながら弓を引き絞り、敵の眉間に向かって放つ。
会心の一撃が決まり、ジンオウガは怯んでのけぞった。その隙に、ユッカは閃光弾を振りかぶる。
「目、つぶってー!」
「――っ!」
グロムはふらつくミーラルの腰を抱き、横に飛んだ。二人がいた空隙に、ユッカの投じた閃光弾が炸裂する。
カッと真っ白な光が辺りを包んだ。闇夜でも見通せるジンオウガの目に、その光は剣のように刺さっただろう。
一時的に視力を奪われ、ジンオウガは戸惑ったようにたたらを踏んだ。
「はあっ!」
ユッカは再び渾身の力で矢を放つ。さっきまでは、接近戦の二人の邪魔にならないように、遠くから相手の気をそらすことに専念していた。
でも、今は違う。サポートを捨て、ユッカは戦士になった。弓の威力が一番発揮できる中距離を維持しながら、ひたすら相手の急所へ矢を撃ちこむ。
「ミーラル、やれるかっ?」
大剣の柄に手をかけ、グロムが早口に問う。当たり前だ、とミーラルはうなずいた。
「ここで、決着をつけよう!」
剣を抜き、ミーラルはジンオウガに飛びかかっていた。グロムも敵の後方に回り、シッポの切断を狙う。
「ニャニャー! 復活だニャ!」
「先生!」
ぽこんっと地面から飛び出した白い姿に、ユッカは笑顔を向ける。その間に、ジンオウガの視力も戻ったようだ。四肢を踏ん張り、猛々しい咆哮をあげる。
「攻め時だニャ! 吶喊(とっかん)ニャ―!」
「――うん!」
ランマルにうなずき返し、ユッカは重い両腕を叱咤して弓を構える。ランマルが、必殺の大タル爆弾を掲げて突進した。
「どりゃああ!」
グロムが大剣を大上段から振り下ろす。ばつん、と彼の剣が、ある手ごたえを伝えた。同時に、ジンオウガが甲高い悲鳴をあげる。その全身から、たくさんの雷光虫が弾け飛んだ。帯電が切れたのだ。
「やった!」
宙を飛ぶシッポの断片に、ミーラルが救われたような笑顔をみせる。グロムが片腕をあげ、ガッツポーズをした。
「ここで仕留めるニャ! 逃がすニャー!」
ランマルが叫ぶまでもなく、グロムもミーラルも、追撃にかかった。
尾を切られたジンオウガは、一時弱々しく後ずさりしたものの、まだ闘志を捨ててはいない。さかんに吠えて身を低くし、再び電気を溜めようとする。
(――心を止めて。集中するの!)
ユッカも足を踏ん張り、弓を引き絞る。ミーラルがジンオウガの前足を斬り裂いた。碧い鱗を破り、真っ赤な血潮がしぶきをあげる。
グロムの剣が、獲物の後ろ脚を斬りつける。また、血が飛び散る。
ユッカの手が震えた。いつ見ても、慣れない。慣れることはない。
でも。
「――ああっ!」
ガアアアッ、と、満身創痍のモンスターがユッカに飛びかかった。まるで、惰弱なユッカの心をあざ笑うかのように。
前足の爪にひっかけられて、ユッカの肩と脚が斬り裂かれた。地面に転がされると同時に、ガツンと来た痛みと衝撃に、一瞬気が遠くなる。
「う、くぅ…!」
とっさに回避したおかげで、傷は浅い。でも、痛みは容赦がなかった。
ズキズキが、立ち上がろうとするとガンガンに変わった。それでも、ユッカは立った。よろめきながら、一生懸命弓を構える。
「ユッカ! 離れろ!」
グロムが叫んだのがわかる。ミーラルが、生命の粉塵を取りだしたのも気づいた。ランマルが、自分に気を引かせようと、小タル爆弾を投げつけようとするのも。
「……っ」
ユッカは、矢をつがえた弓をジンオウガに向けていた。正直、立っているのもやっとだ。
逃げなければ、と、脳裏でもう一人の自分が言っている。そうしなければ、という思いはある。でも、手が勝手に、こちらを見下ろす獣に向けられていた。

