Nicotto Town


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モンスターハンター 勇気の証明~五章 12

【往くもの、残るもの】

「――と、いうわけで、ジエン狩りへの志願者を募る次第である! 希望者は元気よく手を挙げるように!」
「……何が、と、いうわけで。なんだよ……」
 ユクモ村の訓練所内で、教官を前に、グロムがぼそっとつぶやく。昼下がりの白い日差しが、だだっぴろい道場の中にうっそりと差し込んでいた。
「話聞いてなかったの? ジエン狩りが、私達のランク6昇級試験だってことじゃないか」
 グロムの脇で、ミーラルが言う。その隣にショウコ、ユッカもいた。
「ジエン……。あの、ロックラックを毎年襲う古龍と戦うんですね……」
 ユッカだけが、さっきから深刻な顔で床に視線を落としていた。きっと、ミランダのことを考えているのだろう。
「そんでも、行けるのは三人だけやってどういうこと? 撃龍船はウチも乗ったことあるで。あれは、ハンターは四人乗れるはずなんやけどな」
 ショウコが顎に人差指を当てる。ヌハハハ、と教官は腰に両手を当てて胸を反らした。
「聞いて喜べ! なんと、今回は我輩が同船するぞ! どうだ心強いだろう!」
「ええ~っ!」
「きょ、教官がかよ?!」
 ユッカとグロムが大声をあげる。まだ教官の雄姿を見ていないミーラルとショウコは、いまいち反応が薄い。
「そんなにすごいのか、教官って?」
「ウチ、教官は寺子屋の先生かと思っとったわ」
 ミーラルとショウコが首を傾げると、兄妹は弱々しく苦笑した。
「いや……すごいことはすごいですけど……」
「ああ、まあ、いろんな意味でな……」
「ふふん。我輩の力を見たければ、ぜひとも志願するがいい! 幸い、このメンバーはおなごが多い! よし、男は居残り決定!」
「な、なにぃ~! てめー下心見せすぎだろ!」
「ヌハハハ! 悔しかったら貴様も我輩のようになるのだな!」
 グロムが食ってかかる。教官は、能天気ともいえる高笑いを飛ばした。
「――わたし、行きます!」
 きっぱりと挙手し、ユッカが進み出た。
「試験も大事だけど、ジエンは、いつか私の手で倒したいモンスターなんです。お願いです、同行させてください!」
「そうか、ミランダさんのこと……」
 傍らのミーラルが、思わしげにユッカを見やる。そして、自分も強くうなずいた。
「私も行く。知らない土地にオッサン一人とじゃ、不安だろ? それに、私も試験はどうでもいい。伝説のジエン、この目で見てみたいしね」
「おいおい、もう決定かよ。はええなあ」
 即決した二人に、グロムが目を丸くする。ふむ、と教官は腕組みした。
「これでおなごが二人! むふふ、両手に花……じゃなかった、喜ばしいことだな! さて、残るは一人だが……」
「ってことは、俺とショウコがじゃんけんか?」
「あ、ウチはパス」
 グロムが言うと、即座にショウコが挙手して言った。がくっとグロムは膝を崩す。
「へ? な、なんでだよ?」
「ウチ、船はアカンねん。実言うと船酔いするタチでなあ。それに、ジエンは何度も見てるしな。今回はあんさんらが行ってきたらええ」
「ぬう……本当にいいのか? この我輩と一緒だぞ? もう一生こんなレアチャンスはないかもしれないぞ?」
「しつこいオッサンは嫌われるで」
 まるで懇願するような教官に、ショウコはすげなく言い返す。腕組みしてぷいっとそっぽを向いた少女に、三十五歳独身の男は、がっくりと落ち込んだ。
「……やむをえない。グロムの同行を特別許可する!」
「さっき志願者募集してたじゃねーかよ!」
 いきりたつグロムを、まあまあとユッカがなだめる。そこへミーラルやショウコが何事か言い返し、すっかり緊張感のかけらもなくなった場を、教官は固く唇を噛んで、無言で見つめていた。

