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モンスターハンター 勇気の証明~五章 29

【かつてない危機】

 細かな砂にけぶる空間は、もはや地平線と空の領域があいまいだ。しかしはっきりと、コハルが示した方向にジエンの影が浮かんでいた。
「奴はこちらを意識している。距離が縮まればすぐに攻撃してくるだろう。いつでも回避できるよう備えておけよ」
 教官が船首に立って言った。
 思わず船尾を振り返り、ユッカが不安そうに眉をひそめる。
「砂嵐があんなに近づいてる……! 追いつかれない、わたし達?」
「まさに前門の狼、後門の虎だニャ。こればかりは、嵐の機嫌次第だニャ」
 舵取りをしながら、ランマルが皮肉に笑った。笑ってる場合じゃない、とユッカは小言を言いたくなったが、笑うしかないランマルの心境も察せられて、何も言えない。
 高さ五十メートルを超える長大な砂の壁は、まるで船を呑みこもうとするかのように肉迫していた。距離はおよそ三百メートルといったところだろうか。
 物言わぬ巨大な砂煙にユッカはぞっとした。視界はますます悪くなり、昨日は見えていた青空も、今は切れ端がところどころ覗くくらいだ。
 前にはジエン、背後には砂嵐。先人達は皆、この恐怖に耐えて戦ってきたのだろうか。
「ジエンが背中を丸めましたニャ! 岩が来ますニャ!」
「総員回避~!」
「――っ!」
 見張りのコハルが悲鳴のような声で報告する。教官が怒鳴り、全員船尾の方へ走った。ジエンの飛ばす岩つぶては、驚くほど正確に敵を狙うのだ。それで沈められた船は数知れない。
 数秒の間をおいて、恐ろしい唸りを上げて飛来した岩塊は、轟音を立てて甲板を直撃した。隕石落下かというくらいの音と衝撃に、グロム達は生きた心地もしなかった。
「ミーラルは撃龍槍の用意! 手の空いた者は、甲板の岩をどかせ!」
 再び教官が指示を飛ばす。ミーラルが船首へ走り、グロム達は力を合わせて大岩をどかしにかかった。
 千の鯨がわめくような雄叫びが聞こえてきた。ジエンだ。こしゃくな敵を潰そうと、砂の中を泳いでこちらへ向かってくる。
「二回目に奴が牙を見せたところで発射するんだぞ! 間違うなよ、早すぎても遅すぎてもダメだ!」
 グロム達と岩をどかしながら、教官が叫ぶ。撃龍槍のスイッチの前でハンマーを携え、ミーラルは必死でその言葉を反芻(はんすう)した。
(二回目に牙が見えたところで……。早すぎても、遅すぎてもダメ……って、ど、どっち?)
 ミーラルは混乱した。極度の緊張とプレッシャーで、全身がぶるぶると震えてくる。手にしたハンマーを取り落としそうになり、慌てて両手に力をこめた。
「二回目の牙、二回目の牙……!」
 呪文のように繰り返していると、砂の中から鈍い咆哮があがった。ジエンだ。船の五十メートル先で、長い牙を誇示するように上半身を覗かせる。
 また、その身体が沈んだ。次だ、とミーラルは強張った面持ちでハンマーを握りしめた。
 再び咆哮があがる。どおおっと、目の前の砂が津波のように盛り上がった。
 大きい――。風化した大理石のような腹が、目の前に伸びる。ジエンが立ち上がったのだ。
 太陽をも呑みこみ空を覆いつくすかのごとき影が船全体を覆う。ミーラルは一瞬、自分がどこにいるのかさえわからなくなった。思考が飛んでいた。
「ミーラルッ!!」
「槍を――!」
 背後でグロムとユッカの絶叫が響いた。気がつくと、ジエンが巨体を船首へ投げだそうとしている。ゆっくりとのしかかってくる暗い壁に、ミーラルは何かわめきながらハンマーを振り下ろしていた。教官が怒鳴った。
「バカ者、遅いッ――!!」
「え――?!」
 ミーラルは青ざめ、目を限界まで見開いていた。

