モンスターハンター 勇気の証明~五章 31
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/30 23:05:21
【起死回生】
巨体に見合わぬ小さな前足で、ジエン・モーランはゆっくりと地面を這い、前へ、前へと進んでいた。小さいといっても、人間には巨木のような前足である。一歩がとにかく大きく、まるで小さな山が移動しているようだ。
「奴の弱点は前足だ! 堅殻(けんかく)が剥がれるまで叩け!」
教官が怒鳴り、腰を入れて斧を巨大な右足に叩きつける。その傍らでユッカが、ライトボウガンで氷結弾を連射した。ジエンの体表は冷気に弱く、過度に冷やすともろくなることが知られている。また、教官の持つ斧は龍族の組織を壊す波動があり、これもジエンによく効くとされている。
反対側で、グロムがガンランスで斬りつけ、ミーラルが狩猟笛を振り下ろしている。
まるで山を相手に武器を叩きつけているようだ。叩いても叩いても、ヒビすら入らない。
激しい徒労感に苛まされながら、それでも全員攻撃するのをやめない。
「くっそおお、止まれ、止まれ、止まれええー!」
わめきながら、グロムは何度も砲撃を撃った。しかし、ジエンは構うことなく足を前に下ろす。太古からずっとそうしてきたように。
何気ない動きだが、かすっただけでグロムは軽々とふっとばされた。どっと数メートル先に落ち、したたかに背を打って、グロムは嘔吐(えず)いた。
「グロムッ!」
ミーラルが駆け寄ろうとするが、グロムは無理やり肘で上体を起こして、来るなと叫ぶ。
「俺に構うな、攻撃続けろッ! 船壊されたら、終わりだぞッ!」
ミーラルが泣き出しそうに顔を歪めた。そして、迷わず背を向けて前足へ攻撃を続ける。
「うううっ――!」
曲のない笛なんて、ただの棍棒だ。ミーラルは歯噛みした。ジエン追突の混乱で、旋律を記したカンペはなくしてしまった。覚えている旋律は一曲だけだ。しかし慣れないせいで、いつまでたっても思うように音が出せない。
狩猟笛は、一定の角度と方向に振り回すことで空気を取り込み、音階を奏でる。少し振り回す回数を間違えただけで余計な音を鳴らすので、非常に扱いが繊細なのだ。
出だしはもちろん、途中で一音でも間違えると、旋律の効果は発揮できない。
所詮がさつな自分には向かなかったのか。ミーラルが悔し涙を滲ませて振り回した時、ふっと笛が鳴った。――この最初の音。ミーラルははっとした。
(この音。あの曲のだ!)
間違えたら終わりだ。ミーラルは心臓が緊張に跳ね上がるのを抑えられなかった。自分がこんなにプレッシャーに弱い人間だなんて、知らなかった。
(くそっ、手、震えるな!)
ぎりっと歯を食いしばると、ミーラルは己を叱咤して笛を振りかざした。
グロムがようやく立ち上がった。よろめきながら、くそっ、と舌打ちする。
「腹さえ減ってなけりゃ、こんな戦い、――っ?」
「え……? 何、この曲……。何だか、力がわいて来るみたい……!」
氷結弾の速射を止めて、ユッカも風に流れる旋律に聴き入った。教官が、にやりと髭面を笑ませる。
「ドヴォンヴァが、なぜ天使の奇跡と言われるか。それが、この旋律だ。この波長は丹田を活性化させ、無限の活力を生み出すとされる。これさえ聴いていれば腹も減らず、疲れることもない。しかし奏法は複雑で弾きこなせる者は少ない。ミーラルの奴、やるではないか!」
「ミーラル、お前……」
一心不乱に曲を奏でるミーラルの姿に、グロムは呆然と見入っていた。だが、ユッカの悲鳴に近い声で我に返る。
「どうしよう、間に合わない!」
船が、とユッカが叫んだ。ジエンと、最後の砦である撃龍船との距離は、もう百メートルを切っていた。甲板に待機している小粒の影は、ランマルとコハルだ。そしてその向こうには、白く姿を現すロックラックの街。
船が壊されれば、街へ帰ることができなくなる。歩いて流砂は渡れない。それに何より、ロックラックへこの怪物を通す羽目になる。それだけはあってならないことだった。
「くそっ、どうすりゃいいんだよ!」
やけっぱちにグロムがわめく。
「勝てるか、こんなの! できるわけねえだろッ――!」
「――走れ!」
叫んだのは、ミーラルだった。笛で再びジエンの足を叩きながら、声を限りにグロムを怒鳴りつける。
「走れ! 船へ急げっ!」
「船っ――?」
「そうだよ、お兄ちゃん! 船だよ! あれを使うの!」
「――そうか!」
ユッカが指さすと同時に、グロムは疾駆(しっく)していた。くるぶしまで沈む柔らかい砂も、重い装備も気にならない。ミーラルの笛が力を与えてくれたのだ。
「待ってろおお! ジエーン!」
全力で走りながら、グロムは絶叫していた。
書き忘れましたが『時間の単位』も大事です。
例えばファンタジー世界で
「あと三分ほどだ!」
とかキャラに言わせてしまうと、それだけで現実に引き戻された気になりますから。
やっぱり異世界を描くのって難しいなぁ。
メートルで良いと思いますよ。
モンスターの全長調べていて、あ、メートルでいいんだと知りまして。
時刻の方は、俺の作中では「~の刻」って出しましたが。
あと、船の速さもノットにしました。新たに設定するのが大変なので^^;
ゲームで詳しく述べられていない点は、こちらのオリジナルを通しても良いと思います。
世界観を決めるものとして、単位は大切ですよね。
読みやすさが大事なのですが、あまりこっちの世界と同じのを出すと、バーチャル感が失われてしまいますし。悩みどころでもありますが、部分的にこっちと同じでもいいんじゃないかと…^^;
メートルがあるから、ノットでもいいや、といういい加減な気持ちで書きました、すみません(苦笑)
一人ボケツッコミのようですが『メートル法』で間違え無いと思います。
モンスターを現す全長の単位で『m』と記されていますので。
ひょっとして蒼雪さんも調査済みだったですかね?
結構、結論が出るまで苦労して調べたんですよ。
別世界を描くときに注意しなければならない点として上げさせて頂きました。
他にも『重量の単位』『通貨単位』『速度の単位』など気にしなければならないモノは多々あります。
他の誰かにツッコまれる前に書いとこうと思いまして。