モンスターハンター 勇気の証明~五章 16
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/08 11:52:55
【再会】
グロムが通りに飛び出した時は、すでに日は西に傾きかけていた。しかし、街はいっこうに静まる気配を見せず、むしろ、より賑やかになっていくようだ。
雑多な人や荷車の流れにはなかなか慣れない。田舎育ちのグロムは、たちまち目が回りそうになる。
「……まったく、やってられるかよ……」
足早に歩く人の流れに逆らいながら、あてもなくグロムは通りを歩いていた。
空気は乾いてほこりっぽく、どこもかしこも砂色だ。故郷の村とはまるで違う。大陸各地の狩り場を点々としてきたけれど、今くらい異国に来たんだと感じた事はなかった。
ユクモ村にも、湯治や仕事で訪れるハンターは多い。だが、ここほど多様な人種やランクのハンターを見かけることはなかった。
あちらに、まだ新人と見られるレザー一式の装備をした若者もいれば、歴戦の風格ただよう、レウス装備の男が闊歩しているのも見える。
商店街のあちこちでは、商人のさかんな売り声が飛び交っていた。峯山龍祭りの半額セールだよ、とかなんとか。
「腹減ったぁ……」
ぐううと鳴いた腹の虫に、グロムはため息をついた。感情にまかせてギルド本部を飛び出したはいいものの、行くあてなんてどこにもない。
ほとぼりが冷めたら、本部へ戻るしかなさそうだ。もともと、ここへは狩りの仕事で来たにすぎないのだから。
とはいえ、あれだけ派手に怒鳴ったりして、どの面下げて戻ったらいいかもわからない。
(俺ってバカ……)
肩を落として、グロムは額に手を当てた、その時だった。
「あらぁ~? もしかして、あなた。グゥちゃんじゃなぁい?」
「そ、その声は?」
街の喧騒の中、ふいに流れた艶やかな声に、グロムは弾かれたように顔を上げる。そこには、見間違えようのないバンギスシリーズに身を包んだ、アリスが立っていた。
装備のオプションでついているマスクは、狩りの時以外は外している。アリスの真っ赤なルージュを引いた唇が、にっとからかうように笑った。
「こらぁ~。なぁにそこでたそがれてんのぉ? あんた一人で来たわけ?」
「ア、アリスさんっ……」
久しぶりの再会が、こんなにも胸を締め付けるとは。グロム自身驚きだった。何か気のきいた挨拶を言いたいのに、それ以上の言葉が出てこない。十年ぶりに母親に会ったとて、ここまで気持ちが高ぶりはしないだろう。
「……ここじゃなんだから、店行っとこうか? おなかすいてるんじゃない? 何か出してあげるね」
「は、はいっ……」
今の情けない態度に、パンチの一つは覚悟していたというのに。
アリスは、優しく笑って、グロムの肩を叩いた。それで思わずうるっと来てしまって、グロムは涙腺を引き締めるのに苦労した。
「そっかぁ。やっぱりあんた達、『祭り』に参加しに来たのねぇ」
アリスはカウンターに両手を組んで、そこに顎を乗せ、寄りかかるように立っていた。
グロムは、アリスのふるまった肉料理から顔を離してうなずく。
「はい。それがランク6の試験だっていうから」
ハンターと兼業して営んでいるアリスの酒場は、まだ夜前なので準備中だった。夕暮れの光が差し込む店内は、グロムとアリス以外誰もいない。営業時間になれば、店員として雇いアイルーが来るそうだ。
「……アリスさん、俺、どうしたらいいっスか? 死ぬってわかってるクエに狩りだされるなんて……ギルドって鬼ですよ」
アリスの手料理は味つけが絶妙で、とてもおいしかった。しかしそれ以上食べる気になれず、グロムはフォークを置いた。
「……ユクモのギルマネの爺さんも、俺達に才能があるから任せた、みたいに言ってたらしいけど。そんなあてにならない予測で、どうして……」
「……怖いの?」
いつもののんびりした声。けれど、グロムはぎくりとした。
「……怖いんでしょ、グゥちゃん」
「……怖いっス」
くすくすと、アリスは笑っている。でも、バカにされた感じはしなくて、むしろグロムはほっとした。本部でミーラル達に言えなかった言葉が、するりと胸から出てきた。
「だって、相手は普通のジエンじゃないんですよ。5年前に大勢のハンターを殺した、とんでもない化け物で……。あの教官クラスのハンターが出向かないとならない依頼に、どうして俺らがついて行かなきゃならないんだ。もう、わけわかんないです」
アリスは黙って聞いていた。そして、グロムが言葉を切ってしばらくしてから、ゆったりと口を開いた。
「ギルドは、確かにハンターが死なないように手配してくれてるけどねぇ。でも、やっぱり現場では自分しか頼れる人はいないの。どの依頼も、危険なことは同じでしょ。生き残れるかどうかは、結局あんたの腕次第。違う?」
「違いません、けどっ……」
グロムは初めて、本気で泣きたくなった。
「俺、ずっとミランダさんから聞いた話が、頭から離れないんです」
一気読みお疲れさまでした。ありがとうございます^^
このリレー小説を書くにあたって、あらかじめ大まかな内容をイカズチさんにお知らせしていたんですが、グロムの恋愛模様に関しては、明かさずに独断で書いたものです。
