Nicotto Town


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モンスターハンター 勇気の証明~五章 30

【砂上の決戦】

 時間は、ゆっくりと流れている。
 あれから一日経ったのはわかっている。でも、誰もそのことを口にはしない。皆、疲れた面持ちで砂の上や甲板に座り、マントに顔を埋めて、いずれ来る戦いをひたすら待っていた。

 ロックラックの街から数キロ離れた所に、砂止まりと呼ばれる、流砂がない場所がある。
 あたかも海に浮かんだ小島のようなそこは、古龍観測隊の拠点になっている。といっても、常時人がいるわけではない。必要に応じて前線基地となるだけで、建物といえば、巨岩を利用して作った物見櫓ぐらいだ。
 撃龍船は、物見櫓とわずかな岩場の間に押し込むように、横向きに停泊している。
 ぼろぼろになった船は、半ば砂に埋もれていた。嵐はやんだものの、休むことなく吹き続ける風が砂を運び、無情にも彼らを埋め立てようとする。
 左舷船首から突き出した撃龍槍にも、砂が積もっていた。
 こうして生きていられるのが、不思議なくらいだった。
 撃龍槍を任されたミーラルがタイミングを逃し、敵が船にのしかかった時、誰もが死を覚悟した。
 しかし間一髪で槍が起動し、相手の腹を貫いたことで、大破は免れた。船を完全に押し潰す前に、ジエンが痛みにのけぞったためだ。
 だが、半分ほど巨体の重圧を受けた船体のダメージは大きく、その後襲ったジエンの砂柱と、後方に迫っていた砂嵐の直撃に耐えられたのは奇跡だった。
 嵐で帆が破れ、操船不可能になっていたが、幸いにも砂の流れに乗り、ここへ打ち上げられたのだ。
「腹へったあ……」
 誰ともなく、舷に腰かけたグロムがつぶやく。皆、黙っていた。朝から水以外、何も口にしていない。船に積んでいた食料は、船体の脇に空いた穴からこぼれてしまっていた。穴自体は小さかったのですぐ塞ぐことができたが、ほとんどの水と食べ物を失ってしまったことは、全員の心も塞がせた。
「来るかな、ジエン……」
 乾いた声でユッカがもらした。「来る」と、一人彼らの前に立って彼方を見すえていた教官が言った。
「奴は来る。かたくななまでに、ジエンは道を違えん。たとえ泳げなくなっても、這ってでも前へ進むのだ。それが、ジエン・モーランという生き物だ……」
「ただ、前へ……か」
 砂を含んだ風がミーラルの頬をなぶっていく。あおられた長い髪に艶はない。お風呂入りたいな、と、ぼんやり思った。
「あれ、ジエンとちゃいますニャろか。一キロくらいかニャ~、こっちに大きいのが来ますニャ!」
「んっ――?」
 見張りをしていたコハルから双眼鏡をぶんどり、教官はしばらくそれを凝視していたが、やがて少年達を振り返り、にやりと笑った。
「来たぞ。ジエンだ」
「で、どうすんだよ?」
 グロムはおっくうそうに腰をあげる。教官は黒い剣斧を肩に担ぐと、こきこきと首を左右に回した。
「きまっとる。ここから走っていって、奴を止めるのだ」
「げーっ。まじかよ?」
 グロムをはじめ、皆あぜんとした。撃龍槍でも倒せなかった敵に白兵戦など、無謀にもほどがある。
 だが、教官は笑みを崩さなかった。
「ふん。貴様らは、こういう状況は初めてのようだな。――覚えておけ」
 正面に向き直ると、教官は一人一人の顔を見つめて言った。
「――狩りに必要なもの。それは決して、強い武器や防具などではない。それらに勝るのはただひとつ。折れない心――すなわち、勇気だ。冷静に状況を見極め、決してくじけることなく戦いを挑んだ先に勝利は見える」
「んなの、きれいごとだろ?」
 ぼそりと、グロムが言った。
「棒きれでモンスターには勝てないだろ。武器は要るだろ、人も要るだろ。俺達にはその、どれもねえだろ……」
「……確かにな。だが、奴に人海作戦は通用しないのだ」
 怒りもせず、教官はグロムを見やった。
 ジエン狩りに赴く撃龍船。それにサポートとして同伴するあまたの下級ハンター達が、なぜグロム達の船に付かなかったのか。
 理由は語るまでもない。
 あまりに強大な敵を前にしては、彼らの力など霞のようなものである。多くの犠牲を出すくらいなら、初めから強い切り札を出すのは至極当然のことだ。
 人死には少ない方がいい。決断を下したギルド長は賢明であり、また、冷酷だと言えるかもしれない。しかしそれも、五年前の悲劇があったればこそだ。
「まだだ。まだ負けてはいない。武器はある、撃龍槍はまだ動く。銅鑼も拘束弾も使える。そして何より、我らがいるではないか! これ以上の希望はない!」
「教官……」
 こんなに頼もしい人だっただろうか。グロム達は立ち上がり、彼を見つめていた。怖じることなく、教官は彼らの眼差しを受け止めた。
「さあ、行くぞ! 意地でも奴を止めて、我らの狩り魂を見せるのだ!」
 突撃――! 
 教官が吠え、オトモをのぞく全員が目標へ向かって走り出した。
 勝つために、生き残るために。

