モンスターハンター 勇気の証明~五章 25
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/27 12:46:18
【赤い夜明け・承前】
特例として、そのジエンは集団で狩ることを許された。見事倒せれば、報酬は山分け。しかし、とどめを刺した者には、それだけ多く金とジエンの素材が支払われる。
示された破格の金額に、誰もが怪しむことはなかった。内外から大勢のハンターが名乗りをあげ、次々と船に乗り込んだ。
シンもその一人だった。ここ数年、ジエン狩りで死傷者が出ていなかったこともあり、きっと今回も大丈夫だろうと、船出の時話していた。
(狩りに“絶対”なんて言葉はないニャ――)
何も知らないランマルに男らしく笑っていた主人に、言ってやりたい。
思い出すたびに胸が痛くて、泣きたくなる。
シンは、最後のハンターだった。
次々と仲間の船が沈められていく中で、彼はもう逃げようとすすめるランマル達の言葉を聞き入れなかった。
――俺がやらなきゃ、誰がやるんだ!
船体を強引に横付けすると、シンは大剣をひっかついで身体に飛び移った。そして、背びれまで駆け上がると、やっきになって攻撃し始めた。
ランマルとカッツェは、援護のために必死で砲撃を行った。
……あの時、誰が悪かったのかわからない。自分か、カッツェか、それともシンか。
バリスタの矢がジエンの腕に刺さったからか。砲撃が脇腹を直撃したからか。シンが、渾身の力で背びれの一つを破壊し、大きな穴をあけたからか――。
ジエンが激しく咆哮し、身をよじった。怒りにまかせて、噴気孔から巨大な岩をばらばらと飛ばした。
シンは、振り落とされないように剣を鱗に突き立ててつかまった。しかし、船と繋がっていたシンの命綱はちぎれてしまった。
同時に、巨体に体当たりされて、カッツェが振り落とされた。彼がジエンの動きを予測できず、砲弾を手にしていたのがまずかった。衝撃で落とした弾の爆風でふっとび、砂の海に放り出された姿、悲鳴――。忘れはしない。
バリスタと砲台が、舷側ごとめきめきと外れて落ちて行く。船がジエン側に大きく傾き、ランマルも横滑りした。両手の爪で甲板に長いひっかき傷をつけながら、必死に主の名を呼んだ。
無謀とわかってもシンは、狂ったようにジエンの背にしがみつき、斬りつけるのをやめなかった。そして、大破した船にしがみつくランマルに叫んだのだ。
お前は逃げろ、と。
「逃げろったって、どうやって逃げればよかったニャ……。バカだニャ、旦那様……」
徐々に明るくなっていく地平線を見つめていたランマルは、急いで目のまわりをごしごしとぬぐった。下から、誰かが甲板へ上がってくる音がした。
「おはよう、先生。見張りご苦労様」
「……お気楽なやつだニャ」
「え?」
「なんでもないニャ」
短い髪に寝癖をつけたユッカの顔を見て、ランマルは、ふんとそっぽを向いた。
短期間で実力をあげ、ハンターとしての貫禄もついてきたかに思えたユッカだが、昨日はジエンの体当たりを間近に見ただけで、あんなにとりみだしていた。
なのに、ちゃんと食べて、こうして熟睡しているのだから、器が大きいと思う。それはグロムとミーラルも同じで、ランマルは呆れるとともに感心もしていた。
わりとそういうところに、現れるものなのかもしれない。
ハンターの資質というものは。
「砂の壁、ちょっと近くなった気がする」
舷に両手をついて身を乗り出し、ユッカが遠くに目を凝らした。ランマルも傍らに行って、地平線を眺めた。
「実際、追いつかれてるんだニャ。今年の風は、ちょっと駆け足みたいだニャ」
「砂嵐がわたし達にかぶったら、どうなるの? 船、転覆しちゃう?」
「するかもニャ~。視界も利かないし。すぐ死にはしないけど、死にそうにはなるニャ」
ランマルが肩をすくめてみせると、ユッカは深刻な顔になって、少しうつむいた。
「……そうなんだ。じゃあ、砂嵐に追いつかれないようにジエンと戦わないとならないのね」
「追いつかれたら、砂とジエンのダブルパンチで、もう勝ち目はないニャ。追い風だから、船がジエンに抜かれる心配はニャいけど、倒せないままだと、ジエンと街へ同時ゴールしかねニャいニャ。砂嵐も一緒にニャ」
「それって最悪だよね」
ユッカはくすっと笑った。まったくこの娘、危機感を持っているのかいないのか。ランマルが呆れると、ユッカはにっこりした。
「大丈夫。きっとなんとかなるよ」
言ってから、ユッカはちょっと苦笑した。
「ううん、――なんとかする、だよね!」
「上出来ニャ」
先生らしく、ランマルは腕組みして、重々しくうなずいてみせた。うん、とユッカもうなずく。
二人が目を見かわした時、下の方からそこはかとなく良い匂いが漂ってきた。コハルが、朝食の支度をしているのだろう。
