モンスターハンター 勇気の証明~三章 30
- カテゴリ:自作小説
- 2011/08/16 00:59:52
【旅立ち】
『や~いや~い。お前の母ちゃんウラガンキン~!』
『やめてよ~! お母さんはウラガンキンじゃない~!』
泣きながらユッカが訴えても、村の悪ガキ達は、はやし立てるのをやめない。
“お前の母ちゃんウラガンキン”とは、異国では“お前の母ちゃん出べそ”級の破壊力を持つ悪口として、ここユクモ村の子供たちの間ではポピュラーである。
六歳のユッカを、やや年上の少年達が、ぐるぐるとまわりを回りながら悪戯な歌を歌う。
のんびりした村でも、こういう嫌なガキはいるものだ。
『やめてよ~やめて~!』
ユッカが泣けば泣くほど、彼らは調子に乗って悪口を言う。ユッカは困ってしまって、ますます泣くしかなかった。
事の発端は、ユッカが、グロムの悪口で盛りあがっていた少年達に抗議したことだ。
饅頭屋のグロムと言えば、宿屋の甲斐性なしと同レベルで、村人たちのひそかな笑いの種だった。
良く言えば天然で朗らか。悪く言えば、お調子者で間が抜けている。美談より失敗が目立つので、何かと話題にされていたのだ。
それでも両親は、温かい目でグロムを見守っていた。悪い事をすれば叱るが、無理してグロムを矯正させようとはしなかった。おかげで、グロムはどんどんお調子者に磨きがかかっていった。
村の人はああ言うけれど、ユッカにとって、グロムは誰よりも立派なお兄ちゃんだった。
力持ちだし、虫取りが上手いし、よく面白い事を言ってユッカを笑わせる。
そして、彼の笑った顔は、ユッカの好きなアイルーみたいでかわいいのだ。
と、悪ガキ達に言ったら、「頭がおかしい」と一蹴された。
矛先はユッカに向けられ、少年達は、ユッカの父をハプルボッカと言い、母をウラガンキンと貶める始末。大切な家族をけなされて、小さなユッカの心は傷ついた。
ついにしゃがみこんで顔を覆うと、どこからか頼もしい声が響き渡った。
『こら~! お前ら、ユッカに何してんだ~!』
拳を振りかざして七歳のグロムが走ってくる。アホのグロムだ、と少年達がおどけた。
この時のことを、今でもユッカは忘れられない。
グロムはユッカを庇って仁王立ちになり、こう叫んだのである。
『俺の妹に何すんだよ! お前らの父ちゃんはウラガンキン亜種だー!』
普段のほほんとしているグロムの剣幕に驚いて、少年達は逃げて行った。
『お兄ちゃん、かっこいい!』
ふんっと鼻息荒くして見送る兄の姿が、ユッカの目に眩しく焼きついた。
「…そんなことがあったのか。…知らなかった」
ギルドにある共同浴場にて、ミーラルは目を見開いた。はい、とユッカはうなずく。
二人は、肩を並べて温泉に浸かっていた。
ミーラルは長い髪をタオルで巻いて、ちょっと大人っぽい雰囲気だ。同じくタオルで包んだ肢体…とりわけ大きな胸に、ユッカは視線が吸いついていた。
(おっきいなあ…。ちょっとスイカぐらいあるかも。いいなあ、いつかわたしも大きく…)
「ユッカちゃん」
「は、はいっ?」
ばしゃんと湯を跳ね上げて、ユッカは、なぜか自分の胸を庇いながらミーラルを見た。
ミランダの招待まで時間があるので、それまで女同士で風呂に入ろうということになった。世間話のつもりでミーラルが、ユッカの兄思いの理由を尋ねたので、ユッカはきっかけとなる昔話をしていたのだが。
ユッカに大仰に驚かれて、ミーラルもびくっとした。
「あ、驚かせてごめん」
「いえ、わたしこそ…」
無理やりミーラルの胸から視線を引きはがし、ユッカは真っ赤になった。女の子でも、気になる大きさだ。
「…あのさ、これからユッカちゃん、どうする? 私達と、一緒に来る?」
同行の意味がハンターの仕事のことだと、ユッカはすぐにわかった。ユッカはかぶりを振った。
「…ううん。わたしは、ランマルと行きます。これからも、ずっと」
「…そっか」
ミーラルは微笑した。どこか安心したようでもあり、寂しそうな笑みだった。
「ハンター、続けるんだね」
「はい」
迷うことなく、ユッカはうなずいた。ミーラルは「残念」と、笑った。
「え?」
「ユッカちゃんが一緒に来てくれたら、私も楽になるのに」
ユッカは笑った。
「…結構、わたしって一人が合ってるみたい。それに…邪魔しちゃ、悪いから」
「邪魔? 私はユッカちゃんが邪魔だなんて…」
(鈍いなあ、この人)
ユッカは苦笑した。そしてミーラルに向き直ると、ぺこりと頭を下げる。
「お兄ちゃんのこと、どうかよろしくお願いしますね!」
「ん? う、うん…」
最後まで意味がわからず、ミーラルは目をぱちくりさせていた。
「さあ、今度はどこに行く? 先生」
村の出入り口。アロイシリーズにボウガンを背負ったユッカが、おそろいの装備をした、傍らのランマルに尋ねる。
「行先はユッカが決めるニャ。ボクはどこへでもついて行くニャ」
「じゃあ、水没林がいい。夜にかかる虹が見たいの」
「了解ニャ!」
晴れ渡る空の下、二人はネコタクに飛び乗った。
まだ見ぬ景色を求め、二人の冒険は続く…。
最後までお読み頂き、そして丁寧なご感想、本当にありがとうございました!
