Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター 勇気の証明~五章 17

【恐れを勇気に】

「今までのクエストでも、そりゃあびびったことはありました。けど、ミランダさんの話はとても他人ごとに思えなかったんだ。……だって」
 グロムはうつむき、ぐっとカウンターの上に置いた両手を握った。それでも、涙が勝手に目から溢れてきてしまった。
「……俺の目の前で、ユッカやミーラルが同じ目に遭ったら――って」
 震える声を、やっぱりアリスは笑わなかった。その代わり、良い子良い子と、グロムの頭をなでた。
「わかるわよ。目の前で仲間を……大切な人を失うんじゃないかって気持ち。――ううん、それが見知らぬ人であっても、あんたは傷ついたんだね。……優しい子だね、グゥちゃんは」
「……そんなんじゃないっス」
 ぐすっと鼻を鳴らして、グロムは乱暴に目頭を拳でこすった。
「俺はただ、妹やミーラルがいなくなっちまうのが怖いんス。このクエだって、ほんとは行きたくなかった。でも、待ってる間に、あいつらに何かあったら嫌じゃないスか。俺は、ミランダさんみたいになりたくなかった……それだけなんス」
「……うん」
 アリスは、グロムの頭をなでていた手を、そっと頬にすべらせた。太刀を持つ手なのに、なぜかやわらかい手のひらに、グロムはどきりとした。
「いいんじゃなぁい? 泣き虫のグゥちゃんも、カワイイわよぉ」
「ちょ、からかわないでくださいよ!」
 真っ赤になってグロムが面を上げると、アリスはにっこりした。
「怖がりは良いことよぉ。蛮勇は、ただのバカ。まずは、自分や仲間が生き残らないとね。死んだら、報酬ももらえないんだから」
「師匠……俺、どうしたらいいっスか?」
 グロムはすがるように見つめた。けれど、アリスはただ微笑むだけだった。
「……そうだ、あたしもねぇ、お祭り参加することにしたからぁ」
「ええっ?」
 ふいに話題を逸らされて、まるで遊びに行くように告げられたアリスの言葉に、グロムは目を剥いた。
「ア、アリスさんもですか?」
「……今回のギルドの要請は、どうもおかしいって思ってたの」
 にやにやしながら、アリスは言った。
「今年やってくるジエンの群れ、討伐は禁止。全頭撃退せよ、だって。数が減りすぎても困るから、その調整だろうってみんな話してるけど、あたしは違うと思ったわよぉ」
「それって、もしかして……」
「街がパニックになるから、ギルドは隠してるのよねぇ。今年の相手が、あのヌシの群れだってことぉ」
 アリスの笑んだ目に、一瞬鋭さが宿った。やっぱすげぇな、とグロムは内心舌を巻く。
「まあ、それはあんたが話してくれたから、予想が決定したんだけどね~。さすがあたし、冴えてるぅ」
「わ、笑い事じゃないっスよ!」
 けらけら笑うおのれの師匠の楽天家ぶりに、グロムは慌てた。
「そのせいで、死ぬかもしれないんですよ、俺達!」
「……死なせない」
「――え?」
 ふっともらしたアリスのひと言に、グロムははっと彼女の顔を見た。アリスの口元は頬笑みを崩さない。そうし続けることが、彼女の固い意志みたいに。
「あたしは、あたしの大切な店や、街を守るために船に乗る。だから、あんた達も、死に物狂いで戦って」
「アリスさん……」
 のんびりした口調が消えたアリスの顔は、グロムの全く知らない顔だった。言葉を失うグロムを、アリスはまっすぐに見すえた。
「……ギルドが群れの撃退を一般ハンターに要請したのは、あんた達が集中してボスを倒せるようにするためよ」


