モンスターハンター 勇気の証明~五章 34
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/31 15:12:22
【そしてまた、前へ】
「ユッカ~、もう元気だせよ……」
背を丸めてふさぎこむ妹に、グロムは困り果てていた。
街を出てからずっと、ユッカは元気がない。村に戻っても、こうして思いつめたように溜息ばかりついている。両親も心配し、ミーラル達も同様だ。
ここは兄として相談に乗ってやるべきだと皆から背を押され、やむなくグロムは妹の部屋を訪ねたのである。
「……いんだって」
「え?」
ベッドの上で膝を抱えたユッカは、しゃくりあげながらか細い声で言った。
「なれないんだって。女は、ギルドナイトに」
「ユッカ、お前……」
グロムははっとした。本部で賞状をもらったあとのことだ。別れ際に、ユッカがロジャーに駆け寄り、何か話しかけていた。皆気を利かせて離れていたので、内容はわからなかったが――そういうことだったのか。
「えーと、その、なんだ……。し、仕方ねえよ、それは……」
妹が失恋したっていうのに、兄として満足な言葉もかけられない。
だからここは、女同士でミーラルか、ユッカが全幅の信頼を置いているランマル先生が適任だったのだ。
と、グロムが内心やきもきしていると、ユッカが、ぐすっと大きく洟をすすった。泣きすぎて、鼻の頭が真っ赤だ。
「――どうして女の子に生まれちゃったんだろう。わたしも、男の子だったらよかったのに」
「え……」
おいおい、それって。まさか、ロジャーは女に興味ない奴だったってのか。それはもう、女がナイトになる以上に見込みがないだろう。
どうすりゃいいんだ、と、落ち込む妹を前に、グロムはますます狼狽した。すると突然、ユッカが泣きはらした顔をあげて、がばっと兄に抱きついた。
「わ、おい、ユ、ユッカ!」
「お兄ちゃん! わたしも着たかったよぉ。ナイトの服、着たかったよ~!」
「……へ?」
激しく泣きじゃくる小さな肩を抱いて、グロムはきょとんとした。ぐるぐる回る思考をようやく整理して、妹が何を言いたかったのか、やっと理解する。
「……それだけ、か?」
「……え? 何が?」
「いや。なんでもない」
目を丸くするユッカに、グロムは慌ててかぶりを振ってみせた。
ユッカがロジャーを見てときめいていたのは、彼そのものではなく、服装だったのだ。
頬を隠す長い前髪が特徴のディアスタイル、凛々しい眉に筋の通った鼻梁、やや厚めだがひきしまった唇、均整のとれた体……。
ロジャーの姿を一目見て、同じ男なのに気遅れしたグロムだった。妹が惚れるのも無理はないと、内心苦笑しつつ寂しい思いもしていたのだが。
でも、今のユッカには、服装とおしゃれしか興味がないらしい。
服の種類が極端に少ないユクモ村育ちのため、ハンターとして多彩な装備をするようになってから、急激におしゃれに目覚めたようだ。
このまま異性を無視しておしゃれ一筋に走らんだろうか、と行く末が少し不安になったが、傷ついた原因が原因なので、ちょっとほっとしてもいた。
ハンター界に男女の差別はない。ギルドナイトにも女性はいるだろう。
優しいあの男は、過酷な責務と危険に妹を巻き込むまいと、嘘をついたのだ。
グロムは、ユッカが泣きやんだところで、にっと笑いかけた。
「――行くか、ユッカ」
「――で、大連続狩猟に行くわけね」
ギルド集会所で、ミーラルが腰に手を当て、笑った。仕方ねえだろ、とグロムが肩をすくめてみせる。
「オトモ装備なら、どんな服装でも作れるって、モミジィが前に言ってたからよ。それ思いだしてさ」
二人から少し離れたところでは、ユッカとショウコが出発を待っている。つきあわされるショウコは半ばあきれ顔、ユッカはうきうき顔だ。
「先生、待っててね! たくさんチケットもらって、必ずナイト装備作ってもらうから!」
「そ、そんな動機で狩りにいくんじゃないニャ……まったく。ユッカがコスプレマニアだったなんて、ボク知らなかったニャ……」
見送りに来たランマルの両肩をつかみ、目をキラキラさせるユッカに、ランマルも皆も止めるすべがない。
「まあ、元気になってよかったわ。なあ?」
傍に来たグロムとミーラルに、ショウコが苦笑してみせた。ははは、と二人も笑う。
「そだな。みんな元気が一番だ」
「うん。みんな、笑っているほうがいいよ」
にこやかにミーラルが言う。ふっと流れた柔らかい空気に、皆が微笑んだ。お互いを結ぶ、確かな信頼を感じて。
「――じゃあ、行くか!」
グロムが言い、全員うなずく。その誰もに気負いなどない。だが彼らを知る者は、その表情が、旅立つ前よりはるかにたくましくなったことに気づくだろう。
人は、成長する――。
受付のカウンターの上で、瓢箪に入った霊水をあおりながら、ユクモ支部長ことギルドマネージャーの老人は、狩りに赴く若者達の背を見送り、まぶしそうに目を細めた。
五章・完
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました!そしてお疲れ様でした!
