月の雫のティールーム 10 ~蒼の祝福~
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/02 00:23:24
ドン、と打ち上げられた花火の音が響いて、島の主は心地良さに目を細めた。だけれど同時に、一抹の淋しさも去来する。季節は移り変わり、このガーデンイベントも最終日を迎えていた。身体の芯を震わせる振動も、夜空に咲く華も庭に舞う光も、今年はこれで見納めだ。
「"変わる"ときは、いつでも少し淋しいねぇ」
呟く口元には、けれど何処か懐かしむような微笑が浮かんでいる。淋しい、けれど、哀しくはない。また来年のお楽しみ、なのだから。そして次に控える季節にも、沢山『お楽しみ』は待っている。
そんな事を考えながら、さてどうしようかと庭を見回した。蒼い光の舞う最後の夜、堪能するには何処がいいだろう。満開の花に埋もれるように立って見ようか、それともやはり屋根に上がろうか。
思案する耳に、しゃららん、と微かに澄んだ音が届いた気がして動きを止めた。近く遥かな、まぼろしのような音。幾度も聞いたそれに耳を澄まし、口角を上げて小さく囁く。
「ニコ?」
呼び掛けながら、辺りを見回した。彼女が『目には見えないジュウニン』だとは解っていても、ついその姿を探してしまう。無意味な行動が癖のようになっている自分に苦笑を漏らし、――そして凍りついた。
咲き誇る夏の花々を背に、見えない筈の影が揺れていた。
小さく、華奢な影。その輪郭はひどく淡く、姿も殆ど透けている。瞬きする間に消えてしまいそうな、消えてしまえば気の所為だったと納得してしまいそうな、曖昧で不確かな存在感だ。――故に、彼女は凍りついた。息を詰め目を見開き、残滓の如く微かで儚い影を見失ってしまわぬように。
凝視する先で揺らぐ影は、何事か話しているようだった。しかし声は届かない。何か言っている、と感じる、けれど、聞き取れない。それでも読み取ろうと瞳を凝らす彼女に向かい、小さなまぼろしは腕を伸ばした。透明な、僅かばかり光を弾く輪郭がやっと時折視界を掠めるような淡い姿で、何かを捧げ持つように。
「――ニコ?」
どうしていいのか、困惑して問い掛けたその声に、光が収束しそして弾けた。まるでシリウスを100も集めたような眩さに、反射的に目を逸らす。
刹那の後に光は消えて、彼女は目を逸らしてしまった事にはっとした。焦りを浮かべて振り向く視界に、もはや幻影は見当たらない。
影、などではなく。くっきりとした輪郭、はっきりとした存在感を持って、見えなかった筈のジュウニンが其処に居た。
「アイルっ」
「え、あ、ニコ? ほんとに?」
「ほんとだよ、ホントウにホンモノのニコだよ!」
感極まった様子で飛びついてきた友人を、彼女は戸惑いながらも抱きとめた。何がどうなっているのか――問おうとするより一瞬早く、ニコがぱっと顔を上げる。幼い顔に必死の色を見て、彼女は言葉を呑み込んだ。
「アイル、おねがい。あの子も呼んで。たすけてあげて!」
「え?」
"あの子"? 解らぬままに、つられて視線を動かす。けれど視界に入るのは、闇が凝るばかりの宵の庭。
――否。
ドン、と響く振動に空気が揺れ、夜に溶け込む輪郭を描いた。ぱらぱらと降る光の粉に飾られ、ぽわぽわと舞う光の珠に照らされて、透き通る姿の"もうひとり"が微かに浮かび上がる。
「其処に……居るね。ニコのお友達?」
「っ! 見えるんだね、アイル! なまえ、名前を、呼んで」
「名前を? ……いいよ。何て言うの?」
問い掛けに、ニコもまた淡い影を見た。祈るように、背を押すように、じっと見つめた。
『 』『 』『 』
おずおずと、幻影の少女が顔を上げ、惑うように、怯えたように、けれどやはり、祈るように―― 一音ずつ区切りながら、無声音で名を紡いだ。
その声は、世界を隔てる見えない壁に遮られて。姿も儚く透き通り揺らぎ、曖昧で。それでも、小さな友人の祈りを受けて、じっと注視していた瞳は読み取った。
「す、み、れ。――"スミレ"」
瞬間、再び閃光が弾けた。
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100文字ほど零れたorz
すみません、分割します……;




