「ジエンは群れで回遊してくるとはいえ、その巨体から、お互いの距離を遠く離して泳いでいます」
 グロム達がいなくなったギルドの会議室で、ロジャーが教官に、改めて作戦の説明をしていた。 
「砂の海は、潮の流れと同じように一定方向に流れていますが、ジエンの巨体がひと泳ぎしただけで流れが変わるのはご存知ですね。砂の流れが混乱するのは、ジエン自身にも迷惑なことです。つまり……」
「うむ。わずか十頭あまりとはいえ、群れの泳ぐ範囲は広大になる。周囲の砂流(さりゅう)が大荒れになること必至だな」
「はい。そこで、一般ハンターには、砂流をある程度安定させるために、群れをボスから引き離してもらいます。教官殿達は、砂流が治まった時点で出港し、真打ちを倒していただきたいのです」
「街にめがけて直進してくるのは、ボスと決まっているからな…・…」
 さしもの教官も、のしかかった責任の重さに眉を曇らせた。お察しします、とロジャーが目を伏せる。
「わたくしも同行できればよいのですが……」
「気持ちだけいただこう。なあに、この我輩が出向くのだ、心配には及ばん! 我輩の力で、必ずや街を守ってみせよう!」
 ヌハハハと、腰に手を当てて教官は笑った。ロジャーも、少しだけ笑う。
「ところで、貴様、良い酒場を知らんか?」
 ありますよ、とロジャーは微笑んだ。
「バンギスが良く似合う、なかなかの美人が経営している店なのですがね」

 

アバター
2011/10/13 22:05
イカズチさん、レス感謝です。

俺もそれはよく感じてますよ。
自分が考えて作ったキャラなのに、実はこいつら、単に別次元にいるだけで、本当にいるのではないか?
と。
話を書く時は、こいつはこう考えるだろうから…と考えはするのですが、実際に執筆している時は、頭の中に浮かんでいる彼らの行動をリポートしています。
その、リポートのための言葉がうまくいかなかった場合、酷評とか受けてしまうんですよねぇ…いや、それはまた別の話(笑)

リンクしすぎていて変な気持ちってのは、わかる気がしますw
もともとは、イカズチさんが考えた世界やお話ですもんね。それが絶妙に絡み合って、もう一個のお話そのものです。これは、お互いに伏線を回収しあっているからで、それで深みが出ているんです。

しかし俺は、もとからある料理をアレンジしているにすぎません。
イカズチさんのキャラや話をカレーライスに例えるなら、俺はそこに、コーヒーとかチョコレートとか、ヨーグルトなど、味に深みを持たせるための隠し味を付け加えているだけです^^;

俺が作る話やキャラって、中間を取って寝ボケたものが多いんですよ…><
テンプレになるのを恐れるあまり、両方の良いとこどりをしようという下心が出るからかもしれません。
しかし、イカズチさんはそのテンプレ…伝統的ともいうべき、基本形の話やキャラを前面に押し出している。
俺が寝ぼけた味の、カレーだかシチューだかわからない料理なら、イカズチさんはカレーそのものなんです。
この力強さは、本当にうらやましい。俺ももっと、表現に思い切りを身につけたいです。
アバター
2011/10/13 21:51
トゥさん、コメント感謝です。

ほんとに、アリスさんには俺も助けられてます。イカズチさんのキャラ設定が良かったおかげです^^

この回のアリスに関しては、前のコメントでも書きましたが、もっとグロムをつっぱねる態度を考えてました。星一徹のように、「ばかものー!」って感じで。
しかし、リアでの俺の感情と、ちょうどグロムがリンクしてしまい、「ここは年上女性に慰めて欲しいなあ…;;」と、ついついこんな展開に…。
ですが、アリスというキャラの懐深さが幸いし、うまくマッチしてくれました。彼女が元から持っていた素質、性格のせいだと思います。彼女がいなかったら、もっと違う展開になっていたでしょうね^^;

ジエンのモデルは、シロナガスクジラで間違いないと思います。
ジエンは、砂の有機物をこしとって食べているそうですが、シロナガスも口のひげでオキアミをこしとって食べてるそうです。おんなじだ~、と、モンハンウィキと見比べて思ったわけです。
ジエン狩りも、昔の捕鯨がモデルだと思います。
だからしっくりくるんでしょうね^^

モンハンのことについて、詳しく(面白く)書かれているwikiがあります。モンスターの設定についても書かれておりますので、ご興味があったらぜひどうぞ^^
http://ryubatu.wikiwiki.jp/


後半、かっこいいですよねww
俺も書いてて船に乗りたくなりました。
考えてた当初は、海の男がマグロ釣りに行くような、演歌みたいな世界を書こうとしていたんですが、ミランダや何やらが絡んできては、そのノリでは行けなくなりました。なので、こんなふうに…。
結果的にうまく治まったので、自分でも気に入っています。

