「契約の龍」(1)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/07 15:06:29
魔法には大きく分けて二つの種類がある。
一つは、自分の内側から力を引き出して使うもの。
もう一つは力あるモノを使役して使うもの。
二つの系統の魔法は、現象としては同じに見えるが、その本質は違う。
例えば、広く流布している「護符」であるが、前者によってつくられたものには、術者の力を込めたものであり、たいていの場合は使いきりである。後者の場合は、二種類あり、護符の「内側」に魔法を行使するモノを封じたものと、力あるモノに作用する仕掛けを施したもの、に分けられる。
「幻獣憑き」は、後者の中でも特殊な物で、幻獣を自らの体内に封じ、必要に応じてその力を行使できるようにしたものである。その証として、体の表面に封じた幻獣の特徴が表れる。ゲオルギア王家は、もっとも有名な「幻獣憑き」の一族で、直系に近い者には、始祖ユーサーの封じた龍の証「金瞳」が、体のどこかに表れる。
それに対し、「幻獣使い」は、名称こそ後者に属するもののようであるが、行使する力は、術者自身の力に由来する。但し、行使される術の効果が、術者から引き出した力に見合ったものよりも大きくなることがしばしばあるので、純粋に術者だけの力によるものかどうかは不明だが。
必修科目の「魔法学総論」は、こんな雑談のような常識のおさらいの話から始まる。
この科目はもう三回目だから、授業の流れもあらかたわかっている。だから、さぼってもよさそうなものだが、初回は履修登録も兼ねているので、広い講義室はぎちぎちの満員だ。そして、授業開始から五分も経つと、三割ほどいる「再履修組」は内職を始める。……のが普通だが、今年は違った。皆熱心に前方に視線を注いでいる。だが、視線の先にいるのは、講壇の上の教師――あろうことかここの学長だ――ではなく、最前列の隅に座っている、一人の新入生だ。
何しろ、「目立つ」。初日から、目立っていた。
短く切りそろえられたプラチナブロンド。アラバスターを名工が刻んだような、白く造作の整った顔立ち。緑色の目が長い睫毛に縁取られている。それが暗色の飾り気のない長い外套の上に乗っかっているのだから、際立って人の目を引いた。
いや、注目したのは、人だけではなかった。
背が低いので、新入生の群れの中にいると埋もれてしまうのだが、人よりも目敏いモノたちがふらふらと吸い寄せられては、片っ端から弾かれているのだ。これが目立たないで済むわけがない。
今も、片手でノートを取りながら、空いた方の手で、「不可視」の魔法陣を強化している。…だけどあれは人に対しては全く効果がないのだけど。だから、人に使役されるモノたちは、相変わらずうろうろとそのあたりをさまよっている。
「…ところで、そことそことそこの三年生、それから、そこの四年生集団。あなたたちは、とっくにこの単位は取り終えていたはずですね?もう一回おさらいがしたいのでしたら、それでも構いませんが、新入生にちょっかいを出すためにここにいるのなら、とっとと出て行っていただきたい。うるさくて授業になりません」
講義卓の後ろから指差されて姿を消すものが十人ほど。
「他にも心当たりがあるものがいれば、即刻出て行くように。これ以降、講義の邪魔をする者は、行動記録に書かせていただきますので」
さらに七人ほどがいなくなり、講義室の風通しが多少良くなった。
新入生にちょっかいを出したくらいで「行動記録」を持ち出すとは、学長のくせに大人気ないとは思うが、いつになくうるさかったのは確かなので、問題視はされずに済むだろう。…されないといいな。
彼が職を追われたら、その被後見人であるところの俺も、ここに在学できるかどうか心許ない。せめて俺が卒業するまで、その職にとどまってほしい、と願うのは、身勝手だろうか?
さっそく第1話読んでます
ファンタジー系学園ものね
あとでゆっくり拝見しにきますw