Nicotto Town


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モンスターハンター 勇気の証明~五章 28

【ミーラルの理由】

 教官がおおげさに言うまでもなかった。船首には可動型の巨槍(きょそう)が装備されている。名を撃龍槍といい、大銅鑼と同じくハンマーでスイッチを叩いて起動させる兵器だ。
 対古龍兵器の花形であり、たとえ巨大なモンスターといえども、この一撃を食らって無事な者はいない。
「今までのは前哨戦だ。これを相手に叩き込んでからが本当の戦いといえよう。――誰か、この名誉ある一撃を担う者はいないか!」
 教官が胸をそらして一同を見渡す。しかしグロム達は、どこかばつが悪そうに顔を見合わせた。
 ジエン狩りの成否は、すべてこの槍にかかっているといっていい。そんな責任重大な役目をすすんで引き受ける者はおらず、この役割分担だけは、出立前からもめていたのだった。
「むう、誰もおらんのか。いいのか、それなら我輩がやっちゃうぞ? 人生に一度の晴れ舞台、貴様らにも味わってもらいたかったのだがな……」
 教官が残念そうに吐息をついた。すると、思いつめたようにうつむいていたミーラルが面をあげた。
「――私がやります」
「ミーラルッ」
「いいんですかっ?」
 うろたえるグロムとユッカに、ミーラルは硬い面持ちでうなずいた。
「うん。だってあんた達、もうぼろぼろじゃない。今までずっと甲板にいて、ジエンのでかい口前にして……怖かっただろ。牙のなぎ払い、何度受けたの?」
「う……」
「や、やっぱりわたしが――。ミーラルさんだって戦い通しで、すごく疲れてるじゃないですか」
「その手でハンマーなんか持てないでしょ。バリスタ撃ちっぱなしで、肘がガタガタなんじゃない?」
 ぴしゃりとミーラルに言いくるめられ、ユッカはしょんぼりとうつむいた。反論できないのは、正解だからだ。
「教官。私にやらせてください」
「うむ、よく言った」
 しっかりした面持ちで向き直ったミーラルに、教官は満足げにうなずいた。
「ジエンが浮上するまで、まだ間がある。今のうちに食事を摂れ! 腹を空かせて倒れたら承知せんぞ!」
「は、はい!」
 きりっと右手を前方に振りかざした教官に、三人はうなずいた。あとで気がついたことだが、すっかり教官のリードに乗せられていたのだ。酒が入るとだらしなくなるオッサンだが、こと狩りの現場では活き活きとしている。不思議なカリスマのある男だった。


「なあ。なんでお前、狩猟笛なんか選んだわけ?」
 簡素な昼食をすませると、再び全員は甲板に出て、周囲を警戒していた。防砂マントの襟に深く顔をうずめたグロムの問いに、ミーラルは、やや頬を赤らめた。
「別にっ、どうってことないよ。ただ、――」
「ただ、なんだよ。言えよ。でないと気になって戦えねえ」
「……」
 グロムとユッカから視線を外して、ミーラルはふくれたように唇を尖らせた。
「今まで私、ずっとあんた達のサポート役だっただろ。でも、今回の狩りで片手剣じゃ、ほとんど役に立たないと思ったんだ。ジエンのでかさに、私の剣なんて針で刺すようなものじゃないか」
 だから強力な支援効果のある笛を選んだのだと、ミーラルは言った。
「でも、ほんと、あんたの言うとおりだったよ……。慣れない武器のせいで、あんたのこと砂に突き落としちゃうし。命綱がなかったら、死んでたもんね。ほんと……ごめん、グロム」
「ばっ、あ、謝るんじゃねえよ!」
 しおらしく肩を落とす幼なじみにグロムは慌てふためき、口の中に風に舞った砂が入って激しく咳き込んだ。涙目になりながら、ミーラルを睨むように見すえる。
「いいって、もう済んだことなんだからよ。俺だって笛使いの射程範囲、把握してなかったのも悪いし。お互い様だ、な?」
「グロム……」
 唇を噛むミーラルに、ユッカも明るく笑いかける。
「そうですよ。持ちつ持たれつ、です。迷惑かけているのは、わたしも同じだし。これから注意していけばいいんです。だから……あまり、思いつめないでください」
「……うん、そうだね。ありがとう、ユッカちゃん」
「――はい!」
 三人が見つめあい、笑いあった時だった。船首で双眼鏡を覗いていたコハルが、鋭い声をあげる。
「来ましたニャ! 前方、約百メートル! ジエンが浮上しましたニャ!」
「よおし! 全員気を引き締めろよ!」
 教官が怒鳴り、グロム達は緊張して彼方を見つめた。
 

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2011/11/02 08:54
イカズチさん、コメント感謝です。

片手剣はベテランの武器…と、どこかで誰かが言っていたような気がします。
敵の弱点を、これでもかってくらいに手数で責めないと、なかなか火力が出ない武器です。
また、一撃ダメージが弱いので、仲間と戦うとどうしても控えめな印象になりますね。そこで、アイテム係として頑張りなされ…という役割分担にいたったのでしょう^^;
強い人が使うと強いんですけどね。

