Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


モンスターハンター 勇気の証明~五章 19

【いざ、砂原へ】

「さあさ、座って座って! グゥちゃんも来てるわよ!」
 酔客の遠慮のない笑い声と喧騒にも、アリスの嬉々とした声は澄んで響いた。
「グロム、やっぱり来てたのか」
「お、おぅ」
 一番奥まった片隅のテーブルで、グロムは体裁が悪そうに、ミーラルに片手を上げてみせた。その様子を見て、ミーラルはすぐに「何かあったな」と気づいた。
 グロムが自分からアリスに会いに行ったのかどうかはともかく、彼とアリスの間には、どこか打ち解けあったような、親密な空気が漂っていたから。
(かなわないなぁ……)
 誰にも気づかれないよう、こっそりとミーラルは吐息をついた。ものすごく悲しいわけではないけれど、なんだかしっくりこない。
 ミーラル達を見るグロムの表情からは、出がけに見せた緊張や、思いつめた様子が消えていた。
 ふっきれたのだろう。アリスと話したことで。
 その相手が自分だったら、とミーラルは思う。いつかグロムが、心の内を何もかもさらけ出してくれるような仲になれたら……。
(――いけない。今は、こんなこと考えてる場合じゃなかった。気を引き締めないと)
 雇われアイルーが、香辛料の効いた料理と冷たい飲み物を運んできた。
 軽くかぶりを振って、ミーラルは目の前の料理に集中することにした。その様子を、カウンターの奥からアリスが微笑して眺めていたが、食事に舌鼓を打つ誰もが、気づくことはなかった。


 翌日は、朝から曇っていた。
 空を覆う黄色は、雨をもたらす雲ではない。細かな砂の紗幕だ。ロックラックの街から数十キロ離れた砂原で、ついに砂嵐が発生したのである。
「アリスさん、どうか、お気をつけて!」
 竜撃船が何隻も停泊する船着き場で、ミーラルは周囲の怒号に負けじと声を張り上げた。
「あんた達もぉ、精いっぱいやるのよ!」
 乗船したアリスもマストに片手を当てて立ち、弾けんばかりの笑顔を向けて怒鳴った。
 ジエン撃退の任を負ったハンター達が、しきりに声をかけあっている。見送りに来た仲間や家族、出港準備に駆けまわる船乗り達の声などで、辺りは異様なほどの興奮と熱気に包まれていた。
「おい、お前ら! 師匠を頼んだぞ! なんかあったらただじゃおかねえからな!」
 グロムが、アリスの背後に控える、むくつけき三人組に怒鳴った。
 髭ダルマ、太鼓持ち、侍バカといえば、ユクモでは一部しか知らない名物トリオ……そう、ヤマウド、ハグドム、バサムである。
「うっせえ、てめーよりいい仕事してやんよ!」
「はははっ、憧れのアリスさんと一緒に船に乗れて、うらやましーんでゲスな、グロム!」
「んだと~!?」
 ヤマウドとハグドムが悪ガキよろしくはやしたて、バサムもまんざらでもなさそうに、うんうんと腕組みしてうなずいている。グロムが頭に血を昇らせると、アリスがけらけらと笑った。
「あははっ。女王様にはしもべがつきものなのよ~。使い物にならなかったら、即蹴り落として、デルクスの餌にしちゃうけどねぇ」
「うっ……」
「お、俺達、ついていく人を間違ったんじゃ……?」
 ヤマウド達が今さらのように後悔を浮かべ、顔を見合わせる。そこへ、撃龍船の乗組員の男が、出港の準備ができたとアリスに告げた。
「――よし。じゃあ、行って来るわねぇ。おみやげ、楽しみにしててね!」
 どおおおん。どおおおん。
 狩りの無事を祈り、港で大きく銅鑼が打ち鳴らされた。腹の底まで響く深い音は、モンスターの咆哮もかくやというほどだ。
 艫綱(ともづな)が外され、ゆるゆると船が砂を滑り出すと、わーっと、歓呼がわき上がった。見送りに来た人や、港の者が一斉に叫んだのだ。
 撃龍船に乗った者達も、皆手を振って応える。どちらにとっても晴れがましい瞬間だったろう。見ていたグロム、ミーラル、ユッカ達も、胸が震える思いがした。
 砂の海を駆ける船は、真っ白な帆に風をはらむと、砂流に乗ってぐんぐん遠ざかっていった。
 アリスの他に、五隻の船が各目標に向かう手はずだ。
 撃龍船には、それぞれ支援のための小船が、各七隻づつ並走している。それらも含めると、かなりの大船団に見えた。
 けれど、強大な敵と戦うには、それはあまりに少なすぎる数といえた。
「……行ったね……」
 祈るように両手を組んで、ユッカが船の去った砂原の彼方を見つめていた。教官がうなずく。
「うむ。彼等の武運を祈ろう。我々は、およそ五日後に出港することになる。理由は、昨夜教えたな?」
 ユッカ達は、力強くうなずいた。アリス達が群れを引き放す間に、自分達は本星を討ちに行く。
 狩りよりも、その重責に耐えて時を待つ方が、三人にとっては一番つらい。
「……先生。先生は、怖くないの……?」
 傍らでじっと砂原を見つめるランマルに、ユッカは尋ねた。
「怖いニャ」
 ランマルは、思いつめたように砂原を睨んでいた。
「でも、行かなきゃ、ボクやミランダ様の話が終わらないんだニャ」