大満足とのお言葉、とてもうれしいです。
書いている途中は、これでよいのかと悩んだり落ち込んだりもしましたが、キャラに助けられつつ最後まで行き着いた気がします。まるで自分が旅をしているかのようでした。お読みになった小鳥遊さんも同じ気持ちを抱かれたようで、なんだかうれしいなあ。
この物語は主人公たちの成長の記録なので、各所に大人からの視点を入れようと考えていました。
試練を乗り越えて一段とたくましくなったグロムたちを見守る、慈父のようなギルドマネージャーの描写は、こちらも気に入っています。
おっしゃるとおり、3人称ならではですね。群像劇なので、どうしても3人称のほうが書きやすいというのもありますがw
1人称だと場面が限られるので、こういう冒険ものには重宝しますよね^^
ここまで読み終わって……大満足です!
冒険譚って、読んでいると本当にわくわくします。
登場人物たちと一緒になって、私も一つの旅を終えたような気分になっています^^
この作品に出てくる少年、少女、それから大人たち……みんな好きです。
あ、オトモも~~^^
第五章の締め括り、最後の二行がいいですね~~。
こういう描写を入れらるのは、三人称ならではですね。
主人公達をクローズアップしていたカメラが、すうっとロングショットに切り替わっていく感じがして好きです。
第五章一気読みお疲れさまでした!
感想ありがとうございました。楽しんで頂けて良かったです^^
ジエン戦は船での特殊戦闘なので、ちょっと戦争物に近いイメージで書きました。
戦記物のプロであるアイマールさんにダメだし喰らわなくて良かったですw
自分でも危ういシナリオバランスなので、突っ込み覚悟していたんですが…^^;
最後のユッカの恋愛話のくだりも狙い通りでしたww
ユッカはおしゃれ好きが度を越した天然…とイメージしていたんです。
が、ロジャーを登場させたあと、あれこれ想像を巡らしていたら、「ロジャーとユッカがくっついても良いのでは?」とも思い始めまして…。
でも、ロジャーはアリスの方がお似合いだ、というイカズチさんの意見もあり、二人の恋愛は陽炎の彼方に消えましたww
この後、「本当は、ユッカはロジャーに一目ぼれしていた。グロムに言ったことは、実は嘘でした」という小話を書こうかなと画策していたんですが^^;
ロジャーが男好きっていうアイデアも、当初はあったんですよ。実はww
ロジャーは教官が好みのタイプで、だからユッカはふられたっていう…w
なんかそれも面白そうなんですが、話の流れからロジャーはホモじゃないほうがいいと考え直して、こうなりました。
ロジャーが男好きだからユッカがふられるのって、ユッカがかわいそう過ぎる気がしませんか?だからボツにしたんです^^;
そもそも、ロジャーは読者さんへのサービスキャラとして考えてるので、誰かと一緒にはならない設定ですw
さっき、イカズチさんのことろで第4章も一気読みして着たんですよ。
続けて読んだから前の章の内容を忘れてない分、速読に近かったかも。
それはそれで勿体ない事しちゃったな~と、ふと気付いたけど…、、もう後の祭り。www
もうちょっとゆっくり読めば良かったなぁ、しまった~…。
第5章が全シリーズで(今の所)一番好きな章です~。私好み♪
こういう会戦みたいな集団戦って、すんごいツボなんですよ。
討伐前夜から討伐出発にかけてのシーンが特に好き♪ 読んでて血が騒ぎました。いや~ん♪
モロ、私の趣味です~。もしかして、私のために書いてくれたとか? ← 違います。www
途中で「ヤマウド、ハグドム、バサム」の懐かしのむさ苦しいトリオが出てきたのも嬉しかった
ですねぇ。
でも、ホントにちょっとしか登場しないけど。www
ファンサービスの顔見せのみってのが、逆にナイスでした。www
最後の、ユッカの失恋の下り、2度騙されましたわ。www
何、ロジャーはゲイか! って食い付いたらただの思いやりで、しかもユッカは失恋じゃなく
てただあの制服着たかっただけって!