 茫漠とした砂原に、高々と砂の柱が立った。
 すぐに沈むように柱が落ちると、そこにわずかに見え隠れしていた船影が、押し迫った砂の壁に呑みこまれていく。
 彼方で砂の風にまぎれ、戦いの様子を一部始終監視していた古流観測隊の船は、自身も砂嵐に呑まれる前に船首を返した。

アバター
2011/11/03 09:08
グロムが先輩として誰かに教える話も、いいですね~。
今すぐとは申しませんが、そのうち読めたらいいなと思ったもので。
今は、最終章頑張ってください!楽しみにしています!^^
アバター
2011/11/02 17:41
う~む。
私がですか。
今の終章でも四苦八苦しているので……。
でも面白そうな話ではありますね。
終章の後、数年後。
グロムが新人を従えてジエン狩りに挑む設定になりますか。
アバター
2011/11/02 08:58
イカズチさん、コメント感謝です。

ほんと、それもかなり捨てがたかったんですよ…。ジエン狩りのギャグ。
でもシリアスな設定とムードになったので、入れられなくなっちゃいました;;

あの、よろしかったらぜひ、イカズチさんが改めて書いてみるのはどうですか?
この戦いの翌年、またジエン狩りに来たグロム達が…という感じで。
イカズチさんの書いたジエン狩り、読んでみたいです^^
アバター
2011/11/01 22:41
そうでしたねぇ。
教官の
「いまだっ! 飛び乗れ!」
と言う合図と共にジャンプした三人が悲鳴と共に砂海に流され
「と我輩が合図をしたら飛び乗るように。……せっかちな連中だ」
と言うギャグも有ったんですが。

シリアスはシリアスで読み応えがありますので構いません。
次回が気になるところですねぇ。
アバター
2011/11/01 09:08
トゥさん、コメント感謝です。

そうなんです。二回目に牙が出た、その瞬間スイッチです!

実はこのシーン、つい先日トゥさん、GRさんとイベジエンに挑んだ時の様子がもとになっています。
トゥさん、槍を起動させるの遅れたでしょ?あれです。
槍は刺さったけど、ダメージ受けちゃってて。あー、やっちゃったな、と^^;
慣れないとよくあるミスなんですよ。
それだけに、初心者はドキドキものです。緊張します。槍が刺さらないと、船体のダメージもでかいですから。

実はイカズチさんと、この回について内容をご相談したときには、もっとギャグタッチだったんですよ。
でも、ストーリーの流れでそうできなくなって、こうなりました。
俺ってコメディ苦手かもしれないです(苦笑)


ところで、この前の章のタイトル、この回の続きになってますけど、それは別媒体で一気書きしたから一個の章だったのですが、こうして分けたら別ものになってますよね^^;
前回のタイトル、こっそり変更しておきます。
アバター
2011/10/31 22:51
二回目の牙! そうか、そのタイミングなんですね。参考になりました。

と、タイミングを理性的に把握してなかったわけですが……あは、ははは。
ご一緒したときは命中してよかったです。
フィーリングで槍を発射していました。でもその感じ方が、まさに蒼雪さんの描写のとおりなんです。
船の前方から近づいてくるジエンが、ぐうっと頭をもたげて立ち上がる。その瞬間よくわからなくなって、ふと思うんです。
あ、これはヤバイ。
このまま見過ごしていたら船が大変なことになりそうで、何もしないでいることに耐えられなくて、スイッチを叩いて。はじめてのジエンはそんなかんじでした。
あの場面こわいですよー、いろいろな意味でw

ましてやミーラルが対峙したのはヌシですもんね……それにしても、どうなっちゃったんでしょう!
続きが気になります。はらはら。



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