ミーラルもその非力さをよくわかっているので、今回笛に持ち替えたわけですが…天才じゃないので失敗もあるよ、と。
真面目で責任感の強いミーラルならと思って書きました。違和感なくてなによりです^^

興味本位で…ってのは、ゲームだし別にいいのでは?^^
俺も興味本位でガンス使って、今ではハマってますしw
いろいろ使えると楽しいですよね~^^
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2011/11/01 22:32
そうですね。
私もサポート用として片手剣を扱ってみて非力さに驚きました。
手数は多いはずなのに、同じ攻撃力の大剣やハンマーに比べて攻略時間が短い気がします。
ミーラルが笛に持ち替えたのもわかると言うもの。
しかし、笛は難しいなぁ。

新人が興味本位で引き受けるのとは異なり、難しさや責任の重さを理解した上で「私がやります」と言い切ったミーラル。
偉い。
教官で無くとも『よく言った』と拍手です。
いよいよだなぁ。
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2011/11/01 09:02
まぷこさん、レス感謝です。

誇示っていうか、偉そうにするというか。そんな感じで昔の人は使っていたんでしょうね。
語彙を選ぶのは難しいですね。感覚で一気に書いた、ほぼ初稿をアップしていますので、こういうミスも多いです^^;

そびやかす、ちょっと使ってみたかったんですよ(ノωノ)
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2011/10/31 16:35
んー……間違い、っていう訳じゃない、とは思うんだけど。
動作としては合ってるんだろうけど、なんかここでは違和感を感じる、っていうか、ちょっと引っかかる。

『誇示する』って感覚が伴う気がするなぁ、『そびやかす』って。
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2011/10/31 12:50
まぷこさん、コメント感謝です。

うっ、そ、そこはですね…、昔読んだ本に、そんな書き方を見たんですよ。
男性キャラが「胸をそびやかして」って。プロの作品です、もちろん。

まあ、反らすって意味なんだろうけど…なんだこれ、間違いだったのか^^;
造語が広まったんでしょうか。それとも、昔はそういう言い回しが通用したのかな?

ともかく、あまり良い言葉じゃないみたいですね。ご指摘感謝です!
別の言葉に訂正しておきます^^
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2011/10/31 12:46
GRさん、コメント感謝です。

ジエンは、連携プレーが何より重視されるクエストですよね。
こう言ったらなんですけど、他のモンスターは皆が自分勝手に攻撃してても勝てますが、ジエンは船の防御と敵への攻撃、誰かが受け持たないとだめですから。
それだけに、個々の責任感が問われる狩りですよね。やり遂げた時は自信もつくし、いいクエストだと思います^^

教官はデウス・エクス・マキナなので、あまり彼に活躍させないようにするのが大変でした^^;
あくまで教官として、彼らを教え導くようにしてみました。
しかも彼は、無自覚にそうしているんですよ。根っからの教職者なんですね^^;

ミーラルさん、カッコいいんですが、その責任感の強さがあだになったりします。
毎回楽しみにしていただけて嬉しいです。ありがとうございます^^
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2011/10/31 11:23
|教官が胸をそびやかして

……教官、巨乳?

そびや‐か・す【×聳やかす】

[動サ五(四)]そびえるようにする。肩などを、ことさら高く上げる。「肩を―・して歩く」
(「デジタル大辞泉」より)

うん、言いたい事はだいたいわかるけど……
ま、いっか。
アバター
2011/10/31 02:17
この結束感・・・他もそうかもですが、でもやっぱりジエン戦だからこそって部分もありますよね
それぞれの役割分担やお互いへのサポート意識・・・
相手が強大で、特殊なクエストだからこそよく見える部分がある気がします
特に今回のはジエンも普通じゃないですし

いやぁ、ミーラルさん・・・かっこいいなぁ この局面で踏み出せるのは本当に強い
そして教官・・・読んでる側としても、こんな状況でもこの人いると安心感が・・・
きっと、ここから何かあっても、このオッサンならみんなを助けて導いてくれるんだろうな って
この章もいよいよクライマックス・・・楽しみにしております!
アバター
2011/10/30 23:21
さすがにしんどくなってきました…。
なんとか今日中に、決戦ステージ書きあげました。あとは明日、エンディングを書くだけです。
締め切りは守ります。それがニコプロの矜持というものです(´Д`)φ

書いていて何度も自己嫌悪、モチベーション下がりに悩まされましたが、稚拙だと自分でわかっているけどこれが今の自分の実力なんだから仕方ないorz

それでも面白いと言ってくださる方には、本当に感謝感激です。ありがとうございます^^
脱稿は明日の予定ですが、アップは、一日一回にしときます。一気だと読むの大変かと思いますので。

予想通り長くなってしまいましたが、最後までお付き合い頂けると幸いです。



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