Nicotto Town


こはるびより ⁰㉦⁰๑ 


輪っかのムコウ

田舎の同級生が自殺しました。
もう、1年になりますが、時々まだ心のあわ立ちを
押さえ込むことが出来なくなります。

同級生といっても、全校生徒100名にも満たない小さな
小学校でしたので、クラスメイト全員が幼馴染のような
ものです。
彼はあたしの初恋の相手でした。
小学校4年から中学を卒業するまでの間、ずっと
片思いでした。思いを告げることも無く、ただ遠くから
見つめているだけの淡い恋でした。

先日、帰省した際に、彼の生家にお線香をあげに
行きました。幼かった頃、彼の姿を一目見たくて
訪れていた家に、初めて足を踏み入れました。
娘を連れて行くと、お姉さんが「小さい頃の●●ちゃんに
そっくりや~」と言ってくれました。
彼のお母さんや、お姉さんと、昔話をしているのが
なんだか不思議なことのようでした。
多分、彼の死がなければ一生話すことも無かったでしょう。

高校を卒業して、何度かみんなで遊んだけど、もうずっと
何年も会っていなかった。お互い結婚し、子供を授かり
幸せな人生を送っているものとばかり思ってた。

一緒にお線香を上げにいった友人が、彼の書いた手紙を
持って来ていました。読ませてもらったら、あたしの名前も
そこに書いてあって、高校を卒業して、慣れない地で働き
始めた生活の中で、こうやって同級生と繋がりを持てている
のが嬉しいと書かれていました。

彼の家を後にすると、8月の太陽が容赦なく降り注いでいた。
去年の夏の終わりも、きっとこんな暑い日だっただろう。

彼が首を吊っていたという雑木林をあたしは知らない。
最後の瞬間に一体そこで何を考え、一線を越えてしまったのか
その絶望の深さを想像することさえ出来ません。
木にくくり付けたロープの白い輪っかの先に見えたのは
恐怖だったんだろうか、それとも安らぎだったんだろうか。
親や妻や子を残し、それでも旅立たねばならなかったのだろうか。
発見された時、足と地面の間にはわずか数センチの隙間しか無く
遠目で見たら首を吊ってたようには見えなかったという。
触れられそうで、触れられない、その数センチの空白が
彼を永遠に届かない場所へ連れ去った。

哀しいことがあったら、空に向かって大きなマルを描いてね。
その輪っかの中に哀しみをぜんぶぜんぶ送り込んでやるの。
そうすると、ほら、ちょっとだけ気分が楽になるのよ。

たった一言でいい。その時の彼にそう伝えてあげたかった。
例えそれが無駄なことだと知っていても。
空のきれっぱしを、その瞳の中へ映してあげたかった。


ご冥福をお祈りいたします。




*あたしにとって、書くことは自分自身のココロの均衡を
保つための昇華作業でもありますので、特に何かを
求めている訳ではありません。
なので、ブログのコメントは閉じさせていただいています。
読んでいただきありがとうございました。

#日記広場:人生





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