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モンスターハンター 勇気の証明~五章 04

【昔取った杵柄・2】

 真夜中とはいえ、一面を白雪に覆われた山肌はうっすらと明るい。
 山岳地帯のため、天候が悪化しがちであるが、今は空に星が輝いている。雪は、そのわずかな光を吸い込んで光を放っているようだった。
 静寂の他には、星の瞬きだけが聞こえる世界。それが極寒の地、凍土――のはずだったが。

「道に迷っただとォ~?!」
 まるで雪崩を起こしかねないグロムの怒声が雪原に響き渡る。
「俺はてっきり、あんたが千里眼使っているもんだとばかり思ってたのに!」
「お、お兄ちゃん、声が大きいよ。雪崩が起きたらどうするの?」
 おろおろしてユッカがいきりたつ兄を止めようとするも、興奮したグロムは声をゆるめない。
「止めんなユッカ! こいつのせいで、俺たちゃかれこれ2時間も走らされてるんだぞ!」
「そ、それはそうだけど……」
「落ち着け。上位ハンターたるもの、そんなことで動揺するものではない」
 事の元凶である教官は、平然とした面持ちでグロムを一瞥した。
「千里眼は発動していた。行きがけのドリンクで、猫の千里眼が出たからな。だが、問題はそこではない」
「ど、どこですか?」
 おそるおそるユッカが尋ねる。悪びれた様子もなく、教官は言った。
「……洞窟の出口をひとつ間違えた」
「そこかぁ~!」
 がっくりとグロムが肩を落とす。ユッカも目を丸くした。
 ここ、凍土の狩り場は雪山の中である。今いる所のように開けた場所は、山肌のほんの一部でしかない。モンスターの多くは、山の中を網の目に走る洞窟の中に棲んでいる。
 迷路状になった通路を地図なしで踏破するのは、よほどの熟練ハンターでないと無理だ。似たような出口が多く、ひとつ間違っただけで全然別の場所に出たりするのである。
 その初歩的ミスを、教官はやらかしたのである。
「……これでわかっただろう。いかに仲間に頼りすぎると危険かを。協力は大事だが、その前にまず、自分で敵の位置確認と現在地を把握するのも重要だぞ!」
「は、はい、教官!」
 訓練生時代のクセで、ユッカが思わず気をつけをする。グロムは「バカ」と、軽くユッカを肘で小突いた。
「素直に返事してんじゃねーよ。間違った教官が悪いに決まってんだろッ」
「だ、だって……」
 上目づかいにユッカがグロムを見上げる。と、その黒い瞳がまんまるに見開かれた。
「あ、お、お兄ちゃん……!」
「ああ? なんだよユッカ」
 後ろ、とユッカが叫ぶ暇もなかった。上空から滑空してきた純白の獣の影が、グロムの上に重なる。
「かわせー!」
「どうあー!」
 教官の怒号と、グロムの悲鳴が重なる。打たれ弱いガンナーの習性で、ユッカは兄を気遣う余裕もなく、反射的にそこから飛び退いていた。
 緊急の危険が迫った場合、まず自分の命を優先することは、身体に染みついたクセになっている。これはユッカに限らずハンター全員が身につけていることだ。とにかく自分が生き残らないことには始まらないのである。
「お兄ちゃん!」
「ぐうっ……あ、危なかったぜ……!」
 グロムは、その場から動けずにいた。右手に装備した真ユクモノ銃槍改の盾が、固まったように構えられたままだ。それもそのはず、襲いかかった張本人であるべリオロスが、すぐ前で威嚇の牙をむいているのである。
「ナイスガード! 避けられないと思ったら、まずは防御だ。重戦士の基本中の基本だな」
「教官、それどころじゃないです!」
 ユッカがアルクドスルージュを構える。虫の素材から作った、強力な火属性の弓だ。
 まあ落ち着け、と教官は言った。
「焦りこそが狩りの最大の敵だ。残り時間がわずかだからと言って、無茶な戦い方をして破れてしまった者は多い。こういう時こそ深呼吸! さあ、足を開いて腕を大きく振って――」
「できるかぁ!」
 グロムとユッカのツッコミと、べリオロスがグロムに向かって飛びかかるのとが同時だった。グロムは盾でべリオロスの爪を受け流し、それで出来たわずかな隙を狙って、ユッカが矢を放つ。矢は見事に敵の眉間に命中し、まばゆいオレンジ色の炎が立ち上った。
「ナイス連携! さすが兄妹、息ぴったりだな!」
 豪快に笑いながら、教官は背中のスラッシュアックスを抜いて構えた。猛々しい炎の形を模した変形斧が、冷たい夜の闇にもくっきりと浮かび上がる。
「括目せよ! これが教官たる我輩の――」
 べリオロスが吠えた。鼓膜が破れそうな咆哮にグロムとユッカが怯んで耳をふさぐも、教官は臆することなく獲物に向かって走り出していた。
「――狩りだ!」
 赤い光刃(こうじん)が閃いた。ユッカ達にはそう見えた。
 教官が振り下ろした斧の一撃は、電光石火の勢いでべリオロスの脳天に炸裂した。ギャアッと凄まじい悲鳴をあげて、べリオロスがのけぞる。相当なダメージを物語るかのごとく、口から突き出した二本の赤い牙が真ん中からへし折れていた。

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2011/09/18 10:30
イカズチさん、コメント感謝です。

教官について調べていたら、幸運にも発見した動画「ぎりぎりアイルー村」でした。
本編はわずか3分あまりにもかかわらず、なんと濃い内容。面白いですよね~!
好きなのは5話と7話ですww

ハンター日誌、第一話は見られないのかな…検索して、2話を見ました!
主人公たちが大阪弁でしゃべってるのが面白いですww
ゲームの動きをうまく編集しているので、アニメを見ているように完成度が高いですね。
第五話まであるようなので、全部見てみます!
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2011/09/17 22:40
どうも教官が親しみ易いと思ったら……。
『Let,s狩猟生活っ!!』でしたか。
あのアニメ大好きです。

あとモンハンの映像でお気に入りなのは『ハンター日誌』と言う……。
知らないっすかね。

教官、ブランク空けすぎでしょ。
ユッカは素直だなぁ。
ほっとくと、お菓子で知らないおじさんに連れて行かれちゃいそうですねぇ。
アバター
2011/09/17 22:11
まぷこさん、コメント感謝です。

「ギリギリアイルー村」ってアニメご存知ですか?youtubeで見られます^^
教官の言動は、そのへんを参考にしています。ゲーム中でのセリフ回しも、カッコいいのとボケてるのと二つ合わさった感じのナイスキャラです。
モンハンってシリアス一辺倒のゲームだと思っていたんですが、さすが本社が大阪のカプコン…ユーモアを忘れていません。人物のせりふも面白いのが多いですw
アバター
2011/09/17 16:22
モンスターに襲われている最中でもボケを忘れない、さすが伝説のハンター(違)。



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