アバター
2011/11/03 09:14
数値の経験値がないけど、リアのプレイヤーの経験値は確実にありますよね。
今、2人目のキャラ(女の子)を作って新しくプレイしているのですが、初めてプレイした時はあんなに苦労した敵が、弱い装備でも4分以内に倒せたりして、自分でびっくりしています。
あれ?こんなに弱かったっけ?って。
ちゃんと弱点をついて、的確にダメージを与えていれば、余裕で倒せるようになってるんですね。
つまり、腕しだいだと。
自分の成長をリアルに実感できるところが、本当に素晴らしいゲームですよね。

経験大事ですね。モンスターを狩った数だけ着実に何か得ていますよね。
かくいう俺も、この小説のためにジエンを狩りまくり、今じゃソロで上位イベクエのジエンをクリアできるまでになりましたよ…。
アバター
2011/11/02 17:50
モンハンに経験値と言うパラメータはありません。(そこが良いっ!)
しかし、現実にゲーム中の狩りは、経験がモノを言います。
ジエンはその最たるもので『飛び乗ってヒレを壊す』『爆○+バ○スタで牙をへし折る』『激竜槍のタイミングは』など知らないでチャレンジすると村ジエンもクリアが危ないでしょう。
グロムたちも数年を経たハンターであり、ユクモを護る為に毎日必死に狩猟生活を送っているわけですから、経験を積み、強くなっていても納得できるんじゃなでしょうか。
まぁ、一騎当千とは行かないでしょうが、そこは気心の知れたパーティーと言う事で。
アバター
2011/11/02 09:15
イカズチさん、コメント感謝です。

おおっ、次章にも教官が出ているんですか?楽しみです~!
教官は、カッコよさと悪さが両立するキャラなので、次章で思い切りかましていても大丈夫だと思いますよ!
訓練所の教官はカッコいいですよね。そのイメージを崩さないようにしました。
初心者講習の教官は、ちょっといい加減ですけどねw 
アドバイスの欄での、フェイスアップ…よく見たら温泉に浸かってます。HDで見て初めて気づきました。人が訓練してるときに、この人さぼってますよ。おいおい、ってwww
決める時は決めるキャラなんですよね、教官は。

決戦シーンを書く時に悩んだのは、「どうしてグロム達だけが奴に勝てるのか」という理由でした。
で、突き詰める所つまり、「それだけの能力・資質があるから」となりました。
ドラクエの勇者みたいですけど、そういう世界なんですよね…実力主義。
オリンピックなどの競技に例えるとわかりやすいかも。同じスポーツはできても、誰もがランカーと同じ記録は出せないですよね。それと同じです。
また、この決戦ステージは、唯一無二のものとして書きました。ゲームだと毎回同じシチュエーションですが、彼らだけのドラマだったんだ、と。アリス達はこういう状況下で戦ってないんです。
そう考えると、より意味深くなるのではないでしょうか^^


2G、そのうち買いたいと思います。安い店はないかな~。
アバター
2011/11/02 09:06
いちごさん、コメント感謝です。

一気読みされたのですか!大変だったでしょう、お疲れ様でした~^^
俺も書き終わるのがさびしかったですが、なんとか終われてほっとしていますw
ここまで読んでくださってありがとうございました。
最終回まであと少し、どうぞよろしくお願いします^^
アバター
2011/11/01 22:48
うう~む。
あんまり教官をカッコ良くしちゃうと次章でのギャップが……。

巨大古竜種を見ると、確かに『あんなでかいモン、どうやって倒せっちゅ~ねん』とツッコミたくなります。
いずれアドホで2ndGが出来たら蒼雪さんに『ラオシャンロン』とか『シェンガオレン』とか見せてあげたいなぁ。
アバター
2011/11/01 12:53
いよいよ決戦ステージですね☆教官カッコイイ♪

まとめ読みしたのでかなりの読み応えでした~
5章終わっちゃうのかぁ・・・寂しいなぁ



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