う~ん、見事に騙された。www
そっか~、ユッカはコスプレマニアか~。
…ランマル、がんばれ♪ ( ̄m ̄*)プッ
え~、ユッカって動かしにくいキャラだったんですか?
私、一番好きなキャラなんですけど、意外~!
大丈夫ですよ~、ここにめっちゃファンが居るんで。この子のやる事は何でも許す!www
あらためて「英雄の祭り」を見てみたら、2Gの人もたくさん出てることに気がつきました。
村長さんとお酒飲んでる女性、2Gのギルマネの女性だし。
プーギ―の服とか、スカラ―、メイド装備など、前作からやっている人へのサービスが多いのですね。
見た人は、きっとにやりと笑っちゃうんだろうなあ。
モンハンで広がる友達の輪…狩り友にもなってくださって嬉しかったです!
また次回の狩りに行きましょうね!
ユッカに共感していただけて、生みの親として嬉しいかぎりです。実はちょっと動かしづらいキャラでして、毎回「これ、反感買われないだろうか?」と心配でした。
ギルドナイト装備はカッコいいですよね!ぜひ、男キャラも作って、そのカッコよさを堪能して頂きたいです。顔はもちろんイケメンで(笑)ロジャーのなりきり気分に浸れます。
「英雄の祭り」で肉買ってる女の子の装備は、前作ですね。mhp2Gで見られます。
その名もずばりメイドシリーズw
2Gは装備豊富で、見た目がとてもいいです。今なら中古で600円とかで買えるので、興味がありましたらプレイをおすすめしますよ。アドホでも入室できるようですし、こちらでもみんなで狩りに行きたいですね!手伝ってもらいたいクエスト山積みです、あはは…(^∀^;)
12月にニンテンドー3DSで3Gが出るので、これ以上3rdで装備追加はないでしょうね;;
3rdG、pspかps3で出ないかなあ…切に希望します><
エピローグは、構成上どうしてもこうなりました。本で読むなら、数ページにまたがって一段落で終わる感じなのですが、これだと回数で分けないとならないので、別々に見えちゃいますね。
でも、冒頭で教官をメインキャラにしたので、最後もしめてもらいました。伏線の大風呂敷を閉じる役目の人です^^;
教官と狩りに行けたら楽しいでしょうね。ふだん、すごく暇だって言ってましたから(2G訓練所で)
誘ったらすごく喜ぶんじゃないでしょうか。でも規則で同行出来ないんだと思います。残念^^;
モンハンという素晴らしいゲームをすすめてくださったこと、また、こうしてリレー小説を書く事を快諾してくださったこと、それからアドホでも…大感謝です。
ちょっとおおげさですか?いえいえ、それくらいのものを頂きましたよ。
この数カ月、ゲームも小説も本当に楽しかったです。久々に楽しんで書けました。そのことは大きいです。
ユッカは男装にもあこがれていたようです^^;
男向けの装備がぶこつでダサい中、あれは革命的にかっこいいですから。新鮮に映ったんでしょうw
似合う似合わないの問題ではなく、「ただそれを着てみたい!」という執念のような感じでしょうか。
称号はもちろん「おしゃれハンター」
花よりだんごって感じで、コスプレ命、色恋にはまだほど遠い天然キャラ…というイメージです。こういうのは好き嫌いが極端に分かれるものですが、皆さんには嫌われていないようでほっとしました(笑)
プライベートシリーズって、フロンティアですね。3rdGがPSP(もしくはps3)で出て、装備追加になってくれないかなあと思う今日この頃です。
2Gは装備やモンスターの種類が豊富で、とても遊びごたえがありますね。女の子キャラで進めているんですが、いや―楽しいw女の子万歳!w見た目重要です、目の保養です。殺伐とした狩り場の清涼剤。
3rdにユッカを作ったんですが、まだ弱くて使い物になりません。が、いつかお披露目したいです。
ショウコの恋愛模様、見てみたいですね。毎回恋相手が出るけど毎回振られる話ってよくありますが、ああいう感じでしょうかね。俺が書いちゃおうかな。振られるパターンを考えるのが大変だ^^;
いよいよ最終章ですね。
最後まで書ききってなくても大丈夫です。こうして毎回感想もらって、それで内容変更なんてよくあることですし(俺がそうですが)
思わぬ良い方向に転がるかもしれません。マイペースで更新していってください。楽しみにしています!
