モンスターハンター 勇気の証明~五章 08
- カテゴリ:自作小説
- 2011/09/23 21:35:02
【腐れ縁・承前】
「ショウコ~、いるか~?」
ショウコの家の前に立ち、グロムが呼ばわってドアを叩くと、間をおかずに本人が出た。
「は~い、ちょい待ちや……って、なんや、グロムはんか」
グロムを見た途端、ショウコは眉をひそめた。夜に男が女の家にいきなり来たから、気分を害したのだろうか。
それでも空腹には代えられない。グロムは意を決してきりだした。
「ああ、悪いな、いきなり来て。その……」
飯食わせてくれ、とたかる直前に、グロムの影に隠れるようにしていたコハルが、ショウコの前に飛び出した。
「だ、旦那は~ん!」
「むわっ、コ、コハル?」
軽々とジャンプして主人に抱きつくコハルに、ショウコは目を白黒させた。
「あんたなんで来たん? 留守番しててって言ったやん」
「嫌や~留守番なんて嫌や~。うちは犬とちゃうで~。もし犬かて、分離不安で家の中めちゃくちゃにしたるわ~」
「あんた、家めちゃくちゃにしたんか!」
ぐりぐりと顔を押しつけるコハルの頭をつかんで、ショウコはめりっと引き剥がした。なおも足だけでしがみつきながら、コハルはふるふるとかぶりを振る。
「せえへんって、そんなこと。うちが家庭的な猫なんは、旦那はんも知ってるやろ?」
「ええい、放せ。その女房面やめや! うちは自分が女房になりたいんや。あんたがいると彼氏ができん!」
「殺生なこといわんといて~。うちが尽くす女(おんにゃ)やて、知っとってネコバァから雇ったんやろ?」
「積極的な子がええ、言うただけや! こんな世話女房な猫いらんかったわ! それ以上しつこいと解雇するで!」
「あ、あの~……」
グロムが口を挟もうとするが、間髪入れずコハルが言葉を継ぐ。
「うちのことほかす言うんか~。なつき度が低い頃は、装備もペアルックにしてラブラブしてたやんか~」
「だから、それは昔の話やって! あんた少し旦那離れしいや!」
「……」
グロムはくるりときびすを返した。この二人のやりとりを聞いていたら、朝になってしまう。
そこへ、目ざとくショウコが声をかけた。
「待ちや。グロムはん、ミーラルはんのこと、聞いたで」
「な、誰にっ?」
「誰でもええ。それよか、ミーラルはんのこと、もすこし気ぃつかってやりや。いくら鉄の女やいうても、心まではそうはいかへんからな」
「……お前までそんなこと言うのかよ」
グロムは声を尖らせた。
まったく、どいつもこいつも。俺の気持ちなんて、わかろうともしないんだな。
足早に歩き去りながら、グロムは胸の中で悪態をついた。
狭い村だ。グロムとミーラルの関係は、もう知らない人はいないのだろう。
村の住人だけに、宿屋に改まって泊まるわけにもいかず、グロムは行き場をなくして途方にくれた。
(なんで、今までのままじゃいけないんだよ。俺は、まだ何も変わりたくないってのに――)
いつの間にか、雲が星を隠していた。大気に強い湿気の臭いが漂い始める。間をおかず、雨が降り始めた。
ふんだりけったりとは、このことだ。
グロムは、何度目かの舌打ちをした。
仕方なく家に帰ろうと思ったら、なぜか、ミーラルの雑貨屋の前に立っていた。
雨に打たれてずぶぬれのまま、グロムは、店じまいした扉の前に佇んだ。
「……ミーラル」
うつむき、グロムは小さな声で名を呼んでみた。頭の中では、ぐるぐると彼女への謝罪が渦巻いている。
無視して悪かった。ごめん。だって、なんか照れくさかったからさ。つか、大体お前がすぐ殴るからいけない。いや、それより俺に過剰反応するのが悪いんだ。俺はお前を彼女にする気なんか全然考えてなくて――。
「……って、ひどくないか? それ」
はっとして、グロムは顔を上げた。苦々しく唇を噛む。
そもそも、ミーラルをハンターに就かせたのは――巻き込んだのは、自分なのだ。
もしミーラルがハンターでなかったら。
闘うことを知らなかったら、モンスターに父親を殺されても、仇を討とうとまではしなかっただろう。あそこまで、ぼろぼろの己をグロムに見せはしなかっただろう。