心からお礼を申し上げます。書き手として本当に嬉しい限りです。
モンハンの世界に引き込んでくださった盟友イカズチさんの企画に、勝手に乗っかって始めた小説なのですが、自分でも思わぬ成果が得られました。
まず、長いスランプだったのですが、心から楽しんで大好きな世界を書けた事。
感想を頂いた方とは、今は狩り友さんになって下さった方もいます。その人間関係。モンハンやっててよかった、と思えることばかりでした。
ゲームをやったことがない、興味がなくても、お話として面白いという感想は、最高の賛辞です。
こちらこそ、ご感想本当にありがとうございました。とても励みになりました!
よろしければ、もう一個の章もお読み頂ければ幸いです。またお暇な時にでもお読みください^^
それでは重ねて、お礼申し上げます✾
そして、頭に『第三章の』と付く最終回なので、寂しさはありません(笑)。
だって、まだまだ彼らの物語を読めるって事ですものね^^
これから先にどんな冒険が待ち受けているのか、それによってユッカはどんなハンターに成長するのか、
ランマルに「旦那さま」と呼んでもらえる日は来るのか……。
グロムとミーラルは、どうなるのか(笑)。ミランダのお話も、もっと読みたいですし……。
次章を楽しみにしております。
ここまで読んできて、どの回も目の前に光景が浮かぶようでした。
それは、彼らがいる世界を丁寧に描写してくださっているからだと思います。
豊かな自然が溢れる景色、村の様子、人々の営み、モンスターたちの棲みか等、鮮やかに思い描くことが出来ました。
そして、登場人物たちは、表情もいきいきとしていましたし、闘いの場面での動きもまるで映像を見ているようでした。
説明は簡潔でテーマも押しつけがましくなく、とにかく一読者として読んでいて楽しかったです。
こういったゲームをやった事がないので、ゲームの小説というよりも、一作のファンタジーとして楽しませて頂いています^^
長文、そして何度もコメント失礼しました^^;
ある程度、まとめて読んで最後にコメントを~~とも思ったのですが、忘れないうちに読みたてホヤホヤで感想を書きたいという衝動には勝てませんでした(笑)
つたないお話に、とても素敵なご感想ありがとうございました。
最近、また文章~小説を書くことに自信を失いかけていたので、お言葉が恵みの光に感じます。
児童文学のような文章とは、初めて頂いた感想です。主人公が14歳の女の子なので、優しい雰囲気を心がけました。
ユッカにも共感していただけて、本当に嬉しいです。
俺が書くキャラは地雷が多いようなので、身内以外にも受け入れてくれるかどうか心配でしたが、こうしてトゥさんのような方にも好きになってもらえてよかったです。書いた甲斐がありました^^
抜粋してくださった文章、俺も気に入っているんですよ。
書いている時、感情移入しすぎて、ちょっと涙ぐんでしまったくらいで。
好きと言って下さって、本当に嬉しいです。
あ、「覚えたこと」が重複していますね。失礼しました^^;
二重に使ってしまうの、悪い癖なんです。ご指摘ありがとうございます。こっそり直します^^;
「ごしゅじんのためいき」もお読みになったのですか!
あれは小説じゃないですけど、喜んでくださって何よりです。
なんというか、絶妙なタイミングでのお言葉でありました。こちらこそ、最後まで読んでくださってありがとうございました!^^
サークル広場→千文字小説道場→こちら、とたどってまいりました。
最新でない記事にコメントしていいものか、少し悩みましたが、感想をお伝えしたかったので失礼いたします。
ご迷惑だったらごめんなさい。
「MH 勇気の証明~三章」と、短いお話をいくつか拝読しました。
蒼雪さんの文章は、どこか良質の児童文学にあるような温かさと柔らかさを持っていてすてきだな、と思います。
はじめは好きになれないかも、と思っていたユッカにすっかり共感してしまいました。
わたしも初心者ハンターの一人なので、そのせいもあるでしょうか。
ためらい、罠を使うという選択、そしてジンオウガの感情を慮る場面。とても好きです。
『ジンオウガが、遠雷のような声で低く唸った。
彼は覚えているだろうか。かつて、ユッカが一度、自分に恐怖し、敗北を覚えたことを。
自分が脚を奪ったハンターの仇を取るために、恐れを勇気に変えて狩り場に身を投じたことを。
彼は、覚えているだろうか――。』
ここを読んだとき、このお話を読んでよかったと思いました。鮮烈な映像が浮かびます。
ただ「覚える」という言葉が間隔をあけず使われているので、リズムを考えると、「敗北したことを」のほうがいいかなぁとも感じました。
ラストの一人と一匹、格好いいですね。いいコンビ!