「……女将、酒」
「いいのかい? 明日、ロックラックへ発つんだろう?」
「……構わん」
 カウンターにつっぷしたまま、教官はぼそりと答えた。ミランダは珍しく、黙って教官のジョッキにビールを注いだ。
「あの子達、ジエン狩りに行くんだってね。あんた、それの付添いだって?」
「……ああ」
「教官ともあろうものが、ハンターに付き添うなんて聞いたことないよ。もしかして、何か裏があるんじゃないだろうね」
 ぴくりと、弛緩していた教官の指先が震えた。やっぱり、とミランダは眉をわずかに寄せる。
「……何か、やばいことなのかい」
 声を落として、ミランダは尋ねた。教官はうつろな声で「なんでもない」と言った。
「昇級試験に我輩は監督として同行するだけだ。……それだけだ」
「あの子達に何かあったら、承知しないから」
 まるで母親のような声で、ミランダはきつく言った。
「その称号が伊達じゃないなら、あの子達を無事にユクモへ帰しておやりよ」
 教官はうつむいたまま立ち上がった。酒には手をつけなかった。
「待ってるからね。あたしはここで、勝利の報せを待ってるから」
 答えはなく。酒場のドアが無表情に閉まるのを、ミランダは悲痛な面持ちで見送った。

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2011/10/03 22:54
イカズチさん、コメント感謝です。

教官がもてないだろうってのは、「狩りに生きる」のコラムで思いっきり出てますよね^^;
アニメでは、同棲までいった彼女がいたらしいですが、あっさりふられてますし。
俺はこういう人好きですけどね~。傍目に見てる分には飽きないですww
ん? イカズチさん、なにかかぶることでも?(^m^)ww

メンバー揃えの場面を褒めて頂けるとは、驚きです。ありがとうございます。
ここは、もう一話付け足して、ショウコが「一緒にいきたい」とゴネさせようとしたんですが、無駄に長くなってテンポが悪くなるのでやめました。
で、以前彼女がロックラックにいたという記述があったので、こういう理由にしたんですが…。
自分ではあっさりしすぎかなあと思ったのですが、この回は基本教官の視点で書いているので、そのくらいで良いかと思いました。

書き手のエゴを通すより、読む人が気持ちよく読み進められることが大切ですよね。
なので、こうして毎回ご意見や感想を頂けると、とても参考になります。ライブ感がいいですね^^

第13回は、実はもう書いてるんですが、ちょっと納得いかないというか、このまま出して良いか不安の残る内容なので、一度寝てから考え直します。
ご相談もありかと思ったんですが、今後のイカズチさんの章に大きくかかわるほどの問題点ではないので、次回お楽しみにして頂ければと思います。

アップのペース遅くてすみません。この章書ききったら終わりなので、悔いのないようにと思いまして。
でも今月中には必ず終わらせますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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2011/10/03 21:42
こう言う女性に対する下心が隠せない男は『男友達は多いが女にはモテ無い』ですねぇ。
知り合ってみると意外な一面が有ったりして楽しいのですが……。
いえ、決して自己弁護しているわけではありませんよ。

それにしても流石ですねぇ。
何がって無理なくメンバーを揃えた手腕ですよ。
教官では無く、蒼雪さんのです。

特にショウコのくだりは見事でした。
なるほどなぁ。
ロックラックで長かったショウコはジェンを見慣れてるんですね。
また、ユッカはミランダへの思いから、グロムは憧れ、ミーラルは……。
さて、どうなるのでしょう?
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2011/10/01 22:43
ぎく。いつもながら、まぷこさん鋭いです(まぷこさんの名前に戻ってよかった…w)
しかし、自分でそうとわかるように書いているので!これはこれでオッケーですよね?w
ええ、良い雰囲気ですとも!(`・ω・´)
この二人がどうなるか…まぷこさんのことですから、もう察しはついてるかもしれませんね^^;

教官っていい男だと思うんですよ。懐が広いというか。
バカもやらかすけど、決める時は決める!…たぶんね^^;
アバター
2011/10/01 15:02
教官(35歳独身)が女将ミランダ(未亡人)と何かいい雰囲気だと感じるのは、気のせいでしょーか気のせいでしょーか気のせいでしょーかっ?



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