でも、心のどこかで、あの時のミーラルを見ることができたのは嬉しいとも感じている。
ハンターにならなければ、見えてこなかった幼なじみの顔。
ハンターであったからこそ、見せてくれた顔――。
「……ミーラル。お前……ハンターになって、よかったと思うか……?」
「――思う」
「ぬおっ!」
今日はよくよく背後を突かれる日だ。
グロムが誰にともなく問いかけた瞬間、背中の方でひっそりとした声がした。モンスターに発見された以上に、グロムは飛び上がって驚いていた。
いえいえ、こちらこそ、「こんなんグロムじゃねえ~!書きなおせ!」とか言われなくて嬉しいですww
イカズチさんのグロムを読んで、「あ、普通の男の子だな」と思ったんですよ。
乙女ゲームの男性キャラだと、すぐに女の子の喜ぶこと言ったり、スキンシップするでしょ。
でも、グロムはそれがない。凍土のシーンが決定的でしたね。肝心なところで背を向ける。嫌いではないけど、カッコは付けないって感じでした。
それに、責任取るって怖い事でもありますよね。
「秒速5センチメートル」ってアニメで、主人公の男が幼なじみにキスしたとき、彼女の人生すべて背負った気分になった(怖かった)、という心理描写が忘れられなくて。
そこから、グロムの心理も参考にしています。
まだ身体の関係まで行ってませんが、急接近するミーラルに対して無意識に、「いつかこいつと…」と、得体のしれない不安に駆られたんです。
まだ十代で、遊びたい年頃です。20代でも遊びたい男が多いのに、そんなにすぐに「嫁に来い!」なんて言えないだろうと^^;
そういう、青臭い悩みを書きたくて書いてみました。自分でも勉強になった回です。
現状でのグロムの心理分析、的確だと思います。
確かにまだ16,7の頃って細やかな気配りなど出来ませんからね。
先に進むのも怖さが伴うかも。
今までグロムの心の中身について、詳しい描写がなかったので、このターンで書いてみました。
まだグロムは16歳くらいなので、人間がそれほどできていない、と思ったんですよ。
ましてや、相手幼なじみで初めての恋愛経験でしょ。
家族同然の仲から、どうやって恋愛まで気持ちが変化していくか。そこを書きたかったんです。
でないと、イカズチさんの前章で、グロムがデリカシーのない行動をとったわけが分からなくなりますから。(ちゅ~してやろうか、ちゅ~。ってところです)
で、自分なりにグロムに問いかけた結果、「今までの関係が居心地がよかった」という答えが返って来たので、そうなりました。
まだ子供ですから、すぐにスマートにミーラルを大事にするわけがない、と思ったんですよ。このグロムの性格からして。だって、もしグロムが女心に聡い男なら、凍土でミーラルを助けた話で、すぐに気の利いた事を言ってるはずです。それこそ、少女マンガの男キャラみたいな、女の子の喜ぶようなことをね。
でも、それがなかったんで、彼に照れがあるというより、鈍い男、不器用な奴だと感じました。
女の子にもてたいと思ってミーラルを巻きこんだグロムですが、その動機の本当のところは、まだ書いていません。
結構そのあたりって、重要な気がするんです。軽いノリで始めたハンターですが、今では彼らにとってライフワークでもありますから。人生変わってますしね。
だから、この5章の最後の方で、グロムとミーラルの仲がちょっと進展する形になると思います。
あくまで、6章への布石としてです。
でないと、6章でいきなり~~になっても、読む人がついていけなくなりますから^^;
こういうインターバルも恋愛小説には必須だったりします。まわりくどいですけどねw
『俺は、まだ何も変わりたくない』
『俺はお前を彼女にする気なんか全然考えてなくて』
『巻き込んだのは、自分なのだ』
の部分などは「そうかぁ……そうだよなぁ」と納得しながら読み進めております。
賛否はありますでしょうが、グロムもまだ現世で言えば高校生くらいの年齢です。
『キスまでしておいて彼女にはしたくない』など、このうらい自己中心的でも当たり前なのかなと。
逆に物分りの良い十代も不自然ですからね。
反省する分、ましですが。