みじかいお話では、「ごしゅじんのためいき」が一番好きです。突然の長文失礼いたしました。
GRさん、最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!
頂いた感想は励みにもなり、また、次の話を考えるアイデアの源にもなりました。
重ねてお礼申し上げます!(^∇^)
ゲーム小説なので、なるべくリアリティを出すために、いろいろやりました。
動画を見たり、実際に普段使わないヘビィボウガンや大剣を使用して、動作を確かめたり。
装備や弱点などは、サイトを見ながら確認しつつ書いたんですが、減龍弾の所で間違っちゃいましたww
ご指摘いただいたイカズチさんに感謝です^^
俺自身も、執筆中に弓に目覚めたり、ランク6になったりと、いろいろ成長したようです。
でもまだ手探り状態。最近ようやく、弓の「クリティカル距離」を理解したという遅いプレイヤーですが、
ゲームでの経験は小説に生きてるかと思いますw
俺の書く次の章は、しばらく先になりますが、それまで、イカズチさんの章もお楽しみ頂ければと思います。
あぁ、すごくいいですね。それぞれの旅立ちにピッタリ。
30回に渡る連載、お疲れ様でした。
きっと蒼雪さん自身も、この期間にいろんな狩りを経験されながら書かれてきたんでしょうね。
ハンターで、モンハンライターの蒼雪さんとしては序章(完)で、新たな旅立ち、なんですよね?
ユッカと蒼雪さんの新たな旅立ちに幸多からんことを・・・
こちらこそ小説参加させて頂き、また、多岐にわたるサポートありがとうございました!
いえいえ、イカズチさんはイカズチさんなりに書けば良いんですよ~。
俺は根が真面目すぎるので、どうしてもシリアス路線に走ってしまいますが。
ほんとはイカズチさんの章とブレないように、前篇コメディで行きたかったんですが…。
取りあげたテーマが、命の重さや、人の運命だったのでこうなりました。
イカズチさんの描くシリアス路線、ぜひ拝見したいです。
そこばかりは、ギャグは本気で自重してくださいね!(笑)
いよいよ今夜ですね~。読むのがとても楽しみです!
あ、俺も千文字考えないと…。まだ話が降りてこなかったりして^^;
毎回、ユッカを始めキャラたちのイキイキした活躍を楽しみに拝読させて頂きました。
連作の参加者としても一モンハンファンとしても続きの気になるお話でした。
グロムとミーラルは確かに私の作ったキャラですが、四章にバトンタッチされた後、蒼雪さんのように上手く描けるか心配でなりません。
どうも私は根が不真面目なのでコメディに走ってしまう傾向があります。
四章は話が先に進むにつれ、少し重い話しになりますので、自重できますかどうか……。
予定では8/17の夜に『第四章 一話』を掲載するつもりです。
でも、大丈夫かなぁ。
実はさっきまで『千文字』のお題をやってたりして……。
ウラガンキン…裏元金ってなりますねwガンキンだけだと、元金に変換されますがww
ここまで読んでくださって、ありがとうございました~^^
いつもよりは、大変じゃなかったです。キャラが立っていたので書きやすかったので^^
サークルの方、ちょっとサボり気味だったので、本格的に考えないと。
早くネタ降りてこないかな(^∇^;)
そしてここにも巨乳アイドルが!( ^∀^)ww
第三章お疲れさまでした。
大変でしたよね~~~
ではまたポチポチと、サークルの方を読みますね。
ここまでご愛読くださり、本当にありがとうございましたO(≧∇≦)O
毎回更新は、ちょっと大変でした~。自分の怠け心との戦いww
でも、キャラがここまで引っ張ってくれたので良かったです。
まだ書き足りない部分がありますが、ひとまずこの章は終わりにしたいと思います。
ランマルともう1匹ですか~。うーむ、考えときますw
俺としては、このまま二人でやって行ってほしいと思ってますが。新しいオトモがいると、楽しそうですねw
メインテーマ流していただき、ありがとうございます♪
俺もさっきまで、上位アグナを弓でどうやって倒すか思案中でしたさ…。すっかりモンハンが生活の一部ですwww
続きが毎回楽しみでしたが・・・・この頻度での更新、スゴイです
ユッカとランマル、すっかりイイコンビですね~
お供は2匹まで連れていけるので、今後新しい相棒とか増えたりするのかなぁ??
ホントに最後、まるでモンハンのメインテーマが流れている錯覚にとらわれましたよ♪
(さっきまでやってたから・・・・じゃないですよ~^_^;)
できれば、最後の文を読む時は、モンハンのメインテーマがかかっていると嬉しいですw
ここで一旦、イカズチさんにお返しします。
また自分のパートが来るまで、しばしお休みです。
引き続き、イカズチさんの章をお楽しみください。