【憂鬱と魚竜のキモ集め】

人生、イメージ力がすべてだという。
自分が幸福になるも、不幸になるも、すべて自分の想像力次第。
幸福になれる人は、将来の自分の幸せな姿を明確にイメージすることだっていう。

想像してごらん。ジョン・レノンは言った。
この世に天国なんてないんだ。その代わり地面の下に地獄もない。
ボク達の上にはただ空があるだけさ……。

……。
ああ、天国なんてないよ。でも言わせてもらうなら、今の俺の状況は地獄だってことさ。

炎天下の砂漠。果てしない乾いた大地のむこうで、ときおり揺れる陽炎。
ああ、熱い。暑いじゃなくて熱い。
だってクーラー切れちゃったんだもの。
どこのどいつだ、魚竜のキモを集めて来いと言った好事家は。
ふざけんな、採取だけど全然楽なクエじゃねえよ。

俺はガレオスが大嫌いなんだ。
まったくこいつだけは、絶滅希望種第一位に輝く。俺的ランキングで。

そんなの音爆弾使えば簡単じゃないかって？わかってるよそんなことは。
使いましたよ、ええ、的確にやつらを砂から引きずり出してやりましたよ。
そして剥ぎ取ってやりましたさ。

でも、なぜか「砂竜の鱗」ばかり出てくるんだ！
８匹狩って、肝が二つだけ。こんなにつらいことってあるか？

こいつがまた、倒すのに簡単な敵ならいいんだ。
ザコなんだから、おとなしく１～２撃で倒れれば良いものを。

なかなか倒れない。体力があるのだ。

しかも、図体がでかい上に動きが某ボスと同じときている。
砂吐きや這いずりなど、うっかり当たってしまうと大ダメージを喰らう。
ザコのくせに、ボスキャラ並みの強さなのだ。

俺は「シッポ回転」攻撃が苦手で、近接で行くと必ずと言っていいほど当たってしまう。
近接の基礎ができていないからなのだが、これを克服するまで、嫌というほどシッポビンタに当たった。
ガンナーにはタダの的でも、剣士にはうっとおしい攻撃のひとつである。

砂に潜行すると、すごい速さで離れて行く。
慣れないと、その動きに合わせて音爆弾を投げられず、無駄に消費するはめになる。
それつまり最初の俺なんだけど。

それでもなんとか狩って、剥ぎ取りをしても、これだ。
思うような結果が出ない。

俺の人生、いつもそうだよ。
何をやってもうまくいかないんだ。
むなしいことこの上ない。

ああ、残り時間もあと５分だ。音爆弾なしで、なんとか粘ってキモを集めてきたけれど、あと２つ足りない。
クーラーはとっくに切れた。じりじりと灼熱の太陽と大地が、オーブンのように俺を焦がす。
何度も回復薬を飲みながら、低い体力を維持する。
場所は、水辺のあるマップ１。
ここはせまいので、敵を捉えるためにかけずり回らなくて済む唯一の場所だ。
しかし、ゲーム開始直後はメラルーの溜まり場なので、すぐに利用できないのが難点である。

今回は爆弾専門の相打ち覚悟猫、イズミを連れてきている。
こいつが投げてくれる小タル爆弾のおかげで、何度か憎いあいつらを砂から出させた。
速攻で倒し、奴のはらわたを引きずり出しにかかる。
魚さばくのは苦手だけど、ここは失敗できない。

出てくれ、キモ。
お願いだから出て下さい。
あと３分しかないんですぅ。時計も真っ赤っか。大ピンチ。

そうだ、イメージイメージ。自分が成功しているところを映像化するんだ。
頭の中に絵を浮かべる。
「魚竜のキモ」
「魚竜のキモ」

……おお、出た！
次に倒したガレオスからも、最後の一個が！
やったーー！

すぐにモドリ玉を使い、キャンプへ帰還。そして納品。
無事にクリアだ。
危なかった。でもあきらめないで良かった。

人生、あきらめちゃだめだ。
イメージが肝心。

待てば果報も訪れよう。
良いこと起こるには、それなりの時間がかかるもの。
待たされる時間を、焦ってはいけないよね。

といいつつ、集会所で再び地獄を見る俺であった……。