契約の龍(37)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/25 11:33:56
何と答えたものだろう。
この人は、クリスを失うわけにはいかない、と言いつつも、もし、そうなったときのことを考えている。おそらくは、クリスの命までもが失われる事態さえ、想定しているのだ。
魔法を使う者の立場からすれば、制御することができないとわかっている幻獣を継承させるのは、無意味な行為だ。無謀だとさえ言える。
だが、王家を、血統を維持する立場からすれば、それは必要な事なのだろう。
「それは…その信頼は、ありがたく思いますが、だからと言って、彼女が身を委ねる相手として、俺……私を選んだ、という事にはならないかと」
抜け殻になったクリスの体を、ほかの男が抱くところなど、想像したくない。
ならば自分が…とも思えないのだが。
俺が気にかけているのは、王女クリスティーナではなく、
俺の名を呼び、自分の都合で俺を振り回す、クリスという女なのだから。
……どうやら、あのナイジェルの変態が伝染ってしまったらしい、な。
「とにかく、そういう事態にはならなければ良いのでしょう?…自分自身と引き換えにしてでも、彼女は、返す、と約束します。命さえあれば、とは俺には思えないので」
「…貴公は、存外感傷的な性質のようだな」
「恐れ入ります」
「そしてあまり「悧巧」でもなさそうだ。父親が、娘と交渉を持つことを、暗に認めているというのに、それを固辞するとはな」
「申し訳なく思います」
「クリスティーナは、そんなに魅力のない娘か?」
「私などには、もったいないほど。ただ、私は、意識のない者を相手に、そういう行為に及ぶ、という事は致しかねます」
「…なるほどな」
王が破顔する。
「では、どうあっても、貴公はあれを連れ帰らねばならぬな。頑張ってくれたまえよ」