グロムたちに続き、蒼雪さんもおつかれさまでした。
ユッカはすごーく共感できるキャラクタですね。ギルドナイトは憧れです。ギルドバードではいけないのです!
でも他の装備(リノプロ、レイア、etc.)でちょっぴり得をしているので泣きません。あはっ。
勇気の証Gは、もちろんオトモのナイト装備に使いましたw
ところで一番着たいのは、「英雄の祭」ムービーでお肉を買ってるふたりの女の子の装備……というか衣装。あれは前作のものなんでしょうか。
イベクエで作れるようにならないかなぁ、とずっと思っていました。未だに思っています。
エピローグが登場キャラクタを変えて二回という形、最終章を控えて、前章と対をなすようでいいですね。
特に温泉が出てくると、ああユクモに帰ってきたなぁと、読者のわたしも安心します。
小説を読むとアドホックがより楽しめて、アドホックをしていると小説がよりおもしろくなる。そんなすてきなお話をありがとうございました。
教官とも一緒に、狩りに行きたくなってしまいました♫
お疲れさまでした。
そうかぁ、ユッカはギルドバードの装備が……。
でもスカラーでも似合うでしょうに。
個人的には2Gでのヒーラー、もっと私の趣味に走ればメガネ付きプライベートシリーズもきっと似合います。
見てみたいなぁ。
全てがカップルになる閉じた世界感。
そうですね。
不自然さも感じます。
そう言った意味でショウコにも彼氏ができませんが、彼女の場合、昔書いた『女版フラレのイカズチ君』みたいな恋愛模様が目に浮び……。
哀れな娘だ。
とうとう私の番が来てしまいましたね。
では来週中に最終章をスタートさせます。
まだ最後まで行き着いていないので不安はあるのですが。
精一杯頑張りますのでよろしくお願いします。
思えばこの小説で知り合い、狩り友になれたんですよね。元はイカズチさんの原案から始まったもので、まれな出会いをくださったイカズチさんに感謝、感謝です。
ロジャーとユッカのてんまつについては、最初から考えておりました^^;
キャラ全員がカップルになる話がきらいなんです。世界観が閉じてしまいますから。
なので、この二人は永遠にシングル(読み手の想像にゆだねる)キャラです。
気にしていただいてありがとうございましたw二人も注目してもらえて嬉しがっていることでしょう^^
5章はGRさんたちとの思い出がそのまま取材になっていて、それだけにリアルなモンハンの狩りの様子が書けたのではないかなあと思います。ちょっとでも共感してもらえたら嬉しいかぎりです。
重ねてお礼申し上げます。ありがとうございました!
そして今後ともどうぞよろしくお願いしたい次第です^^
実は内心すごく気になってたんですよ ユッカがロジャーに向ける目が^^;
そこ回収してくれてほんとに助かりました やっと安心して眠れますw
5章の執筆、本当にお疲れ様でした
こうやって小説のなかの皆がいろんな経験をしながら成長していく様子を見て、
なんだか最近は自分のキャラにも以前以上に、そんなシナリオを思い描きながら
時にそれが彼らと重なることもあったりで、モンハンのモチベーションもあがってます^^
このところ定期的にみなさんとパーティでご一緒できることもあって、
第5章は特に情景を思い浮かべながら楽しく読めちゃいました ありがとうございます
久々に自分の書きたいように書けて、とても楽しかったです。
賛否両論、加筆修正の余地は多分にありますが、ここで筆を置きたいと思います。
貴重な題材を提供してくださったイカズチさん、最後まで読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました!
それでは、イカズチさんに最後のバトンをお返しいたします。最終章楽しみにしています!^^