Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター 勇気の証明~五章 10

【腐れ縁・承前】

 千鳥足の教官に肩を貸したユッカと、提灯を持ったランマルが歩いてきた。どうやら、酒場で酔いつぶれた教官を自宅に送る役目を、ミランダに仰せつかったらしい。
 大の男を引きずるようにしてやってきたユッカは、グロムとミーラルを見つけて目を丸くした。
「お兄ちゃん、どうしてここに? 帰ったんじゃなかったの?」
「いや、それはこれから……」
「ぬはーはははは!」
 グロムは一瞬ミーラルと目を合わせ、なんと言ったものか迷った。そこへ、遠慮のない教官の笑い声が割り込む。
「青春か? 青春まっさかりか、貴様ら! いいぞぉ、どんどん突っ走れ! あの夕日の向こうに向かって叫べ! 振り向くなよ、貴様らはそのままでもうつくし……うげえええええ」
「ぎゃーーー!」
「このクソ教官! げろが俺の脚にかかったあああ!」
 予備動作なしで、まったくの不意打ちだった。上機嫌の教官がミーラルとグロムの前で派手に嘔吐し、二人の凄絶な悲鳴がユクモ村の静かな夜を引き裂く。
 打たれ弱いガンナーの習性で、とっさに回避したユッカは、クルペッコも真っ青の教官のげろを受けずに済んだ。なんかちゃかりしすぎのような気がする。せめて、被害が他に及ばぬよう、吐きそうになった教官を突き飛ばすとかすればいいものを。
 まったくもって、今夜は最悪だ。
 すえた臭いに、グロムは顔をしかめる。けれど、傍らでまだキャーキャー言っているミーラルを見たら、なんだかほっとした。
(明日からは、また一緒に狩りに行ける、よな?)
 聞かずとも、その場の空気が答えだった。


「ふーん、いろいろ成長してんだ、あの子達」
 まだ昼前の酒場に、一人の女が主を尋ねて訪れていた。
 カウンターに寄りかかるように立ち、ハチミツとショウガを混ぜた冷たい飲み物を飲んでいる。温泉アイルーがこしらえる、ユクモひやしあめというドリンクを真似てミランダが作ったジュースだ。
「ああ。見ていて眩しいくらいだよ。いいね、若いってのはさ」
「ほんとぉ。あたしは、もう二度と戻りたくないけどねぇ。今のままで十分」
「ふふふ。あたしもだよ、アリス」
 アリスと呼ばれた美女は、カウンターに両肘をついたままにっと笑った。悩ましい目元の泣きぼくろが、ほんの少し下がる。ざっくり切ったショートボブの髪型と、彼女のトレードマークである、大きく開いた胸元の防具――バンギスシリーズの荒々しさが、妙に倒錯的な美しさだ。
 少し、痩せたかな。ミランダは昔馴染みの顔を、それとなく眺めた。
 風来坊の気があるアリスは、少し前までは、グロムとミーラルの師匠として、この村に滞在していた。ロックラックに酒場を持つとはいえ、旅に生きる人間だ。
 グロム達のことは、弟子以上に可愛がっていた節がある。それは、あちこちを転戦する彼女が、数カ月も村にとどまっていたことでわかる。
 確かにここは居心地がいい。村人は親切で、景色は美しいし、自然は豊かで食べ物もおいしい。それに、豊富な源泉のおかげで温泉には無料で入り放題。狩りで荒れていたミランダのお肌も、今ではツヤツヤだ。
 けれど、それ以上に人を土地にとどめるのは、やはり人情なのである。
 ミランダの頼みで、アリスが時々ロックラックの食材を店に届けに来てくれるのも、彼女自身、やはり懐かしむ気持ちを抑えられないからなのかもしれない。
「ねえ。あの子達に会ってお行きよ。あと三日したら、戻ってくる予定だからさ。きっと、二人も喜ぶよ」
「やめとく。あたしに里ごころがついたらどうすんの。これでも断腸の思いで村を出たってのにぃ」
 屈託のない笑顔の裏に感情を隠すのは、アリスの昔からのクセだ。傷つきやすいくせに、決して表に出さない。気ごころしれた仲でも。
 怖いんだろう、とミランダは思う。子供の頃から苦労した分、ささいなことで大切なものを失うのが。
「……ま、あいつらがクエストリタイアして、予定切り上げて戻ってきたら、否応なしに会えるかもね」
「よしてよ。あたしの弟子だよ。クエリタなんてしたら、ジョーの餌にしてやるから」
 眉を開いてミランダが冗談を言うと、アリスは手をひらひらさせて笑った。
「……でも、会わざるをえない、かもね。あいつらが、あたしの街に来たら」
 ふいに笑うのをやめて、アリスはひっそりと言った。ぴくりとミランダのまぶたが震える。
「……まさか」
 ふ、とアリスは意味ありげな微笑を浮かべた。窓からの日差しが、ふいに陰った気がした。
「……祭りが、始まるよ」

 

アバター
2011/09/24 10:34
イカズチさん、コメント感謝です。ここまで一気読みありがとうございました^^

>ガンナーの習性で回避
ユッカも、ただ優等生じゃつまらないので、こういうあざとい部分もあっていいのではと思い、そうなりました。あと、ハンターの行動のクセが、日常生活にもつい出てしまう、みたいな感じです。
ガンナーはとにかく避けないことには生き残れないので、敵の攻撃に大げさなくらい反応してしまうんです。むしろ、大げさなくらい避けないと被弾してしまいます。俺の経験からですがww

ユクモひやしあめ、お世話になりましたからね~。思い入れもひとしおです。
どう具体的に効果があるのか、知らずに飲んでいたので、「これを飲めばきっと勝てる!」という、自己暗示効果が一番あったかと思いますww
それと、自分が「生姜ドリンク」好きでして。ビンに入った「しょうが茶」という、生姜を細かくしたものに蜜を混ぜたものを薄めて、氷入れて飲んでました。「ユクモひやしあめ」ってこんな味かと思ってw。
こうして味を想像するのも楽しいですね。実際、「こんがり肉を作った」動画もありますしね。ツワモノだwww

アリスは重要人物なので、気をつけて書きました。
この章ではチョイ役ですが、昔馴染みの設定おkとのことで、出してみました。
髪型、表記がなかったので自分のイメージで書きましたが、違和感なさそうでよかったです^^
これから再度ミランダの過去に触れるので、舞台が舞台ということもあり、同じ街に住むアリスも出ないと不自然だなあと思って登場させました。話に深みが出れば良いなと思います。

そして、よ~やく。
ようやく「祭り」が来ました!俺も楽しみでしたよ~、ここまで来るのが!ww

…うっ、導入部にそこまで期待されては、変なの書けませんね^^;
また2,3日考える時間ください…なんか良いの思いつくかもw

アバター
2011/09/24 03:38
『ガンナーの習性で、とっさに回避』
説得力120%ですねぇ。
便利だ……回避性能。

『ユクモひやしあめ』お気に入りですね。
このようにちょっとした所で出すアイテムなどの名称はモンハンファンの触手を擽ります。
『タマラン』わけですよ。

アリスの再登場、ありがとう御座います。
彼女はお気に入りのキャラクターなんですが、ある種ジョーカー的な要素を持っているのでおいそれと出せないのが現実で……。
ミランダとの絡みが自然でよいですねぇ。

来た来た来た、キィ~タァ~!
『祭り』!
ま~つりだ、ま~つりだ、狩~りまぁつぅりぃ~。
いよいよですね。
グロムを始めメンバーが、どのように導入(巻き込まれる)されるのかが楽しみで仕方がありません。



月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.