Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター 勇気の証明~三章 29

【勝利、そして】

痛む足をひきずり、ユッカはジンオウガの骸(むくろ)に近づいた。
つい先刻まで暴威をふるっていた巨躯からは、ぽつぽつと青白い光が宙へ昇っている。
宿主に見切りをつけた雷光虫なのだが、ユッカには、それが雷狼竜の命のかけらに見えた。
死に顔は、穏やかだった。薄くまぶたが開いているが、とりわけ苦悶を浮かべてはいない。
弛緩した顎から、だらりと長い舌が伸びている。ユッカはそれを見た途端、はっきりと死を意識した。

長い間人々を苦しめていたモンスターは、死んだのだ。
もう動くこともなく。誰も襲う事もなく――。

なのになぜ、こんなに涙が出るのだろう。

ユッカは、別に彼が憎かったわけではないのだ。

彼もまた、自分が悪さをしているとは意識もしなかっただろう。

戦ったのは、お互いに、ただ、生きたかっただけ――。

「ううあああ~~~ん!」

がくりと膝をつき、ユッカは激しく泣き叫んでいた。止めていた心が動きだしたら、とめどなく悲しみが腹の底から溢れてくる。

ここに至るまでに、幾多のモンスターを倒してきた。でも、今みたいに泣こうとは思わなかった。
心が痛まなかったわけじゃない。けれど、涙は出なかった。ユッカはそれを、慣れだと思っていた。
でも違った。慣れてなんかいなかった。泣かなかったのではなく、泣くのを無意識に我慢していたのだ。
命を奪う重さと恐れ多さに、目をそむけていただけだ。
そうでもしなければ、とてもハンターを続けてはいられなかったから…。

「…ユッカ」
草を踏んで、ランマルがユッカの傍らに立った。
「…もう、やめたくなったニャか?」
「…先生」
涙でぐしゃぐしゃの顔を向けると、ランマルは、小さな手をユッカの肩に置いた。たまらず、ユッカはランマルの腹を抱きしめ、肩のあたりに顔をうずめた。
「ハンター、嫌になったニャか?」
「…ううん」
ランマルの、ふかふかのウルク服につっぷしながら、ユッカは洟をすすった。
「…嫌じゃない」
「…じゃあ、なんで泣くんだニャ?」
ランマルは、小さい子にするように、ユッカの頭を撫でた。
「…泣いたらダメなの?」
まだ顔をあげずに、ユッカは尋ねる。ランマルが小さく体を震わせた。笑ったのだろう。
「ヘタれは泣いても良いニャ。…ボクが許すニャ」
「…うっ」
初めて聞く、ランマルのいたわるような声だった。ユッカは再び肩を震わせた。
「うえええっ…!」
「…ユッカは変なハンターだニャ。でも、そういうところ、ボクは…」
ランマルが何か呟いた気がした。けれどユッカは、自分の号泣で聞き取れなかった。
喉が枯れるまでわんわん泣いていたら、山の端から、真っ赤な朝日が昇って来た。