ジンオウガが、遠雷のような声で低く唸った。
彼は覚えているだろうか。かつて、ユッカが一度、自分に恐怖し、敗北したことを。
自分が脚を奪ったハンターの仇を取るために、恐れを勇気に変えて狩り場に身を投じたことを。
彼は、覚えているだろうか――。

ユッカは矢を放った。疾風より早く飛び立った、対モンスター用の長大な矢じりは、ジンオウガの右目から脳天にかけて、一直線に貫いた。

オオーーーン……。

長く長く尾を引いて、雷狼竜の最後の声が夜明けの空に響き渡る。
グロム達は息を飲んで、碧玉の体がゆっくりとくずおれるのを見た。ズン…と、低い地響きをたてて、巨体が地に横たわる。

「…やった…のか? ユッカ…」
呆けたようにグロムが呟く。傍らのミーラルも、信じられないような面持ちでうなずいた。
「勝ったんだ、私達…」
「…まさか、三人がかりとはいえ、あの強敵を一晩で倒すニャんて…。最年少、最速記録だニャ」
ランマルの、驚きに満ちた賞賛の言葉は、しかし、ユッカに笑顔をもたらさなかった。


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2011/08/15 22:50
アイマールさん、コメント感謝です。

この世界において、生きる上での殺生は、避けられないものですよね…。
屠殺することを差別するのは、傲慢ですよね。肉や魚を食べる人達、全員が背負う罪のはずです。
それなのに、ある一種の職や仕事を蔑視するなんて、お前ら何様だと言いたいです。
歴史をひも解くと、支配階級が出てきた辺りから、なんだかその辺がおかしくなった気がします。
昔は誰もがやっていたことなのにね…。

俺も、こげ肉は作らないように努力してます。
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2011/08/15 22:45
そらさん、コメント感謝です。

長かったですか~^^;
ひとまず、ここまでお読みいただき、お疲れさまでしたw

でもこれ、ラスボスじゃないので(笑)
まだまだお話は続きますw
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2011/08/15 22:44
イカズチさん、コメント感謝です。

ジンオウガも、複数で出現したりしますけどね。なぜか、孤高という言葉が似合うモンスターです。

これ書いてる時、頭の中でメインテーマが鳴ってました^^;
最後に向かうシーンを書くと、いつも「終わりだぁ…」と、切なくなります。
書いている時は、早く終わりたくてたまらないのに(笑)
自分でも、ここは思い入れがあるというか、うまく書けた気がします。
気に入っている回となりました。

オウガの体から飛び去る雷光虫…次のシーンで書く予定です。
見切りをつけて去っていく、というくだり、頂きますね^^
アバター
2011/08/15 16:43
長い戦いが終わりましたねぇ。
戦いの終わりっていうのは、いつでも物悲しいもんですね…。
昔、世界中で生き物をと殺するのは、神職者みたいな特別な人の仕事として神聖視されてた
んですよね。
今では差別的扱いされてる地域も少なくないけど…。
自分の命を繋ぐために、他の動物の命を貰う。
悲しいけれど、これは生きていくうえで仕方のない事だから、食に関する感謝の気持ちだけは
忘れたくないですねぇ…。
アバター
2011/08/15 12:28
おおおおお、ラスボスが・・・・・・
長い戦いだったな~~~
アバター
2011/08/15 11:36
ゲームでもそうですが、ジンオウガの最後は何処か物悲しく、孤高であるが故の孤独に満ちた断末魔ですね。
倒れ付した巨体から蒼い玉が飛び去るのは、纏っていた雷光虫が宿主に見切りを付けて去って行くさまだそうです。
寂しいなぁ……。



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