小鳥遊さんが仰る通り、異性を意識しない幼なじみが、どうやって恋に落ちて行くか。その過程がないと、イカズチさんの6章で二人がくっついた時に、読む人が違和感を覚えるだろうと思ったからです。
あまりきれいに書きすぎると、イカズチさん原作のイメージを壊してしまうので、あの良いシーンでは教官が羽目をはずしておりますww
それと、中学生くらいの子供だった彼らが、大人になるまでのプロセスを書いてみたかったからです。
なので「成長している」と感じて頂けたことは、書き手として成功していたと思います。読みとってくださってありがとうございました^^
グロムがアリスに胸の内を打ち明けるシーンは、イカズチさんの描くグロムと、やや相違があったかと思います。自分なりのイメージをつけて書いたので、蒼雪グロムとイカズチグロムの相違なんです。
同じキャラでも、描く人によって絵柄が違うとか、脚本家によってキャラの雰囲気が変わるのと同じですね。そこを楽しんで頂けたら良いなと思って書いてました。
ミランダとアリスは、書きやすくて好きです。どのキャラもそうですが、見た目がおおらかで強そうでも、内面に繊細な部分を描いています。その方が深みがでるかなと(笑)
ご指摘のシーンはどれも気に入っているので、お褒め頂き嬉しいです。
またのご感想、楽しみにお待ちしております。ありがとうございました^^
蒼雪さんのところへ来る前に、イカズチさんのところで作品を拝読させて頂いていましたので、ここでのアリスとの再会には、じぃ~~~んときました。
今日、イカズチさんのところでアリスがユクモ村を出るシーンを読んだので、余計にです。
ちなみに、イカズチさんのところでは、ミーラルが玉の輿に?!の回まで読んできました。なので、蒼雪さんの作品の、これよりちょっと前の部分、グロムとミーラルのもどかしい恋愛模様がなんとも微笑ましかったです。
異性であることを意識しない程に近しい存在であった幼馴染という関係が、恋愛へと発展していく過程は、丁寧な心理描写が欠かせないと思っています。その点、蒼雪さんの書いたグロムは読んでいてとても良かったです。戸惑いながらも『警鐘』が鳴る……。恋愛って、そんなものですよね(笑)
それにしても、グロムは成長しましたね~~。
自分の中にある『恐怖』を素直に認める事が出来るなんて(しかも男の子なのに)、相手がアリスだからこそなのかもしれませんが、ちょっと前のグロムだったらこんな感じじゃなかったかなぁ、なんて思いました。アリスの懐の深さも、読んでいてとても温かい気持ちになります。
この回ではありませんでしたが、ユクモ村でのアリスとミランダさんの会話も良かったです。
傷つきやすいからこそ、その本心は笑顔の下に隠してしまうアリスをミランダの目線で語った件が好きでした。
今宵は、ひとまずここまでにして、続きはまた読みにきます~。
下記のアリスのシーンもそうなんですが、グロムが人の多さに目を回しかけたってのも、俺の実体験です。
用事で東京に出向いた時、東京駅で目を回しかけました。人の多さもさることながら、みんな歩くの早すぎなんだもん^^;
昔から東京育ちの人は、地方へ行った時は、むしろ人が少ない事に驚かれるのでしょうね^^;
>思わずうるっときてしまって
はい、俺もですwww
実は、これを書く前の日に、ちょっと精神的にショックなことがありまして…俺も自信を失いかけていたんです。
楽しいはずのこの作品も、書くのがきついなあ、と思うくらいに^^;
しかし、そんな心理状態だったからこそ、アリスの登場と行動が、自然に出てきました。
つらい気持ちになる前の構想では、アリスはもっとはしゃいだ感じで、いじけたグロムにパンチの予定でしたが、なんか違和感があって、アップしないで放置していました。
そこで、リアでの俺の感情が、グロムとシンクロしたんですね。
このシーンでは、全部肯定してもらいたいな、と思ったんです。俺なら…グロムなら。
人間って、自分を認めてもらわないことが一番こたえるそうです。無視で人は死ねますしね^^;
グロムがやたらとジエンを恐れる理由は、次で書いてますが、ただのビビりじゃないので。
(ビビる理由は、前から考えてました)
グロムが弱音をはけたのは、アリスだからですね。
妹にも、幼なじみにも、こんな姿は男として見せたくないでしょう。
ほどよく他人で、親密な年上の女の人じゃないとだめでした。アリス、いてくれてありがとう(つД`)
アリスがこんなにも懐深い女性だとは、俺もこれを書くまで気づきませんでした。イカズチさんに感謝です。
フェスで見たお水女性…コスプレしてました?見てみたいですね~^^
グロムだけじゃなくて私もですよ。
アリス、二人の師匠が必要で何気に出したキャラだったんですけど、良いキャラになったなぁ。
どこかでお話しましたように、アリスのアイデアは、以前、モンハンフェスタですれ違ったお水系の集団です。
こう言う人たちでないと見えてこない世界もあるのでしょうね。
大事に書いて頂けまして私としても嬉しい限りです。
『怖い』と素直に認めるグロムは随分と成長しましたねぇ。
当初のような『蛮勇』でも『理屈を付けたヘタレ』でも無い。
相手がアリスだからかな?