モンスターハンター 勇気の証明~五章 07
- カテゴリ:自作小説
- 2011/09/23 21:31:35
【腐れ縁】
「わっけわかんねえ……」
ユクモ村を見渡せる丘で、グロムは足を投げ出して座り、憂鬱そうに眼下の景色を眺めていた。
みぞおちのあたりが、さっきからごろごろ言っている。空腹に耐えかねた腹の虫が飯を催促しているのだ。
しかし、食事を楽しみにしていたミランダの店で、グロムは女子達から村八分の刑を受けてしまい、食いっぱぐれてしまったのである。
――お兄ちゃん、さっきのはよくないよ。
怒りの拳でグロムを床に沈め、ミーラルが立ち去った後、可愛らしい顔にありありと非難を浮かべ、ユッカは言った。
――後でちゃんとミーラルに謝らなきゃだめだよ。あれは、あんたが悪いんだからね。
ミランダも、わずかに眉をひそめて注意してきた。
その場にいた唯一の男、味方になってくれるかと思った教官は、「青春爆発だな! ぬはは!」と、わけのわからないことを言って、一人でうけていた。
せっかくの凱旋がミーラルの癇癪のせいで台無しになり、なんだか食事という雰囲気にもなれず、すごすごとグロムは店から退散せざるを得なかったのである。
「なんなんだよ、ミーラルの奴……」
はーっと、グロムは長い溜息をついた。ここに来る前から、ミーラルの態度が頭から離れてくれない。
(あいつ、なんか泣きそうだった……)
去り際に振り向いたミーラルの瞳には、悔し泣きのような光がにじんでいた。
ミーラルが怒って当然だ。自分は、意図的に彼女を無視したのだから。
水没林でミーラルにしたことには、後悔はない。
父を失った悲しみに暮れ、激しく怒り、泣き叫んでいたミーラルは、まるでぼろぼろに欠けた剣のようだった。
いつもは美しく澄んだ刃。それが痛々しいくらい傷ついて、助けを求めていた。
ミーラルが剣なら、自分は鞘になろうとした。ただひたすら彼女を受けとめて、それで、またいつものミーラルに戻ってくれさえすれば――。
きっと、その感情をいとおしいというのだろう。
だからキスした。それだけだ。
先の事なんて何も考えていなくて――まさか、ミーラルが「彼女面」するとは思ってもみなかったのだ。
今まで彼女のことを、女として意識したことはなかった。いくら容姿が良くても、幼い頃から一緒にいれば、さすがに見慣れて動じなくなる。
長く居すぎて、もはや家族同然の彼女に、今さら何を気取ればいいというのか。
(そりゃあ、ちっとは見違えたこともあったけどさ)
グロムはいらいらした。どすっと、拳で草の生えた地面を叩く。
「このままで、なんでいけないんだ。キスしたぐらいで、すぐに俺がお前の王子様になれるとでも思ってんのか? 無理だっつの!」
誰もいない夜の空気に毒づいたグロムの胸に、鋭い痛みが走る。思いがけず痛くて、手で胸元を押さえた。
「……どうすりゃいいんだ、俺……」
がむしゃらに髪を掻いた時、背後で何ものかの気配がした。
「――ミーラルかっ?」
「ニャッ?」
はっとして振り向くと、首に唐草模様の風呂敷包みを巻いた一匹のメラルーが、ぴょんと飛び上がった。たちまちグロムの顔が険しくなる。
「お前、スリか? メラルーは手癖が悪くて有名だからな」
「ニャ、誤解だニャ~!」
どうやらメスらしい。そのメラルーは、やや高い声で鳴いた。
「ウチ、怪しいモンやおまへん。ちょいと、人を訪ねて来ただけで……ニャ~」
「妙なしゃべり方だなあ、お前。ショウコそっくりだ」
「ニャ、ショウコはんをご存じでっか?」
メラルーは夜目にもわかる鮮やかな黄色い目をきらきらさせた。
「よ、よかったぁ~。うちの旦那はんなんです、その人。数ヶ月前、『もうこんな村嫌や~、ええ男の彼氏を作る旅に出る!』言うて、いきなり村を飛び出したったさかい……。オトモのうちのこともおいてけぼりにして、ひどいったらあらしまへん、うううう」
「お、おい、泣くなよ」
両手を顔に当て、わっと泣き出した猫に、グロムは腰に着けたポーチからくしゃくしゃの手ぬぐいを取り出した。
「ほら、使え」
「わあ、おおきに。優しい人でんなあ」
うるうるした瞳で、メラルーはうやうやしく手ぬぐいを受け取った。
びーっと鼻をかむ音に辟易しながら、グロムはなんとなく尋ねた。
「お前、なんて名前?」
「コハル、いいます。あの……尋ねついでに、ショウコはんの家、教えてくれまへんか?」
「……やれやれ」
普段はちょっとやそっとのことでくよくよしないグロムだが、さすがに気が滅入っていた。空腹なこともあり、なんだかすべてのことがどうでもいい。
だが、ショウコの所へ行けば、何か食べ物にありつけるかもしれない。ユッカが睨みを利かせているかと思うと、家にも帰りづらいので、グロムはコハルを案内することにした。
ケマリの性別は私も考えていなかったので……。
コハルvsケマリでランマルを取り合うか、ランマルvsケマリでコハルを取り合うか。
いや、別にオトモの恋愛事情を絡めなくても良いんですけど……。
蒼雪さんの書き易いようにお願いします。
なんか、予定で話していたオトモと違くなりましたww
じゃりんこチエの小鉄みたいなオスメラルーをショウコのオトモにしようとしたんんですが、
「女の子のほうがよくないか?」と、ふと思い立ち、同じ女だけどショウコにべったりなコハルを思いつきました。
動かしたら案外楽しくて、あやうく本篇からはずれそうになりましたw
実はあまりコハルに活躍の場が予定されていないのですが、今後何かの役に立てばいいな~と思っております。
ところで、ケマリやオモチの性別が表記されていないんですが、どうなんでしょう?
ケマリはオスのつもりで書いたんですが^^;
主人を慕い、後を追ってくるオトモ。
『主人愛』に溢れるコハル、良いですね~。
また、口調が『ナニワ訛り』と言う点も気に入りました。
アイルーメラルーにも性別があり、感情があるわけですから当然のように恋愛も行われるわけです。
今の所、このユクモ村には『ランマル(ことミルク)』『オモチ』『ケマリ』と名の出たオトモの他、『転がしニャン二郎』や『番台』『ドリンク屋』といい男(?)が揃ってますからねぇ。
今後が楽しみです。
キャラ掘り下げと、前半終了の回です。よろしくお願いします。