「おかえり」
渓流から2日かけてギルドに戻ると、入口の所にミランダが立っていた。右手に杖をついている。
「ミランダさん!」
ユッカが真っ先に走って彼女のもとに行くと、ミランダは、杖をついていない方の手で、ユッカの肩を叩いた。
「知らせは聞いたよ。あんた達、ジンオウガを一晩で倒したんだって? すごいじゃないか」
「旦那様~、ボクも頑張ったニャ」
物欲しげにランマルがミランダにすり寄ると、「こら」と、ミランダは彼の眉間を指で弾いた。
「もう、あたしはあんたの旦那さんじゃないってば。いい加減、その呼び方はやめな」
「そんニャ~」
「ミランダさん、わざわざ出迎えてくださったんですか?」
ミーラルが尋ねると、ミランダは笑った。
「ああ。なんだか、いても立ってもいられなくてね。――そうだ。今夜はあたしがごちそうを振舞いたいんだけど、いいかい? それとも、あんた達、家で食べる?」
「いやいやいや! ミランダさんの料理に決まってるでしょ! 行きます、絶対行きます!なあ、ユッカ、ミーラル!」
お調子者のグロムが、はいはいと手を挙げて目を輝かせる。
いつかのように報酬からピンはねされない上に、タダでごちそうとあれば、喜ぶのも無理はない。
「…私も、そうしようかな。ユッカちゃんは?」
「もちろん、行きます」
ミーラルとユッカがうなずくと、ミランダはにっこり笑った。
「それじゃ、今夜7の刻に店においで。たくさん用意しておくからね」
「やあった~!」
大はしゃぎでグロムが飛び上り、受付嬢の失笑を買う。ミーラルが呆れたように額に手を当て、ランマルが「やれやれ」と肩をすくめ、ミランダが豪快に笑う。
(…帰って来たんだ、わたし…)
いつも通りのみんなの様子を見て、なんだかユッカはほっとした。

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2011/12/15 15:36
小鳥遊さん、コメント感謝です。

このシーンは、自分でも書いて良かった、モンハンやって良かったと思えたところでした。
ジンオウガも好きなモンスターなので、わりと見せ場があったんじゃないでしょうか。

ユッカが好きとおっしゃっていただけて嬉しいです!
ランマルも男前ですよねww
この一人と一匹でカップルになりそうなんですが、5章に出てくるイケメンが、なんかユッカと良い仲になるんじゃないかと思っとります。
脳内妄想では、相性が良かったんです^^;

出迎えは、やはりミランダさんですね。この人が出てくることで、「みんな良くやった感」が出ますし^^
グロムは、普段アホだけど実は良い男だと思って書いたので、そういう雰囲気が伝わって良かったですww
動かしやすくて、良いムードメーカーですね。
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2011/12/15 14:52
ユッカが泣くシーン、とても良かったです。
こうやって泣けるユッカが私は好きです^^
それにしても、ランマル……なんて男前なんだ~~!
そして、一番見たいと望んでいたシーンも読む事が出来て幸せです。
それは、闘いから戻ったユッカをミランダが出迎えてくれるシーン。
ここまでいっきに読んできて、この場面でふわっと気持ちが暖かくなりました。
グロムの三枚目ぶりも、実はイイ男なんじゃないかと思わせる空気を漂わせつつも、
やはり周囲から笑いを誘ってくれていて、良い感じですね^^
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2011/08/16 08:42
イカズチさん、コメント感謝です。

ほんとにね~、ランマル、どうしてお前は猫なんだい?(笑)
こんなに出来た男はいませんよ。今流行りのギャグで言うなら、「惚れてまうやろ~!」ですねwww

時刻の表記…7の刻っていうのは、俺の考えた時間の単位なんですが。今と同じ、「7時」的な。
あれっ、モンハン世界では、時間の概念…時計ないんですか?
公式ノベル読んだことないんですが、そっちでも?
飛行船とかあるのに、時計がないなんて…。
いや、そんなはずはないですよね。どっかにありますって、きっと^^;

次で本当に3章終わりです。…って、イカズチさん、もしかしてまだ出来てません?(^∇^;)
足怪我されたようで、お見舞い申し上げます。無理せず書きすすめていってくださいね^^
アバター
2011/08/16 03:57
ジンオウガの死に涙するユッカ、いい子ですね~。
慰めるランマルもおっとこ前。

ランマルは私の回も通じて今の所一番の『良い男』かもしれません。
アイルーでなく人間だったら間違い無くユッカと良い関係になったでしょう。

『7の刻』と言う表記はどこからですか?
この世界観で時刻と言う概念はあまりお目にかかった事がないので知りたいです。

うわぁ、次回で区切りですか。
次は私ですね。
いよいよ追い込まれて来ました。
アバター
2011/08/15 23:46
次回で、3章は最終回です。あともう一回、お付き合いくださいませ。



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