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モンスターハンター 勇気の証明~五章 21

【ミーラルの挑戦】

「不安? 珍しいな、お前が人前でそんなこと言うなんて」
 からかうミーラルに、グロムは噛みつくように言った。
「誰のせいだと思ってんだよ? 俺の頭痛の種は半分お前のせいだってわかってんのか?」
「はあ? それはお前にそっくり返したいんですけど~?」
「ちょっと、二人とも、ケンカはやめてよ!」
 睨みあった二人の間に入って、ユッカが止めようとした。が、反対にグロムに睨み返される。
「お前もちょっと言ってやれ、ユッカ! みなさ~ん、ここににわか笛吹きがいますよ~!」
「なっ……!」
 口元に手を当ててわざとらしく言いふらすグロムに、ミーラルが真っ赤になった。
 ミーラルの背には、溶岩の塊を溶かして作ったような、武骨な狩猟笛が背負われている。名をドヴォンヴァといい、ウラガンキン亜種の素材から出来ている。
 見た目に反して鈴の鳴るような音を立て、音楽による仲間への支援効果が強力なことで知られている笛だ。
「お前なあ、なんでこんな重要な狩りに、慣れてない武器持ってくるわけ? それで俺のこと殴り飛ばして砂におっことしてみろ、一生恨むぞ!」
「うるさい、旋律は間違えないように、村で特訓してたんだ! “旋律は”間違えない! それになあ、てめーだって散々ガンスの砲撃で私のことふっとばしてんだろうがあ! 人のこと言えんのか、ああ?!」
「だから、ケンカしないでってば!――もう!」
 ユッカが怒鳴るも、額を突き合わせるようにして二人は睨みあいをやめない。とくにミーラルは、近接担当としてグロムとペアで敵に挑むケースが多いだけに、吹き飛ばしの被害を相当根に持っているようだ。
「しかし、互いの間合い取りは、今回はとくに重要だぞ」
 真面目な顔をして教官が言った。
「ここは流砂の広がる地だ。海の水と違い、流砂はアリ地獄のごとく、落ちた者をひきずりこむ。万が一に備えて、我々はこうして命綱をつけてはいるが、その綱も万全とはいえん。落ちないに越したことはない」
「はい……」
 待機中の五日間、ユッカ達は砂原についても、教官やロジャーからいろいろ教えられていた。
 この砂漠は、砂の質が非常に細かい粒子でできている。
 一定の浮力があるため、落ちてすぐに埋没する危険性はないのだが、はまりこんだ場合に脱出が難しいので、龍撃船を含むすべての砂上船に乗る者は、命綱をつけることが義務付けられている。
 「でも、大丈夫かなあ……ちょっと心配」
 まだ言い争っている兄とミーラルを見て、ユッカは弱々しく笑った。
 ミーラルが、“旋律は”と、二度も強調していたのが怪しい。
 狩猟笛はハンマーに似た打撃武器だが、重量と大きさ、複雑な演奏法ゆえに、独特の立ちまわりが必要だ。たった数日で使いこなせるものではない。
 少女の小さな不安を乗せて、撃龍船は夜の砂原をひた走った。

 峯山龍は、砂嵐とともにやってくる。はるか昔からこの地に根付く言い伝えである。
 正確には、毎年吹く季節風にジエンの回遊の時期が重なり、彼らの巻き上げる砂が風に乗って嵐となる。
 ジエンのいる地点はかなり強風が吹き荒れるのだが、地上部に姿を現していないと、砂は比較的おとなしい。
 広がる空は青いのに、地平線が砂の高い壁に覆われているのは不気味だった。まるで空間を切り離されたようだ。
 強い風と激しい砂流に相乗して、船はおよそ50ノットもの速度で進んでいた。海上を行く普通の船よりも速い。
 こうして無事に進めるのも、アリス達がジエンの群れを遠ざけてくれたおかげだ。そのままだったら、まともに浮く事もかなわず、船はたちまち転覆していただろう。
「右舷にデルクスの群れ! 要注意ニャ~!」
 甲板で見張りをしていたランマルが声を張り上げる。
「来たか!」
 船室で休んでいた教官とグロム達が、一斉に甲板に躍り出る。
 ジエンの進む道は、砂の中に潜む微小生物が多く、砂漠に生きる生物には絶好の餌場なのである。
 カジキに似た魚竜種のデルクスは、ジエンのゆく所についておこぼれをもらうので、その群れは目印とされているのだ。
 砂からイルカのように跳ねて泳ぐ群れは、砂漠の名物として見た目に楽しいものだが、さすがになごんでもいられない。教官をのぞく全員に緊張が走る。
「段取りはわかっているな。少しのミスも命取りだ。気合いを入れていけ!」
「はい!」
 教官の檄に、グロム達は気をつけをして応える。その時、砂中から遠雷のような咆哮が湧きおこり、四方へ響き渡った。
 流れる砂を割り、長大な二本の牙が天をあおぐ。白茶けた小山のような身体がゆったりと浮き上がってくる様子に、皆、声も出ない。
「あれが――ジエン・モーランだ」
 不敵に笑って、教官が巨大な怪物を示した。

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2011/10/26 22:31
GRさん、コメント感謝です。

おかげさまで、毎回の狩りで良い取材ができました。ミーラルが笛を使うことにいたったのも、すべて皆さんがモデルになったがゆえ…。
このあとどんなとんちんかんな事をやらかすのか、楽しみにして頂ければと思います。

書き終わりたくないと思いつつ、早く終わらせなければとも思う作品となりました。
今月中には、この章完結したいと考えております。最後までお付き合い頂ければ幸いです。
よろしくお願いします^^
アバター
2011/10/26 22:01
おぉ~!ここに来て、シリーズ初の狩猟笛登場!
みなさんとご一緒する時に私が使ってる系統の笛ですね

そうそう、やっぱりこれですよね
狩りの前、もしかしたらその最中でも噛み付きあうような言い合いをしながら・・・
一時はどうなるかと思ったメチャクチャなギルドの討伐依頼がいよいよ開始、
少しシリアスな場面が続きましたが、
この大舞台の前にいつもの彼ららしい雰囲気が戻ってきましたね

グロムもミーラルも、ユッカも教官も、蒼雪さんも頑張れ~^^
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2011/10/24 10:47
イカズチさん、コメント感謝です。

はい、これまでの皆さんとの狩りで得た取材を生かそうと思いました。
皆さんのどなたかが、彼らの行動のモデルになっています。ほくそ笑んでいただければ幸いです。
ミーラルが笛なのも、たぶんお察しの通りです^^

残す所あと5回前後を考えていますが、どうも筆が進まず…今週中に終わらせたいと思っていますが、ちょっと超えちゃうかも?
怠け心を叱咤しつつ、早く追われるように頑張りますw
アバター
2011/10/24 01:42
おお、今回ミーラルは狩猟笛なのですね。
『ドヴォンヴァ』とはまたシブい選択を……。
レベルも有るのでしょうがミーラルがドヴォンヴァを選んだわけは。
これからの展開で明らかになりそうですね。

パーティプレイをやった人ならわかりますが、メンバーに優秀な笛使いが一人居ると格段に狩りが楽になります。
毎週末に我々が集まっている狩りではGRさんがそれにあたりますね。
今回、ミーラルが笛を持ち出してきたのも、そこら辺が関係しているのかな? とも思えますがいかがでしょ。

いよいよジェンが姿を現しましたね。
初めて大型の古竜を見た時の衝撃はいまだに忘れられません。
(私の場合、ラオシャンロンと言うモンスターでしたが)
次回のグロムたちの反応が見所ですね。



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