 

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2012/01/20 07:48
小鳥遊さん、コメント感謝です。

またも好意的なご感想、ありがとうございます。
いつも丁寧なコメント嬉しいです。自分では気づかない部分もご指摘くださるので、大変勉強になります。

ミーラルがアリスとグロムのやりとりに、それとなく気づくシーンでは、もう少し長く書こうかとも思っていたんです。アリスとミーラルが話をして、なんとなくグロムの取り合いみたいな展開になるとか…。
しかし、話のテンポや配分的にバランスが悪くなるかな…と思い、こうなりました。
でも、もう少し書いてもよかったですね^^;
毎回二千字に首尾よく収めるのは難しいものだと、新ためて感じました。
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2012/01/19 11:07
前回の【祭りの夜】と今回。
どちらも、とても印象に残る回となりました。
狩りの場面だけでなく、こういった場面が丁寧に描かれているというのは、読み手としてとても満足感があります。
こういう場面でそれぞれの心理描写がきちんとなされているからこそ、狩りの場面でも彼らの『想い』や、『何と戦っているのか』(それは当然、目の前の敵であるモンスターなのでしょうが、それだけでなく^^)といったものが、伝わってくるような気がするのです。

それにしても、やはりアリスは大人の女性なんですね~。
かぶりを振って料理に集中しようとしているミーラルのことも、温かい眼差しで微笑ましく見守っている。
本当に素敵なお師匠様です^^
あとは、ユクモ村の名物トリオがデルクスの餌にならないよう、お祈り申し上げております(笑)。

思いつめたように砂原を睨むランマル……。
もふもふしたい~~というのは、置いておいて^^;
ユッカとランマルの心模様も、これから先を読ませて頂くのを楽しみにしています。

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2011/10/20 08:39
イカズチさん、コメント感謝です。

そうですね、そのへんはわりと悩みました。
初稿では、「アリスと再会して感極まって泣くミーラル」が出来上がっていたのですが、グロムがアリスに胸の内を吐露する場面を入れたので、そのままそのシーンを残すと違和感があるので、こうなりました。
女の勘で、きっと何かしら気づくだろうな、と。

これらの場面を通じて、俺も、キャラが「生きた」行動とはどういうものを指すのかわかった気がします。
これも、イカズチさん達が毎回感想やご指摘をくださるおかげです。ありがとうございます^^

あの三人組については、これも書いている途中で突発的に入れちゃいました。
アリスとパーティーを組むメンバーは、別に名前のないモブキャラでもよかったんですけど、「そういえば取り巻きキャラで良いのがいたな~」とw
こいつらのおかげで、場面がより生き生きしてきました。イカズチさんにまたまた感謝です^^

ジエンとの狩りのシーンは、およそ5回前後を予定しております。この展開からの続きを入れると、あと10回前後ってところでしょうか。
今月中には書き終えると自分に決意しましたので、最後までどうぞよろしくお願いいたします!
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2011/10/20 02:42
この回の冒頭は難しかったと思います。
私もミーラルとアリスの関係に付いて悩んでいましたから。
ミーラルがアリスに対して持つ感情は『敬意』が一番でしょうが、グロムを間に置くと『諦めを交えた嫉妬』と考えざる終えません。
まぁ、アリスが本気でグロムを相手にするはずが無いとわかっているので、ミーラルも本気で嫉妬を行動には移さないのでしょうが……。
恋人宣言も無い(キスはしたくせに)=自信が持てない⇒アリスへのほのかな嫉妬を現せた良いエピソードだったと思います。

おお、あの三人組。
これも『出しといて良かった』キャラになってきましたね~。
個性が強すぎ……と、言うか濃過ぎなので使い所が難しいですが、そうですか、アリスと乗船ですか。
羨ましい……。

この『待ち』の五日は辛いでしょうね。
先発隊の成果も気になるでしょうし、何より知り合いが乗船してますから。
ミーラル、グロム、そして何より因縁のあるランマルとユッカにとっての第一の試練と言えるでしょう。
先の展開が楽しみです。



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