「先生、ご飯できたら教えるね」
舵取りと見張りがあるランマルを残して、ユッカが立ち去る。うなずき返すと、ランマルは青みを帯びてきた天空を見上げた。
(見ていて下さいニャ、旦那様、カッツェ)
いえいえ、いつも細やかに読んで下さり、丁寧なご感想ありがとうございます。
大変励みになります。誰かに読んでもらえるって、本当に嬉しいことですね^^
ランマルの過去については、ここできちんと書いておきたかったので、ちょっと長かったですが省かずに書きました。
ゲームの小説ですが、リアルにある世界として描いたので、どうしても重い現実が出てきてしまいます。
モンスターが、いかに人間にとって脅威なのか…です。
その恐ろしい怪物に立ち向かう主役たちの傑物ぶりを現すには、よく食べよく眠る、だろうなとw
自分が上がり症なので、プレッシャーかかると夜も眠れないんですよ。でも、大器と言われる人は、そういう時でも平気で生活していますよね。そこが器の違いかと。
本番で上がらない人は、試合でも実力を発揮するのと同じ理屈ですね^^
でもやっぱり、他人から見て平然としていても、内心は…。と、それは次回に書きました。
またいつでも感想お寄せ下さい^^
「さえら」で読みに来てしまいました^^;
朝から一気読み。もっと続きが読みたいけれど、外出の支度があるのでここまで><
どのお話にも感想コメントを書きたいのですが、今日はとりあえずでここだけでスミマセン!
前回と合わせての【赤い夜明け】とても良かったです。
ランマルの心情が描かれていて、じーーんとくる部分が多かったです。
今回の最後で、天空を見上げて心の中で旦那様とカッツェに呼びかけるランマル。
私の頭の中に『絵』が浮かびました。ランマルの横顔、天空を見上げる眼差し、そして空の色……。
蒼雪さんが丁寧にここまで書いてきてくれていたからこそ、ランマルの(見ていて下さいニャ)が
胸に迫ります。
ランマルとユッカが視線を交わすシーンもいいですね^^
それに、ランマルがユッカ、グロム、ミーラル達の事をちゃんとよく観察していて、実はそれなりに感心している部分もあるという事を激闘の前のこういう場面でさらっと書かれているのも良かったです。
たとえ、それが食べて眠れた事に対する評価でも(笑)。呆れるとともに感心『も』してくれていたんですよね?
ハンターとしての『技量』だけでなく、ひょっとしたら『人として根本的な部分』にこそ、ハンターの重要な資質があるのかもしれないなぁ~なんて、素人ながら考えてしまいました。
まぁ、大物ハンターになるには、技量の高さは大前提で、そこから先の分かれ目は人間性って事なのかしら?^^とそんな感じで。
2話って形になってますが、本当は、前回と合わせて一回分です。長いので分かれただけです。
その前の、グロムがミーラルと雨の中で会うシーン…あれも一回分なんですよ^^;
承前(つづき)ってタイトルをつけているのは、そのためです。
今月中には意地でも終わらせようと決めてますので、なんとか終わらせます!
イカズチさんは、イカズチさんのペースで書いてください。納得いくまで推敲して、悔いの残らないように…。俺も、この章が最後なので、構成とか細かい事を考えるのをやめて、好き勝手に書く事にしました。
伏線の回収に泣きながら書いてますww
彼らって、アイルーのことですか?
アイルー、メラルーともに、雑食だと思ってましたが。
前作は未プレイなのでわからないですが、今作では、武器に肉の形をしたハンマーがありますよね。
「ネコまっしぐら」って説明にありましたww
魚も肉も、ネコは好物なので、わりと肉食系なんじゃないでしょうか。
作中では、保存のきく食べ物を持ってきているという設定です。肉も、塩漬けとか燻製とか。
教官がほおばっていた肉は、味をつけてある程度保存できるよう加工した肉です。字数で説明できなかったのが残念です(言いわけ)
もんぷちやかるかんのブランド、あったら面白いですねww(^m^)
りょ、了解!速攻直しておきますww
ねこ語って難しいなあ~^^;
二話連続投稿。
いよいよ後がなくなってきました。
砂嵐+ヌシ・ジェンかぁ……。
いよいよ後に引けないクエになってきました。
ところでユッカが「ご飯できたら教えるね」と言ってますが、彼らは何が主食なんでしょう?
サシミウオとかの魚系は2ndでねだられた事はありますが、この砂漠では……。
ひょっとして大都市には『門・プ乳』や『狩る・漢』などのメーカーがあり、アイルー向けドライフードの販売を行っているのでは?
なんちて。
『船がジエンに抜かれる心配はないニャが』
のところ、
『ないニャが』
よりも
『ニャいが』
の方が言い易いと思います、ランマル先生。