トゥさんの緊急クエスト、早く出せると良いですね!
自力で出すのが一番感動するんですけど、そうなるよう、こちらもお手伝いしますので。また都合のよい日がありましたら、ぜひ伝言板に書き込んでくださいね。お待ちしています(^v^)
アバター
2011/10/13 04:44
蒼雪さんのコメを読んで居て奇妙な感覚に捕らわれました。
私がアリスをキャラ設定したのは、単純に普通の『師匠』では面白くなかったからフェスタですれ違った『盛り盛りヘアーのお水系ハンター集団』をモデルにしただけ。
でも前回以降のお話で、グロムはアリスがこのキャラでなければ説得されなかったでしょう。
同様にミランダが蒼雪さんの設定された過去を持っていなかったらミーラルを救う事は出来なかったでしょうし、ユッカが単に可愛いだけのハンターだったらショウコも生まれず、ドボル狩りに色々な悪影響を及ぼしていたかもしれません。

妙に蒼雪さんの世界と私の世界がリンクし過ぎている。
ひょっとして私たちは、グロムたちの世界を創造しているつもりで、実は単に覗いているだけなのでは?

なんてね。
少し『世にも奇妙な物語』風にコメしてみました。
アバター
2011/10/13 04:23
アリスさん、とても魅力的です。
普段はコケティッシュ、時にはとんがった気持ちを受け止めてくれて。ハンターの凛々しさも持っていて。
わたしがグロムだったらころっとやられてしまいそうです。

イカズチさんへのレスに書かれていますが、ジエンのモデルはやっぱりシロナガスクジラなんでしょうか。
クジラをヒントに書かれた生態がうまくはまっていて……たとえば「回遊」という単語一つの有無でも、説得力がちがうと思うんです。
ある意味主役のモンスターたち、その生き方がちらり覘けるような気がして、なんだかうれしいです。

そしてアリスの口調が一転してからの作戦説明、まさに勇気の湧いてくる流れでした!
撃龍船に乗り込みたくなります。
緊急クエスト、まだ出てないのですけれど(でもちょっと前進しました!)。
アバター
2011/10/12 10:14
イカズチさん、コメント感謝です。

燃えますよねえ~。ここは書いてて楽しかったです。
「作戦を説明する!」とかあると、気をつけしてしまいますね、ゲームでもw
とりたてて軍隊好きってわけじゃないんですが、こう、責任を任される誇らしさとか、やってやるぜ~!みたいに高揚してしまいますw

ジエン討伐は、考えてた当初は、単に教官に振り回されてグロム達がついていく感じだったのですが、
ミランダの過去や何やらが自然と伏線になっててくれて(偶然にも…)
「街を守る」という明確な目的ができたので、威厳ある依頼、つまりミッションが必要になったんです。
ロジャーは、司令官的役割です。

しかし、ただ漁に行くのではなくて、作戦行動として何かないと…と、ここ数日悩んでました。

毎日のように単身、上位ジエンを狩りに行きました。
ジエンってどう泳いでいるのかとか、まわりの景色とか、船の装備とか、あとジエンの全長はどのくらいなのかなとか、ジエン一色でしたね。

ロジャーの説明で、ジエンがたった一頭泳ぐことによって、砂の流れが激変してしまうので、砂の流れを安定させたい――とありますが、ここはウィキ読んでて思いつきました。

ジエンってシロナガスクジラがモデルでしょう。ジエンが群れで回遊なんて、ゲームでも書いてませんが、これを書くにあたって、クジラの群れをヒントにしました。
クジラは、そんなには離れて泳ぎませんけど、ジエンなら、一頭ずつ距離をおいて泳ぐだろうなと思ったんです。規模が大きい集団ってことですね。
なので、いつも我々が狩っているジエンは、群れの一頭なのだろうと考えたんです。
グロム達が狩るボスのために、ほかのハンターが何も知らずに作戦に参加する形で、極秘裏に物事が解決している…そういうのって、カッコいいと思いまして。

ロジャーは、別にアリスと仲良いわけでは…そこまで考えてなかったですwww
ただ、アリスの店がハンターの間で有名だってことを書きたかったんですが。
そういう想像して頂けるのも、なんか嬉しいですね^^



アバター
2011/10/12 02:56
ううむ、見事な説明と作戦解説。
読んでいると『ジェン狩り』に行きたくなります。
俺のガンスで打ち砕くぅ~!

ひょっとして、ロジャーとアリスは知り合い?
年齢的にもおそらく釣り合いが取れているのでひょっとして……。
なんて勘ぐりは野暮ですかね。



月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.