Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(13)

 「どうして黙ってた?」
 女史に事務棟まで送ってもらい、校舎の方へ戻る道すがら、クリスがポツリとつぶやいた。
 「何を?」
 「アレクの両親の事。ここで働いてたって」
 「訊かれなかったからね」
 「そう…か。そういえばそうだな。自分の事で手いっぱいで、人のことまで思い遣る余裕か無かったからな。…みんなは知っているのか?」
 「教職員の大半は知っているんじゃないかな。まだ六年しか経っていないから。学生では、ごく親しい何人かと……何年も在籍してる長老格の二・三人」
 学生の中には、わざと単位を落として、研究のために居座るのが、四・五年に一人くらいいるという。中には事実上、ここの教師になってしまうのもいる、らしい。
 「じゃあ、結構有名人なんだな」
 「あまりありがたくない知られ方だがな」
 「どんな知られ方なら、ありがたいんだ?」
 「そうだな……伝説の天才、ソフィア・アウレリス、みたいのだったら、申し分ないかな」
 「何それ。知らなかったくせに」
 ちょっと声が明るくなる。
 「それを言われると返す言葉がない。お許し願いたい」
 「では、一つ貸しにしとく。次の授業があるからな」
 そう言って右手の校舎の方へ走り去って行く。
 何で返す羽目になるやら。

 「あの新入生、なんかバランス悪いよな」
 図書館を出たところで、いきなり声を掛けられた。同期入学のナイジェルだ。確かこいつの家も「幻獣憑き」だったはずだ。
 「どの新入生の話だ?」
 「そりゃ、あの子に決まってるだろうが。いつもお前が連れ歩いてる、一見美少年風美少女」
 「そういう言い方は、俺になんか変な趣味があるみたいに聞こえるから、やめろ。それに、俺が連れ歩いてるわけじゃなくて、こっちが引きずりまわされてるんだ」
 「引きずりまわす。いいねぇー。年上の男を翻弄する美少女」
 「変態が伝染ると困るから、あっちへ行け」
 借り出した本が重いので、そう言ってその場を立ち去ろうとすると、あわてて追いすがってくる。
 「冗談だってば。で、あの子いったい何者?」
 何者、って。何が知りたいんだ?
 「本人に訊けば?」
 「訊いたさ。名前しか教えてくんなかった。ところで、アウレリス家って、魔法使いの血筋じゃないよな?」
 「…そうなのか?」
 「何を言ってる。王妃殿下のご実家筋だろうが。確か、現当主が妃殿下の大伯父に当たられたはずだ」
 王妃の実家?ってことは、王妃とクリスの母親は親戚ってことか?
 「そうなのか?そっち方面の事情には疎いんで、すまんな。だけど、ほかのアウレリスじゃないのか?ありふれてるってわけじゃないけど、世界に一つしかない名字ってわけじゃないし。先祖がよその国からの移民で、偶然同じ読みになったとか」
 「疎いって言ってるわりに、随分語るなー。ほんとは知ってるんじゃないのか?」
 「知らないって。たとえ知ってても、本人が言わないのに教えるわけにはいかんだろうが」
 「ちぇ、つまらん。お前には好奇心ってやつはないのか」
 「あるとも。だから今日もこんなに貸出手続きを」
 さっき借り出した本を見せる。過半数は専門外の「禁呪」に関わる本だが。
 「度し難い奴だなー。これ以上守備範囲広げてどうするよ」
 「趣味だ。ほっとけ。じゃあな」
 今度こそ振り切ろうとすると、重ねて声をかけてきた。
 「あの子ってさ、どうして使役魔法の課程取ってるんだ?自立魔法が使えるらしいのに」
 「…だから、それは、本人に、訊け」
 「ふーん。じゃあ、そうしよう。ちょうど本人がいるし」
 「…は?」
 間が悪いことに前方からクリスがやってくるのが見えた。図書館へ向かうところらしい。ナイジェルが手を振って大声でクリスを呼ぶ。

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